のんびり時々ばくっ
侯爵家ってそんなにすごいんだね。なんだかいまいち、よく分からない。ミリオさんもそんなにすごい人には思えなかったし。
「護衛の冒険者はフランクさんたちのパーティだよ」
『マジかよすごい偶然だな』
『いやこれ、多分ギルドマスターさんあたりが配慮してくれたんじゃね?』
『少しでもリタちゃんに面識がある人をってことかな』
あー……。なるほど、そうなのかな。言われてみるとそんな気もしてきた。でないと、たくさんいる冒険者さんからあのパーティが選ばれる確率なんてすごく低いと思うし。
ギルドマスターさんには、またお礼を言っておかないといけないかな。
「魔法学園まで、順調に行けば一週間ほどらしいから。その間は私はここでのんびり風景でも見てるから、みんなも適当にどうぞ」
『あいあい』
『馬車のごろごろをBGMにして仕事がんばるわー』
『いや仕事中に配信見るなよw』
『うるせーカレーライスぶつけるぞ!』
「は?」
『あ、ごめんなさいでした冗談です』
『カレーライス狂の前でうかつな発言はやめるんだいやわりとマジで』
もちろん冗談だって分かってるよ。多分セリフか何かを引用したんだと思うし。でも、こう、好きなもので言われると、ちょっとだけ怒っちゃう。でも短気すぎると自分でも思った。
「ん。ごめん」
『ええんやで』
『こっちこそ変なネタぶち込んでごめんな』
「ん」
お互いに謝って、終わり。これでいい。これがいい。
馬車の上でのんびりする。それにしても、暇だね。んー……。今のうちに何か食べようかな。
アイテムボックスに入ってるお菓子を探して、目当てのものを引っ張り出した。
「ん。今日はコーンチョコ。好き」
『コーンパフをチョコでコーティングしたやつやな! 俺も好き!』
『突然の告白とても助かる』
『リタちゃんに嫌いなお菓子ってあったっけ……?』
『そりゃ当然リタちゃんにも嫌いなものが……、あれ?』
んー……。今のところ、お菓子で嫌いなものはないかも。ミント系の飴も好きだし。みんなが美味しい物を選んでくれてるからだとは思うけどね。
袋を開けて、一粒食べる。さくさくとした食感と甘さがマッチしていて、とっても美味しい。
「んふー」
『この幸せそうな顔よ』
『美味しそうに食べるからこっちも食べたくなるんだよな……』
『ちょっとコーンチョコ買ってくる』
『ちょっとフィギュア買ってくる』
『お前はなんでだよw』
ん。コーンチョコ美味しい。みんなも食べればいいと思うよ。
幌馬車の屋根、その後ろに腰掛けて、足をぷらぷら。ちなみに実際に腰掛けてるわけじゃなくて、少し浮いてる。頑丈かどうか分からないから、実際に腰掛けるのはちょっと怖いなって。
視聴者さんと雑談をしながら景色を楽しむ。景色といっても、森だけど。私が薬草を探しに来た森だね。あのウルフたちもこの森のどこかにいるのかな。
元気にしてるかな、なんてことを考えていたら、進行方向から何かの気配を感じた。ウルフじゃないね。んー……。ゴブリン、かな? 数は、八。どうしようかな。
「ん。なんか、前にいる。どうしよう」
『敵かな? 魔獣か盗賊か』
『フランクさんに聞いてみたら? ベテランさんはどんどん頼ろう』
ん。なるほど、それもそうだね。まだ距離もあるし、どうするかフランクさんに聞いてみよう。
少し浮いて、先頭を歩くフランクさんの側へ。私に気付いたフランクさんは一瞬だけ驚いて、そしてすぐに真剣な表情になった。私が意味なく来るとは思ってないみたい。
「どうした、嬢ちゃん」
「ん。進行方向にゴブリンか何かいるよ。まだまだ距離はあるけど、どうする?」
「あー……。ゴブリンか……。数は?」
「八」
「問題ないけど数が多くてただただ面倒だな……。嬢ちゃんはどれぐらいの距離からなら攻撃できる?」
どれぐらいの距離。え、どうしよう、考えてなかった。適当に言ったらまた変なことになりそうだし……。えっと……。
「それなりに」
「そうか……。じゃあ、攻撃できるようになったら、一度攻撃してもらえるか?」
「ん」
じゃあ、はい。
「終わったよ」
「は?」
「じゃあ、戻るね」
「え」
一仕事やったでいいよね。うん。すごく護衛らしいことをしたかもしれない。
中央の馬車の屋根に腰掛けて、ちょっとだけ満足。視聴者さんも満足したんじゃないかな?
『護衛が護衛してねえ……』
『むしろちょっとした侵略行為では?』
『こんな護衛があってたまるかw』
なんだか、お気に召さなかったらしい。どうしてかな。さっさと終わらせた方が進むのも早くなると思うんだけど。
『リタちゃん、たくさん漫画読んだだろ? 漫画の護衛のシーン思い出して』
「んー……」
『ほとんどの漫画が、襲われてから敵を倒してると思うんだよね』
ん……。それは、確かに。遠くから倒すことってあまりないはず。
ああ、でもそっか。視聴者さんは、襲われてるところを助けるのを見たかったのかも。でもそういうことなら、ちょっと面倒だからやらないかな。進むのも遅くなるし。
『ちなみにどうやって倒したん?』
『攻撃魔法を使ってるようには見えなかったけど』
「ん。ばくってした」
『なるほどわからん』
多分、見れば分かると思う。
しばらく進んだところで、馬車が止まってしまった。どうしたのかなと周囲を確認すると、フランクさんが走ってくるところだった。
「嬢ちゃん!」
「ん?」
「薄汚れた武器とか防具とかが道ばたに落ちてるが、あれってまさか……」
「ん。ゴブリンを倒した名残」
「あー……。あとで詳しく教えてくれ」
「ん」
そう言って、フランクさんは戻っていった。詳しくって何をかな。
馬車がまた進み始める。すぐに、道の脇によけられた薄汚れた武具が見えた。フランクさんが急いで片付けたらしい。そこまでやった方が良かったかな。
『あかん、まるでわからん』
『マジでリタちゃん、何やったんだよ……』
『ちょっと怖いんだけど』
「ん。フランクさんにも説明しないといけないから、それを聞いてね」
何度も説明するのも面倒だからね。あとでまとめて、ということで。
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