エリーゼ


 ミレーユさんと魔法の話をしていたら、ドアがノックされた。書類仕事をしていたギルドマスタ―さんが真っ先に反応して顔を上げる。私とミレーユさんの顔を交互に見て、私がフードを被るのを確認するとギルドマスターさんが言った。


「どうぞ」


 その声でドアを開けて入ってきたのは、二人。貴族さんと、そしてもう一人。見た目だけなら私と同い年ぐらいに見える女の子。金色の髪で、赤い装飾のある黒いローブを着てる。

 なんだか勝ち気そうな印象を受けたけど、ミレーユさんを見つけるとすぐに破顔した。


「お姉様!」

「エリーゼ!」


 エリーゼと呼ばれた女の子はミレーユさんの元へと駆け寄ると、ひしっと抱き合った。この子がミレーユさんの妹みたいだね。なんだかとても仲が良さそうだ。


「お姉様……! エリーはとても会いたかったです……!」

「ええ、ええ。大きくなったわね、エリー。けれど、先にするべきことがあるでしょう?」


 ミレーユさんがエリーゼさんの頭を優しく撫でながらそう言うと、はっと我に返ったみたいにミレーユさんから少し離れた。こほん、と小さく咳払いをして、ギルドマスターさんへと向き直った。


「お久しぶりです、セリス様。またお目にかかれて光栄です」


『ほーん。丁寧な子やな』

『貴族らしいけど、貴族としては言葉遣いが微妙なような気も……』

『翻訳の問題かもしれんからなんともなあ』


 んー……。私も貴族の挨拶はよく分からないから、正しいかも分からないね。私としては知り合いということにちょっと驚いたけど。

 ギルドマスターさんは立ち上がって、すぐにエリーゼさんへと挨拶を返した。


「お久しぶりです、エリーゼ様。こちらこそ、こうしてまたお目にかかれてとても嬉しく思います」


 エリーゼさんは笑顔で頷いて、そして今度は私へと向き直った。なんだか、心なしか目が輝いてるように見える。すごく嬉しそうな顔だ。


「あなたが隠遁の魔女様でしょうか?」

「ん。そう」

「まあ……! あ、あの! 初めまして! エリーゼといいます! ミレーユの妹で、その、えっと……。握手してください!」


 うん。なんだこれ。


『さては隠遁の魔女のファンやな?』

『ミレーユさんからあることないこと吹き込まれてそうw』

『すごくあり得る』


 ん。ミレーユさんを見てみたら、勢いよく視線を逸らされた。みんなの予想通りらしい。何を言ったのか気になるけど、悪いことは言ってないと信じたい。


「ん。隠遁の魔女。よろしく」

「はい! はい! よろしくお願いします!」


 ぎゅっとを手を握られてる。なんだろう、ミトさんに近いものを感じるね。気のせいかな?


『犬の尻尾がぶんぶん振られてる様を幻視した』

『奇遇だな、俺もだ』

『リタちゃんって魔法使いの人に懐かれる才能でもあるんか……?』

『単純にすごい魔法使いだからでは?』


 そうなのかな。そうだといいな。


「エリー」


 ミレーユさんが静かにエリーゼさんの名前を呼ぶと、エリーゼさんははっと我に返って私から離れた。姿勢を正して、頭を下げてくる。顔は少し赤いけど、切り替えの早さはさすが貴族なのかな。

 いやそもそもとして暴走がだめだと思うけど。


「大変失礼致しました。改めまして、バルザス公爵家が次女、エリーゼ・バルザスです。かの高名な隠遁の魔女様とこうしてお会いできて、とても感動しております。サインください」

「エリー」

「大変失礼致しました」


 うん。ミトさんごめん。ミトさんに近いものを感じるとか言ってごめん。この子、別方面ですごい子だよ。


『流れるように暴走状態に入りかけてたなw』

『バーサーカーか何かかな?』

『後ろでミレーユさんが頭を抱えてるのがもう、笑うしかねえw』


 ん。笑いたくないけど、ちょっと、うん……。ごめんね。

 エリーゼさんが挨拶を終えたと判断したのか、今度は貴族さんが前に出てきた。真っ先に私へと丁寧に頭を下げてくる。


「またお会いできて光栄です、隠遁の魔女様。本日は私にご用があると伺っています」

「ん。私の弟子を魔法学園に通わせてほしい」


『私の弟子 (本人)』

『私が弟子』

『師匠にして弟子! 弟子にして師匠!』


 余計なこと言わなくていいよ恥ずかしくなるから。

 貴族さんは私の言葉を聞くと、興味深そうに目を細めた。


「魔女様の弟子、ですか。であればこちらに否やはありませんが……。そのお弟子様と直接お話しをさせていただくことはできませんか?」

「ん。だめ。今日はすでに修行を言いつけてあるから、明日来るよ。明日からは私が忙しい」

「それは……。本来は魔女様が同席の上で面談をさせていただきたいのですが……」

「ん。助けてあげたよね?」


 貴族さんの目が大きく見開かれた。こんなところで、この間の件を使ってくるとは思ってなかったんだと思う。普通なら弟子を連れてきて、もっといざという時のために残しておくものらしいし。

 視聴者さんの受け売りだけどね。私はそんな機微はよく分からない。


「それでいいのですか?」

「ん。それでいい」

「そういうことでしたら、かしこまりました。学園長の方にもこちらから伝えておきましょう」


 ミレーユさんたちが言った通りに、わりとあっさり通ってしまった。


「学園への出発は明日早朝、南門からとなります。あなたのお弟子様にもお伝えください」

「ん。わかった」


 お待ちしております、と貴族さんはとてもいい笑顔だった。何か企んでるわけじゃなさそうだけど、なんだろうね。

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