チーズカレー


 チーズカレーをすごく楽しみにしながら真美の家に転移した。


「むう……!」


 ちいちゃんが頬を膨らませて私を待ち構えていた。どうしたのかな。なんだか怒ってるみたいだけど。

 戸惑ってる間にちいちゃんが私の側に歩いてきて、両手でぽかぽか叩き始めた。痛くはないけど、どうしよう、どうしたらいい? えっと、えっと……。


『おろおろリタちゃん』

『両手をさまよわせてるw』

『ぽかぽかちいちゃんもおろおろリタちゃんもかわいいなあ』


 他人事だと思って好き勝手言われてる気がする。

 じっとしてても仕方ないし、ちいちゃんと目線を合わせる。するとちいちゃんは叩くのをやめてくれた。


「ちいちゃん、どうしたの?」

「むう!」

「えっと……。怒ってるのは分かるんだけど……。えっと……」


 どうしよう、本当に分からない。助けを求めて真美の姿を探すと、すぐにドアが開いて真美が入ってきた。私たちの様子に一瞬だけ目を丸くして、そして苦笑。真美がちいちゃんを引き剥がしてくれた。


「ほら、ちい、ちゃんとリタちゃん、来てくれたでしょ?」

「むう!」

「はいはい、拗ねないの」


 拗ねてる、らしい。多分私が原因だよね……?


「ごめんね、リタちゃん。ちいがね、ちいが弟子だったのにって拗ねちゃってて……」

「ああ……」


 なるほど。なんとなく理解した。理解はしたけど、その……。私はちいちゃんも弟子とは思ってなかったんだけど……。

 ああ、でも、そっか。私が一から魔法を教えてるからね。弟子になるか。うん。

 なんとなく。ちいちゃんを見てたら、なんとなく、幼い頃を思い出してしまった。


 外行くぞ、と歩いて行く師匠と、師匠に作ってもらった小さな杖を抱えてついていく私。置いていかれないようにとローブの裾を掴んだら、笑いながら頭を撫でてくれたっけ。それが、とても心地よくて、安心できて……。ちょっとだけ、懐かしくなってしまった。

 ちょうど、ちいちゃんぐらいの年だったかな。確かに他に弟子を取ったって言われたら、拗ねてたと思う。その、実際に少し嫉妬しちゃったしね。

 ちいちゃんに手を伸ばすと、ちいちゃんにそっぽを向かれてしまった。それでも、ちいちゃんの頭を撫でる。


「ちいちゃん。ちいちゃんは私の一番弟子だよ。ミトさんを弟子にしたとしても、それは変わらないから」

「…………。うん……」

「ん。だから、一緒にがんばっていこう」


 正直なところ、私は教え方が下手だと思う。わりと感覚で魔法を使ってるところもあるから。改めて口頭で説明するのは、すごく苦手。

 でも、それでもいいと言ってくれるなら、私はちいちゃんの師匠でいたい。なんとなく、だけどね。

 ちいちゃんはそっと私を見てくれて、頷いてくれた。


「がんばる」

「うん。がんばろう」


 にぱっと笑ってくれて、すごく嬉しかった。


『仲直りしてくれてよかった』

『めっちゃはらはらした』

『仲良しでいてほしい』


 ん。もう大丈夫。きっと、ね。


「それじゃ、リタちゃん、ちいのことよろしくね。今作ってるから!」

「ん。任せて」


 リビングから出て行く真美を見送って、ちいちゃんに向き直る。ちいちゃんの機嫌はすっかり直ったみたいで、じっと私を見てる。なんだかちょっぴりこそばゆい。


「それじゃ、今日も魔力の循環、頑張っていこうね」

「うん!」


 ん……。ちょっとだけでも、良い師匠になれたらいいな。




「お待たせ。真美特製チーズカレーだよ!」


 そう言って真美が持ってきたものは、いつものカレーライス、の中にとろとろのチーズが入っていた。ほどよく溶けたチーズがたっぷりと入ってる。スプーンで持ち上げてみると、カレーと一緒にチーズがとろりと。


『あああああ!』

『なにこれすげえめちゃくちゃしっかり溶けてる!』

『自分で作るとチーズが固形になっちゃったりするのに!』


 ん。単純な料理なのかなと思ったけど、見た目に反して結構難しいらしい。ほどよく溶かすのが難しいってことかな。レトルトでしか作れない私には分からないけど。


「どう? どう?」

「ん」


 なんだか真美が期待のこもった目で見てくる。とろとろチーズのカレーとご飯を一緒にぱくりと。

 おー……。チーズがカレーとご飯に絡んで、いつもと少し違う食感。これはこれですごくいいものだ。うん。いいものだ。もぐもぐ。


『無心で食べてる……』

『美味しかったんやろなあ』

『レトルトのカレーしようかと思ったけどチーズカレーの出前頼んだ』

『出前の地域じゃない俺涙目』


 うんうん。これはいいもの……。あ。


「ん……」


『空になって悲しそうになるのやめーやw』

『子供かw (見た目は)子供だったわ』

『見た目言うなw』


 ちょっと、物足りない。もうちょっと食べたい。

 真美を見ると、にこにこ笑っていた。


「おかわり、いる?」

「ん!」


『声だけで嬉しいっていうの分かるw』

『今更だけどリタちゃん完全に餌付けされてね?』

『そりゃリタちゃんは真美ちゃんのペットだから』


 ペット扱いはさすがにひどいと思う。ペットじゃないよ。友達だよ。

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