魔道具オタク


 その後は貴族さんとギルドマスターさんで詳細を打ち合わせるということで、私たちは先に部屋を出ることになった。明日の護衛についても話をするらしい。

 一応私が護衛することになってるけど、弟子として同行するからね。さすがに貴族さんも心配だと思う。だから他にも護衛がいるはず。ギルドマスターさんのことだから、変な人はつけないと思うけど。

 そんな難しい話は興味がない。むしろ私はこっちの方が問題かな。


「これが魔女様のローブ……! 細かい魔道具を使うのではなく、ローブに直接魔法をかけているのですね……! 素晴らしい! ああ、研究を……研究をしたいです……!」

「…………。なにこれ」

「妹は……その……。魔道具オタクですわ。あらゆる魔道具を集めて調べ、そして作成する。それを趣味としているのですけど、珍しい魔道具を見るとこうなります」

「うわあ……」

「正直、バルザス家にとってはわたくしと同レベルの厄介者だと思いますわ」


 あ、ミレーユさんも自分が実家にとっては厄介者だと思ってるんだね。ただミレーユさんも、おそらくエリーゼさんも、自己評価が低すぎると思う。それとも、貴族としては厄介者だってことかな。


「そんな感じ?」


 聞いてみると、ミレーユさんは苦笑しながら頷いた。


「わたくしは相手が原因とはいえ、婚約を解消していますわ。その上、復讐までしてしまっています。他の貴族の殿方にとっては、扱いが難しいと思われていることでしょう」

「ん。エリーゼさんは?」

「ご覧の通りです」


 振り返る。私のローブの裾を握って、はあはあと荒い息遣い。この子、わりとぶっ飛んでる子かもしれない。


『へ、変態だー!』

『リアルではあはあするやつとか初めて見たぞw』

『世の中の研究者なんてこんなもんだろ』

『偏見がすぎるぞそれw』


 ん。さすがにこんな人ばかりじゃないと思いたい。

 私が言葉に困っていると、ミレーユさんが動いてくれた。エリーゼさんの頭に勢いよくげんこつを……、あ、いや、本の背表紙で殴った。あれは痛い。


『ヒェッ』

『たまに出る過激さが好き』

『ドMかな?』


 視聴者さんも変態が多いよね。いつものことだけど。


「痛いです!」

「痛いです、ではありません。魔女のローブに何をやっているのですか」

「はっ! そうでした! 失礼しました!」


 本当に大丈夫かな、この子。私はちょっと心配になってきたよ。

 正直なところ、あまり深く関わりたくないので今日はさっさと帰ることにする。ミトさんのご飯も用意してあげないといけないから。多分今も本を読んでるから。


「それじゃあ、また明日の朝に」

「はい。お待ちしておりますわ」

「ありがとうございました」


 頭を下げるミレーユさんたち。それがどうにも慣れなくて、私は先に階段を下りて見えないところで転移した。




 ミトさんはやっぱり本に夢中だった。


「ん。すごいね」


『すっげえ集中力』

『この集中力は俺らも見習いたい』


 ミトさんはテーブルに本を置いて読みながら、右手の人差し指で宙に何かを書いてる。もちろん文字として見えることはないけど、多分自分なりに整理しようとしてるんじゃないかな。

 ああいうのは多分無意識でやってるから、注意しても気付いてないと思う。それで集中できるなら、私が何かを言うこともないけど。


 先に晩ご飯を用意しようかな。何にしようかな……。ああ、そうだ。真美から冷凍の唐揚げをもらってるんだった。それにしよう。レンジで温めるだけのものだから、これもすぐに食べられるはず。すぐに温めよう。

 アイテムボックスから取り出した唐揚げを大きなお皿に出して、さっと温める。特に時間もかからず、湯気の立つ唐揚げが完成した。あとは白ご飯。唐揚げには白ご飯だと思う。

 ついでに森の草花で作ったサラダも添えておく。もちろん安全なものを選んでるよ。さすがに毒を食べさせようとは思わないから。


『精霊の森のサラダってそれだけで危なそう』

『魔力とかで変異してそう』

『人食い植物とか生まれてそう』


「精霊様に怒られるよ?」


 確かにとても濃い魔力を浴びてるけど、そこまで変なことにはならないよ。人間に必要な栄養がたっぷりだって精霊様のお墨付きが出てるぐらいだし。

 それらを並べて、準備完了。ミトさんを起こすとしよう。

 読書に夢中なミトさんから本を抜き取ると、すぐに気がついてくれた。


「あ、リタ様。もしかしてもう夜ですか……?」

「ん。晩ご飯にするよ」

「はい……。ごめんなさい、また忘れてしまって……」

「ん。大丈夫。集中できるのはいいこと」


 実戦とかだと命取りだろうけど、今は勉強中だからね。本に集中して大丈夫。

 ミトさんは顔を上げると、テーブルに並ぶ唐揚げに釘付けになった。じっと見つめてる。


「あの、これは……?」

「ん。唐揚げ。美味しいよ」

「からあげ、ですか。とても美味しそうな香りです……!」

「ん。それじゃあ、食べてね」


 ミトさんの前で、手を合わせていただきます。ミトさんは不思議そうにしていたけど、同じように真似をしてくれた。

 ミトさんに出したものの、私も冷凍の唐揚げは初めてだ。師匠のお母さんの唐揚げはとっても美味しかった。真美も作ってくれたことがあったけど、それも美味しかった。これはどうかな?

 とりあえずかじってみる。肉汁があふれる、なんてことはなかったけど、柔らかいお肉で味付けは少し濃いめかな。うん。美味しい。それにご飯にもよく合う。


『リタちゃん唐揚げの袋見せて!』

『ちょっと買ってくるから!』

『ただの冷凍の唐揚げがこんなに美味しそうに見えるなんて……』


「ん……」


 唐揚げの袋をテーブルの上に広げておく。これで視聴者さんも見えるかな?

 当然のようにミトさんもその袋に興味を示していたけど、さすがにこれについては説明するのが面倒だから黙っておく。いずれまた、時間ができた時にね。


「どう? 美味しい?」


 もぐもぐ唐揚げを食べるミトさんに聞いてみる。ミトさんはすぐに頷いてくれた。


「はい! すごく美味しいです! 不思議な料理ですね……!」

「ん。喜んでくれて嬉しい」


 すごく美味しそうに食べてくれる。もしかして、視聴者さんもこんな気持ちなのかな。

 とっても美味しそうに食べ進めるミトさんを眺めながら、私はそんなことを考えていた。




 ミトさんが食事を済ませてテントに入っていった後、私は精霊様にお土産を渡した。


「これは、果物ですか?」

「ん。グレープフルーツ、だって。こっちは甘夏」

「みかんみたいなものでしょうか」


 早速とばかりにグレープフルーツを食べる精霊様。そして、


「ん……っ!?」


 すごい表情になった。なんか、こう、きゅっとしてる。


「すっぱい……!?」

「ん。私もびっくりした。すっぱくて、ちょっと苦い」

「これは不思議な果物ですね……。おや、こちらは甘いです」


 そんなことを言いながらも食べ進める精霊様。私ももうちょっとだけ食べようかな。

 んー……。私はやっぱり甘夏の方が好きだね。

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