術式の仕組み
「ミトさん」
「あ、はい! 何ですか?」
「魔法、教えてあげたい。だめ?」
「え」
ミトさんが大きく目を見開く。すごく驚いてるのは分かるけど、そこまで?
でももちろん、これは私の意見を押し通すわけにはいかないし、ミトさんだけの意思で決められるものでもない。だってミトさんは、すでにパーティに入ってるから。今後のパーティの活動もあるし、反対されるとやっぱりちょっと難しいかも。
ミトさんの意思は多分私側。嬉しそうにしてくれてるし。でもすぐに顔を曇らせて、周囲の様子をうかがい始めた。つまり仲間の表情を。
その仲間の人たちの反応は、少し予想と違うものだった。
「つまり魔女の弟子になるってことか……!?」
「それは、すごい……! すごいことだよミト!」
「魔女にも実力を認められたってことよね……。正直、羨ましいわ……」
意外と好感触。もっと渋られると思ってたよ。
『それだけ魔女のネームバリューが大きいってことだろうな』
『実際のところどうなん? 弟子にするの?』
『リタちゃんもついに弟子を取るのか……』
『師匠さんの頃から見てるワイ、胸圧すぎて泣きそう』
『胸を圧迫したらそりゃ泣きたくなるだろ』
『誤字につっこまないでくれませんかねえ!?』
んー……。弟子、になるのかな……? 弟子とはまた違うような、そうでもないような……。
「ちょっと教えるだけ。弟子とは違う。今のところは」
「つまり可能性があるってことだな!」
「そ、そう、かも……?」
どちらかというと、修正したいというか、そういう感じなんだけど。
ミトさんの隠蔽の魔法、師匠のものに似てるんだけどちょっと効果が弱いんだよね。
魔法の術式って、魔法使いとして慣れてきた人ほど、少しずつ自分なりに調整していくものだったりする。でもミトさんの魔法は、多分師匠の術式そのままだ。ミトさんには微妙に合ってないから、師匠の劣化になってるんだと思う。調整の仕方を教わってないんじゃないかな。
ただ、師匠が自分の術式を教えたのに、その調整の仕方を教えていないっていうのはちょっと疑問だ。だから、多分教える予定だったけど、教えられなかったんじゃないかな。
その理由は、死んじゃったから。だから、中途半端になってるものを最後まで教える、みたいな感じ。
そんなことを考えながら四人の話し合いを眺めていたけど、すぐに答えが出たらしい。ミトさんは三人に背中を押されて、私の前に立った。
「よろしくお願いします!」
「ん」
よかった。ミトさんなら、きっとすごい魔法使いになれるはず。
その後はギルドマスターさんたちの話し合いが終わるのを待ってから、解散になった。
ギルドマスターさんたちの話し合いの結果だけを言えば。
貴族さんは忠告を聞き入れなかったことで生じた問題の謝罪と、今回の件に見合うだけの報酬の上乗せという形で落ち着いたみたい。ミトさんのパーティも、本来よりもずっと多い報酬をもらえたみたいだ。
私にも報酬は支払われたけど、これは私の要望の通りに少なめ。その代わりに、何かあったら協力してね、という形。後から聞いた話だと、こっちの方が貴族さんからすれば怖いらしいけど。
ちなみにまだ細かい話し合いは残ってるらしいけど、私たちに関わることはもうないとのことなので、私たちは解散ってことだね。ミレーユさんは一応残るらしい。
ギルドマスターさんの部屋を出て、廊下を五人で歩く。ミトさんたちはこの後、酒場で宴会するんだって。たくさんお金が入ったから、ぱーっと使うんだとか。
「宴会、楽しそうだよね」
『実際楽しい』
『リタちゃんも参加させてもらえば?』
『言ってみたら多分まぜてくれる』
「んー……。さすがに邪魔だよ」
『それは確かにw』
ミトさんとは明日の朝、門の前で合流することになってる。パーティの活動は今日までになるから、きっと話したいこともあるはず。邪魔はできない。
私も今日は森に帰ろうかな。疲れてはいないけど、美味しいものが食べたい気分。
「真美。真美。見てる?」
『見てるよリタちゃん!』
『即反応するのは草なんだ』
『マジでずっと見てるんかなこの子w』
学校とかで見れない時以外は見てるって言ってたね。嬉しいのは内緒。
「カレーライス、食べたい」
『いいよ! チーズカレーにするね!』
『打てば響くとはまさにこのこと』
『でも配信中に晩ご飯の話をするなw』
『おいお前ら絶対配信でカレーライス食べ始めるぞ! 用意しとけよ!』
チーズカレーだって。初めて。チーズって焼いたりしたらとろとろになるあれだよね。あれをカレーライスに入れるんだね。美味しそう。楽しみ。
『めっちゃうきうきし始めてる』
『わくわくリタちゃん』
『表情薄いのに上機嫌が分かるってある意味すごいw』
余計なことは言わなくていいよ。
「あの、隠遁の魔女様」
「ん?」
ミトさんに話しかけられたのでそっちを向くと、少しだけ不思議そうにしていた。
「すごく機嫌がよさそうですね……」
「ん。晩ご飯が楽しみ」
「そ、そうなんですか」
少し意外そうにしてるけど、そんなにかな? 美味しいものを食べるのは、人にとって大事なことだと思うよ。間違いない。
「それで、どうしたの?」
「は、はい! 明日は門の前とのことですけど、中でいいんですか?」
「ん? 外」
「え。そ、外……?」
「ん。門のすぐ横にいてほしい。迎えに行くから」
まさか街の中で教えると思ってるのかな? やだよ、めんどくさい。森にご招待です。
ミトさんは首を傾げながら、パーティメンバーの方へと戻っていった。それじゃ、私もそろそろ行こう。チーズカレーが私を待ってる。
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