護衛開始


 翌日。私は日の出と共に起床、あくびをしながらお家を出ると、家の前のテントの内部からごそごそと何かを漁る音が聞こえてきてた。

 昨日、ミトさんは最初に言った通りにテントで眠っていた。ここなら魔獣に襲われないとはいえ、やっぱりちょっと気になる。お家で寝てくれていいんだけどね。そっちの方が安心できると思うんだけど。こんなところで無理強いをしようとも思わないから、あまり強くは言うつもりはない。


 それにしても、私が言うのもなんだけど、ミトさんは起床がとても早いと思う。まだ日の出すぐだよ。それとも、冒険者だからこそ、だったりするのかな。


「ミトさん。朝ご飯と本、テーブルの上にあるからね。食べてから読んでね」


 テントの前でそう言ってあげると、ありがとうございますという返事があった。これなら大丈夫かな。朝ご飯用にチョコバーを置いてきてあげたから、次はお昼に来てあげよう。

 転移して、南門の側の道へ。まだ朝早いからか、誰にも見られることはなくて一安心だ。

 南門の前には馬車があって、貴族さんとエリーゼさんがすでに待ってくれていた。いくらなんでも早すぎないかな? あとは、ミレーユさんの姿もあるね。お見送りかな?

 私が馬車に近づくと、ミレーユさんが真っ先に気付いてくれた。


「おはようございます、リタさん」

「ん。おはよう。もしかして待ってくれてた?」

「大丈夫ですわ。まだ荷物の確認中なので」


 ん。そっか。魔法学園に到着するまでのご飯とか、確認することは多いからね。途中で村はあるかもしれないけど、食料が足りるかは分からないし。


「それじゃあ、リタさん。エリーたちに挨拶に行きましょう」

「ん」


 ミレーユさんに促されて、馬車の側で待つエリーゼさんの元に向かった。

 エリーゼさんも貴族さんも、自分たちが乗る馬車の側で待ってる。そして貴族さんとは別に、知ってる人たちが何かを話し込んでいた。


「お待たせしました。隠遁の魔女の弟子、リタが到着しましたわ」

「ん……。リタです。よろしく」


 私もミレーユさんに続いてそう挨拶すると、私とミレーユさん以外の全員が驚いていた。


「まあ……! 隠遁の魔女様のお弟子様はこんなに小さい方だったのですね! エリーゼ・バルザスです! よろしくお願いしますね」

「ん。よろしく」


 エリーゼさんは、私が見た目はまだ子供だったことに驚いていたみたい。でもエリーゼさんもそんなに離れていないように見えるはずなんだけどね。


「これは、驚きました……。まだ子供ではありませんか。それだけ見込みがあるということでしょうか……」


 貴族さんはそう言って、私をまじまじと見つめていた。そんなに見つめられると、少し照れる。


「私はミリオ・アートです。よろしくお願いします、リタさん」

「ん。よろしくお願いします」


 今更だけど、この貴族さんの名前、ミリオっていうんだね。この先使うかは分からないけど、ちゃんと覚えておこうかな。

 そして、あと三人。貴族さんと話していた護衛の冒険者さんだ。


「これは驚いたな……。リタちゃん、隠遁の魔女様の弟子だったのか! てっきり灼炎の魔女さんの弟子かと思ったぜ」


 私が初めてこの街に来た時に最初にお話しした冒険者さんのフランクさんだ。フランクさんは、そしてそのパーティメンバーのケイネスさんとパールさんも、同行者が私と知って喜んでくれた。

 理由はとても単純だったけど。


「嬢ちゃんが一緒なら俺たちも気楽にやれるってもんだ!」


 そう言ってフランクさんが私の背中を何度も叩いてくる。ちょっと痛い。


「ほほう……。この子はそれほど優秀なのですか?」

「そうですね。優秀も優秀。正直、俺たちよりも強い可能性すらありますね」

「それは素晴らしい……」


 なんだろう。ミリオさんの視線が、なんだか獲物を見つけた肉食獣みたいなものになってる気がする。なにこれ。私何かで狙われてるの?


「ん……。えっと……。よろしく」


 なんだろう。ちょっとだけ怖いかもしれない。主にミリオさんが。




 荷物の確認も終えたところで、出発になった。


「気をつけて! エリー、皆様に迷惑をかけないように!」

「分かっていますよもう!」


 そんな姉妹の掛け合いを横目で見つつ、私もミレーユさんに小さく手を振ってみる。ミレーユさんが少しだけ驚いて、手を大きく振ってくれた。

 さて。それじゃ、護衛だね。


「ん。じゃあ、私は屋根にいるから」

「本当に空を飛べるのですね……。了解しました」

「すごい……」


 ミリオさんとエリーゼさんに断りを入れて、幌馬車の屋根の上へ。足をつけるのは怖いから、少しだけ浮いてゆっくり飛んでいく。

 少しだけ飛んだ場所で、私は配信魔法を使った。


「ん。護衛中」


『おはよう!』

『もう護衛始まってんのかよw』

『大丈夫? 集中しなくていいの?』


「ん。片手間でも大丈夫」


 もちろんお仕事だから適当にやるつもりはないけど、こっそり全員に防御魔法をかけてある。いきなり魔獣に襲われても、そうそう傷は負わないよ。


『相変わらずぶっ飛んだことしてるなあw』

『せめて堂々とやればいいのにw』

『ところで規模はどれぐらい?』


「ん……」


 周囲の様子に光球を向けていく。

 馬車は三台。先頭の馬車は野営の道具とかが満載になっていて、最後尾の馬車は食料だ。護衛対象の馬車は真ん中だね。


「侯爵家の護衛としてはすごく少ないらしいよ」


『それはそう』

『正直十台とか言われても驚かない自信がある』

『なんせ侯爵家だからなあ……』


「ふーん……」

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