初めてのカレーライス(ミトばーじょん)
仕方ないのでミトさんから本を引き抜く。するとすぐにミトさんははっと我に返って、私を見た。
「あの、魔女様、まだ途中なんですけど……」
「ん。お昼ご飯。ご飯はしっかり食べること」
「もうそんな時間ですか? ごめんなさい、すぐに作ります!」
「いやもう作ってる」
「え」
ミトさんの前にカレーライスを差し出す。もちろんちゃんとスプーンもあるよ。ミトさんはカレーライスを見て、どうしてかとても焦っていた。
「ご、ごめんなさい! 魔法を教わるのに、食事の用意まで……!」
「ん? いいよ。私も師匠から魔法を教わってる時は作ってもらってたし」
魔法を教わる人はご飯を作らないといけないっていうしきたりとかあるのかな? ミレーユさんも本を読ませてあげてたら、謝ってきたぐらいだし。
私は手が空いてる人が作ればいいと思うんだけどね。その方が効率的だよ。
「あの、学園では、もし誰かに師事する機会があれば、最低限として家事はやりましょうと教わりました」
「ふーん……」
そういうものなんだね。私は師匠と分担するのが当たり前だったから、不思議な感覚だ。
『わりとよく聞く話かな』
『地球側でもそういうのあるよね。家事は弟子の役目っていうやつ』
『それぞれのやり方があるから』
ん。まあ、そうだね。それぞれのやり方があるよね。あまり気にしないでおこう。
「洗浄の魔法は?」
「使えます!」
「ん。水の魔法は? 飲み水とか自分で用意できる?」
「もちろんです!」
「ん。じゃあ、気にせずに勉強に集中していいよ」
「え?」
「ん?」
どうしてそこで不思議そうにするのかな? もしかして、今言ったこと、私の分もやれっていう意味に取ったとか? そんなこと言わないよ。それ以前に、私も出かけてる時の方が多いし。
「ご飯の用意はしてあげる。それ以外の自分のことは自分でやって。私のことは気にしなくていいから、あとは勉強と術式の調整に集中してほしい」
「いいんですか……? あ、いえ、わかりました!」
ん。一応そういうことで話はついた。それよりも、ご飯だ。
私が食べるように促すと、ミトさんは改めてカレーライスを見て、そしてなんとも言えない微妙な表情になった。初めて見る料理なんだろうね。ちょっと警戒してる。
「すごく美味しいよ」
「分かりました……」
何故か緊張した様子のまま、ミトさんはスプーンを手に取って、カレーライスを口に入れた。
「……っ!」
目を瞠って、そして勢いよく食べ始めた。気に入ってくれたらしい。
「さすがカレーライス。カレーライスは世界を救う」
『壮大すぎるwww』
『カレーライスが美味しいのは認めるけど大げさだわw』
『異世界をカレーライスで無双しようぜ!』
『意味不明すぎるわw』
剣や魔法の代わりにカレーライスが武器になるんだね。こう、スプーンを持って、カレーを投げて相手を戦意喪失させる、みたいな。
「…………。ちょっとカレーライスを食べて落ち着く」
『何を考えてたんだリタちゃん……w』
ちょっと言うのも恥ずかしいから気にしないでほしい。
自分のカレーライスも作って、食べ始める。レトルトは真美のカレーライスには劣るけど、それでもすごく美味しい。もっとたくさん用意しておこうかな。
「ああ、そうだ。ミトさん」
「はい?」
「私、明日から護衛依頼で出かけるから。ご飯だけは作りに来るね」
「わかりまし……、た? え? あれ?」
「ん?」
何故か途中で固まって、そして首を傾げるミトさん。どうしたのかな。
「あの……。護衛依頼、ですよね?」
「ん」
「一日だけですか?」
「ん? んーん。魔法学園まで。一週間ぐらいって聞いてる」
「えっと……。その間、戻ってこれないのでは?」
「なんで?」
「なんで……?」
ミトさんが意味が分からないって顔してるけど、私もよく分からない。ご飯の時間に抜け出してくるだけだよ。
『いやそりゃ意味わからんわ』
『リタちゃん、護衛って多分、ずっと護衛対象の側にいないといけないはずだぞ』
『転移魔法があることはあの貴族さんも知ってるだろうけど、抜け出してくるのは論外では』
なるほど。それもそうだよね。護衛なんだから、抜け出したらだめか。
ん……? じゃあ、日本にも行けない? え? ご飯は? 料理は? 真美の手料理は?
『なんかリタちゃんが微妙にへこんでる気がする……』
『多分日本にすら行けないことに気付いたのでは?』
『気付いてなかったのかよw』
いや、だって……。だって……。ええ……。
「ちょっと考える」
「えっと……。はい」
「ん。ちょっと、私がいなくても護衛が成り立つようにする」
「はい……?」
『ミトちゃんの困惑っぷりよ』
『大丈夫やミトちゃん。わりとこの子、こんな感じだから』
『全然大丈夫じゃなくて草』
とりあえず魔法、作ろう。護衛中でもご飯が食べられるように。
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