私が私を保証します

 うん。うん。…………。え?


「妹?」

「妹ですわ」


『妹さんいたの!?』

『マジかよどんな子だろう』

『妹さんもツンデレお嬢様かな! ですわですわ言うのかな!』

『ツンデレお嬢様キターーー! (素振り)』

『変な素振りすんなw』


 視聴者さんは視聴者さんで不思議な盛り上がりを見せてる。

 でもミレーユさんに妹がいたんだね。どんな子かな。ちょっと楽しみかも。

 楽しみ、ではあるんだけど……。


「ミレーユさん」

「なんですの?」

「怖い子じゃないよね……?」

「あなたがわたくしをどんな目で見ているのか、詳しく聞く必要があるみたいですわね」

「第一印象はわりと悪かったよ」


 正直にそう話したら、ミレーユさんが見事に固まった。ギルドマスターさんの方からは、一瞬噴き出して笑いを堪えてる音が聞こえてきてる。

 ミレーユさんはそっと私の両肩に手を置いた。


「ごめんなさい」

「え、なにが……?」

「リタさんはずっと森にいたのですわね。だったらわたくしのような自意識過剰の貴族なんて高圧的に見えたことでしょう。謝罪いたします。ですから嫌わないでほしいですわ」

「うん。今はミレーユさんのこと、好きだよ」

「…………」


 これも正直に話したら、ミレーユさんの顔が真っ赤になった。照れてるのは分かるけど、どうして照れたのかがちょっと分からない。


『キマシ?』

『いや、リタちゃんのこれ、間違いなく友達としてだよ。好感度的には絶対に真美ちゃんの方が高いぞこれ』

『えっへん』

『推定真美さんのどや顔が見えるwww』


 ん。そうだね。それは間違いない。森の関係者を除いたら、私は真美が一番好きかな。

 こほん、と咳払いして、ミレーユさんが続ける。


「脱線しましたわね。護衛対象は他に、あなたが助けたアート侯爵家の方もいますわね」

「ん……。つまり、護衛として同行して、魔女に推薦されるだけの実力があると見せればいい?」

「話が早くて助かりますわ。間違いなく留学の話もスムーズに進められるかと」

「ん。わかった。そういうことなら」


 ちょっと時間はかかりそうだけど、急がば回れ、だっけ? そういう言葉もあるらしいし、護衛の依頼を受けよう。一度やってみたいと思ってたしね。


「だって、護衛もテンプレなんでしょ?」


 そう小声で言えば、視聴者さんからのコメントは、


『微妙に違う気もする……』

『王女を助けて護衛する、とかの方が多いか……?』

『いやでもただの護衛もよく聞くし……』

『途中で盗賊か魔物に襲われる。これは譲れない』


 そんな都合よく襲われるかな……。


「ではリタさん。出発は明日になりますが、夕方にあの貴族と会っていただきますわ。その時に、弟子の紹介状を書いてくださいませ」

「ん……。え。私が私の紹介状を書くの?」

「そうですわ!」

「ええ……」


『紹介状ってなんだっけ……w』

『私は私が留学するのに値すると私が保証します私が!』

『やめろwww』


 なりきって書けっていう意味なのは分かるけど、そもそもとして紹介状をどう書くのかも分からないし……。どうしよう……。

 私が唸っていると、ミレーユさんが小さく噴き出した。


「ふふ……。冗談ですわ。紹介状の文面はわたくしが考えますから、リタさんはそれをそのまま書いてくださいませ」

「ミレーユさん嫌い」

「ごめんなさいですわ!?」


 最初から言ってほしいと思う。そっぽを向くと、ミレーユさんがおろおろし始めた。こういうところはかわいいと思うよ。




 面談は夕方ということで、それまでにまたここに来ることになった。というわけで、私は森に戻ってきてる。転移すればすぐだしね。

 お家に入ると、ミトさんがまだ同じ体勢のまま本を読んでいた。ぶつぶつと何かをつぶやいてる。


「なるほどそっか……。私はあっちよりもこっちの式の方が使いやすいから、代わりに使えばいいんだ……。でもそうすると、別の式が崩れちゃう……。そこをどうするか……」


 そんなことをぶつぶつと。自分なりの調整のやり方を頭の中で考えてるみたいだね。

 さあ、ここからだよミトさん。魔法使いにとっての、最大の関門だ。自分に合うように調整する。言うは易く行うは難し、だよ。特に簡単な魔法ならともかく、難しい魔法ほど術式は緻密に関わり合ってる。下手な調整だと元の方がまだいい、となるぐらいに。

 がんばれ……、と言いたいところだけど、その前に。

 ご飯の時間だ。


「ご飯どうしよう。レトルトでいいよね。真美にたくさんもらってるけど、どれが美味しいかな」


 ミトさんの向かい側に座って、レトルト食品を広げる。ちなみにミトさんはやっぱり反応しない。完全に自分の世界にいるね。その集中力はとってもすごいことだと思う。師匠が目をかけるだけはあるよ。

 まあ、師匠の弟子は私だけだけど。


『唐突なリタちゃんのどや顔』

『多分師匠さんのことを思い出しただけ』


 その通りだから言わなくていいよ。


『ところでリタちゃん。広げたレトルトの半数がカレーとはこれいかに』

『カレーのレパートリーだけやたらと多いw』

『その子にはカレーまだだし、カレーでいいのでは?』


 ん。それもそっか。カレーにしよう。

 レトルトのシーフードカレーを手に取って、他はアイテムボックスにしまう。あとはご飯だ。これももちろんレトルト。とっても便利。

 てきぱき用意しながら、ぽつりと一言。


「味は真美のカレーの方が美味しいけど」


『どうしよう、すごく嬉しい』

『真美ちゃんwww』

『ていうか真美ちゃん、学校はどうしたw』

『内緒』

『おいwww』


 勉強は大事だよ?

 楕円形のお皿の片側にご飯を入れて、もう片側にカレーを入れる。カレーの香りってすごくいいよね。お腹が減ってくる。ミトさんはまだ本に集中してるし、先に食べちゃっても……。

 いやだめだよ。ミトさんがんばってるんだから。


「ミトさん。お昼ご飯」

「…………」


 やっぱりと言うべきか、反応はなし。


「知ってた」

『知ってたwww』

『予想通りではあるけどw』

『ミレーユといい、集中しすぎでは?』


 もうちょっと周囲に気を配るべきだと思うよ。あまり人のこと言えないけど。

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