ねたばらし

「あ、あの、魔女様……?」


 そのミトさんの声に我に返った。そうだよね、無視はいけない。師匠のことを教えてくれたんだし、満足だ。みんなのところに帰してあげよう。


「ごめん。話してくれてありがとう。帰ろうか」

「あ、いえ……。あの。もしかして、隠遁の魔女様は賢者様のお知り合い、ですか?」

「ん。そうだよ。師弟関係」

「え」

「ん?」


『ちょ!?』

『リタちゃん言っちゃってよかったんか!?』


 んー……? だめ、だっけ? 別に問題ないかなと思ったんだけど……。この子は悪い子じゃないと思うし。

 でも、そうだね。あんまり言わない方がいいのかも。ミトさんもすごく驚いてるし、魔女の称号って私が考えてるよりもずっとすごいのかもしれない。

 んー……。よし。師匠がここまで教えてるなら、きっとこの子は信頼できる。だから、せっかくだから引き込もう。

 そう結論づけて、私は隠蔽の効果があるフードを外した。


「え」


 ミトさんはあんぐりと口を開けて固まっていたけど、すぐに大きな声を上げた。


「ちっちゃい……!?」

「ちっちゃい……」


 いや、確かに小さいよ? それはちゃんと自覚がある。でも、指さして言ってくるほどじゃないと思うんだよね。気にしすぎなんだろうけど。


「隠遁の魔女様って、子供だったんですか……!?」

「ん」


 否定しても意味はなさそうだから、頷いておく。


「私が、隠遁の魔女、リタ。賢者コウタは私の師匠で、元精霊の森の守護者。今の守護者は私」

「え。え。ちょ、待って……。ええ!?」


『一気にいったなあw』

『もう全部ぶちまけるのか』

『でもどうすんだこれ?』


 協力者になってもらう。ただ、何かをしてほしいっていうわけじゃない。少しだけ、相談に乗ってもらえれば十分だ。

 あとは、ミトさんの魔法。あの魔法を見れば分かる。ミトさんはすごく優秀な魔法使いだ。だから、少しだけ私も教えてあげたいと思ってしまった。もったいないから。

 私はミトさんの肩に手を置いて、言った。


「この後、もう少しお話ししよう。いいよね?」

「は、はい! わかりました!」


 なんだか声音に緊張が多分に含まれてる気がするけど、どうしたのかな。

 とりあえず、今のところの話は終わり。あとでギルドに来た時にお話しさせてもらおう。


「それじゃ、戻ろう」

「分かりました……」


 少しだけ疲れたような声でミトさんは頷いた。大丈夫かな?




 後片付けを他の冒険者さんたちに任せて、私たちは転移で街に戻ってきた。一緒に転移してきたのは、私の他にミレーユさんと貴族さん、そして助けたパーティ四人。

 すでに転移魔法を知ってるミレーユさん以外の五人は、転移魔法にすごく驚いてるみたいだ。ほとんど失われたも同然の魔法らしいから仕方ないのかな。

 ちなみにもちろんフードはまた被ってる。隠蔽はばっちりだ。


「隠蔽があるからとやりたい放題しすぎでしょう……」

「ん……」


 だめだったらしい。


『当たり前なんだよなあ……』

『転移魔法って、魔法に詳しくない俺らでもかなりやばいって分かるからな?』

『暗殺とか窃盗とかなんでもござれ』


 いやそんなことやらないけど。ああ、でもそっか。他の人からすれば、それを警戒しちゃうってことだね。

 でももう見せてしまったものは仕方ない。記憶を消すこともできるけど、それに関しては高確率で失敗するからね。他の記憶もたくさん消しちゃうことになる。だから、言われない限りやらないよ。


 私たちは報告のために、一度ギルドマスターさんの部屋に行くことになった。

 そして部屋で報告を聞いたギルドマスターさんは、おもいっきり頬を引きつらせていた。多分貴族さんたちがいなかったら、頭を抱えてたと思う。


「でも私は悪くない。私はちゃんと依頼通りに仕事した」


『それはそう』

『想定の斜め上を行ってるだけ』

『見てておもしろいからヨシ!』


 ヨシじゃないと思う。いや、ヨシでいっか。

 私の小声のつぶやきに反応する人はいない。ギルドマスターさんは貴族さんと話し合いをしてる。今回の救助費用についてとか、そんな話みたい。多分、私に支払うお金についても含まれてると思う。


「リタさん。何か要望があるなら今のうちですわよ」


 ミレーユさんが小声で言ってくれるけど、別にどうでもいいかな。報酬とかも勝手にしてほしい。

 私はむしろ、ミトさんとそのパーティに用があるから。

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