異世界の保存食
お昼頃。すでに森を抜けて、広い草原になってる。木もところどころにあるけど、見晴らしは良好。ここで少し休憩していくらしい。
フランクさんたちが周囲を警戒している間に、同行者の人が馬車から出てきて準備を始めた。
ちなみに護衛以外の同行者は六人。御者台に座ってる三人も含めてだけど、これは多いのかな、少ないのかな。ちょっと分からない。
その六人は手際よく準備をしていく。折りたたみの椅子を二つ取り出したのは、ミリオさんとエリーゼさん用かな。貴族だしね。あの六人は特に座ることはしないみたい。
さらに火をおこして、お湯を作る。お茶か何かにするのかな。
『はえー。こういう時魔法って便利だな』
『火起こしを魔法、水を出すのも魔法、すげえ』
『一家に一人リタちゃん』
「なんで?」
私を巻き込まないでほしい。魔法使いがいてほしいっていう意味合いっていうのは分かるけど。
ご飯は……、なにあれ。
「フランクさん」
見たことがないから、少し離れた場所で警戒中のフランクさんに声をかけた。
「ん? どうした?」
「あの人たちが食べてるのって何?」
私が指さしたのは、休憩中の八人が食べてるもの。なんだろう、なんか、大きいチョコバーみたいなもの。しかもそれぞれに色があるみたい。なにあれ。食べ物、だよね?
「ああ……。魔法で作った保存食だよ」
「魔法で……」
「そうだ」
フランクさん曰く、お肉とか野菜とかを集めて、魔法でぎゅっと固めて保存魔法をかけたものらしい。簡単な魔法で解除できる保存魔法らしくて、食べる時に解除するんだとか。
色が違うのは味だって。味の元になる果物とかを多く入れると色が変わるらしいよ。
『異世界の保存食かあ……』
『興味あるけど、正直見た目はまずそう』
『作り方が適当すぎてなんとも……』
なんというか、すごいね。一度食べてみたいような気もするけど、後悔する気がする。すごく。
そんなことを考えていたら、ばきりと何かを引きちぎる音が聞こえてきた。
「ほら」
フランクさんが差し出してきたのは、その保存食だった。
「食べてみるか?」
渡されたのは、一口サイズの紫色の、それ。んー……。
「もらう」
「ああ」
受け取って、口に入れる。そして、噛んで……。
「…………」
『リタちゃん感想は?』
『美味しい? 不味い? どっち?』
「にちゃってしてる……」
『うわあ……』
味はそんなに悪くない。ちょっと甘めの何かの果物、だと思う。
問題は食感だ。なにこれ、なんかすごいにちゃってしてる。いや、にちゃあってしてる。口全体に張り付いてくるような、ねばねばな感じ。気持ち悪い。
思わず渋面を浮かべていると、フランクさんが笑って言った。
「食感が最悪だろ? 固めたって言ったけど、ぐちゃぐちゃに混ぜただけだと思うよ。でも保存食としては悪くないからなあ……」
料理とかだと場所を取るからね。この形のこれが、魔法で保存しやすいのかも。食感は最悪だけど。私もこれはもういらない。
自分で水を作ってそれを飲んでいると、フランクさんが少し迷いながら口を開いた。
「ところで、嬢ちゃん。結局ゴブリンはどうやって倒したんだ?」
「ん。これ」
聞かれたので、魔法を使う。杖で地面を叩くと、そこから黒い影が地面の中に潜っていった。そして少し離れたところで飛び出す、獣の口の形をした影。
「あれで丸呑み。その後に武器を吐き出す。静かで目立たない便利な魔法」
「…………」
「フランクさん?」
「なんでもないさ……」
うん。これ分かる。どん引きってやつだよね。
『いや普通に怖いわこれ』
『これが初見殺しってやつか』
『リタちゃん、もうちょっと分かりやすい魔法でもいいと思うんだ』
『主にその場に居合わせる人の精神衛生上』
ん。見られるわけじゃないから、別にいいでしょ。
フランクさんにもそう言うと、なんとも言えない表情になってしまった。なんでかな。
「それじゃ、フランクさん。私はまた屋根の上にいるから」
「そうか? 昼飯は?」
「ん。いらない。野営の時までは周囲の警戒と敵の排除に集中する」
「了解だ。何かあったらいつでも言えよ」
「ん」
私は頷いて、幌馬車の屋根に戻った。
さて。
「まずは馬車の周囲に認識阻害。よし。次に、分身の魔法」
手で自分の影を叩くと、影がぐねぐねと動いて、そして飛び出してくる。真っ黒な影はすぐに私そっくりに変身した。
「ちなみに実際に影を使ってるわけじゃなくて、ただの演出だって。師匠が言ってた」
『あのバカ何やってんだよw』
『すごい魔法だとは思うけど、くだらない部分にこだわるなw』
『まあもう言えないんだけどな』
『言うな』
ん。そう、だね。
作った分身はこのままだと何もしない、人形みたいなものだ。だから魔法でこの分身を動かすプログラムを仕込む。もちろんそんなに複雑なものじゃなくて、魔獣や盗賊などの敵を見つけたら自動で攻撃する、というもの。
そしてもし会話を求められた時のために、私からもある程度動かせるようにしておく。これが一番大変だけど、私が日本に行く時は精霊様が魔力を繋げてくれるらしいから、きっと大丈夫。
そうしてできあがったのは、敵を自動で迎撃する私の分身。これなら大丈夫のはず。
『リタちゃんが増えた!』
『リタちゃん一人ください』
『俺も! みたらし団子を出す!』
『こっちはカステラだ!』
『競売かな?』
何か嫌な予感がするから絶対作らない。
準備ができたところで、認識阻害を解除してから精霊の森のお家に転移した。
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