子犬な魔法使い

 どんどん出てくる魔物を片っ端から叩き潰していく。出てきたところごめんね、消えてね。申し訳ないとかは思ってないけども。


「な、なんだなんだ!?」

「どうしてこんなに急に……!」

「なんて数だ……!」


 んー……。


「外野がうるさい」


『外野扱いすんなw』

『いや確かに戦力外だろうけど!』

『この魔女理不尽すぎない?』


 そんなことはないと思う。

 床も壁も天井も覆うぐらいにあふれてくる魔物を叩き潰していく、そんな繰り返し作業を二時間ほど続けると、突然魔物が出現しなくなった。多分放出が終わったんだと思う。ちなみに視聴者さんは途中で飽きたのか、雑談を始めていた。


「ちょっと待っててね」


 五人にそう言って、もう一度コアの元へ。管理精霊を呼ぶと、すぐに出てきてくれた。


「はーい。おつかれさまでしたー」

「ん。おつかれさま。ありがとう」

「いえいえー。こちらとしても早めに終わらせられて一安心ですー」


 それに、と管理精霊が続けて、


「あっちの怠慢が原因とはいえー、やっぱり死んじゃう人は少ない方がいいのでー」

「ん……。そうだね」


 この子は管理精霊にしては珍しく、スタンピードの時の犠牲者を気にしてたらしい。気にしない精霊の方が多いんだけどね。


『精霊ってこんなに優しいもんなんやなあ』

『ちがうぞ、この精霊が特殊なんだぞ』

『師匠さんの代からたまに精霊は出てたけど、基本的に人間なんてどうでもいいって連中だからな』


 精霊は世界の管理がお仕事なだけだからね。この管理精霊みたいに例外はいるけど、人間を特別扱いする精霊はかなり少数派だ。


「それじゃ、もどりますー。また遊びに来てくださいねー」

「ん。おやすみ」


 管理精霊は小さな手を振ると、コアの中に戻ってしまった。とりあえずこれでスタンピードは終わりと思って問題ないはず。コアの魔力が空だからしばらくは魔物の発生すらないだろうけど、数日もすればまた出てくるはず。

 五人の元へ戻ると、みんな周囲を警戒したままだった。あれだけ魔物が出てきたあとだからか、やっぱり不安らしい。


「ん。気持ちは分かるけど、もう安全だから。帰ろう」


 そう言って、結界を解除する。五人はゆっくりと立ち上がって、でもまだ周囲をきょろきょろ確認してる。まあ、仕方ないかな。死にかけたばかりだからね。

 でも待っていたらいつになるか分からない。私が歩き始めると、五人は慌てたようについてきた。




 なんか、えっと……。懐かれた。


「あの。さっきの魔法、とてもすごかった、です。どんな仕組みの魔法だったんですか?」

「ん。潰しただけ」

「潰しただけ。すごい。隠蔽の魔法もすごい、です。わたしも隠蔽には自信があったのに、比べることすらできないです……!」

「ん」

「握手してください!」

「ん……」


 本当になんなの? ずっとこの調子だよ?


『見える! 見えるぞ! 全力で振られる犬の尻尾が!』

『奇遇やな、俺にも見える』

『子犬魔法使いか……。ひらめいた』

『おいばかやめろ』


 何をひらめいたのかな? ろくなものじゃなさそうだから言わなくていいけど。

 でも本当に、ちょっと困る。握手とかもう七回はやったよ。飽きないのかな。

 助けを求めて背後へと、ヘイズさんというリーダーさんへと振り返れば、ヘイズさんは肩をすくめただけだった。対応してもらえないらしい。


 適当に返事をしながら歩き続けて、まずは広間にたどり着いた。ダンジョンの穴の底部分だ。入ってきた横穴もちゃんと覚えてるから、来た時と逆に行けばいいんだけど……。ちょっと面倒。

 だから、ずるしよう。

 とりあえず杖を上に向けて水球を打ち上げる。穴のふたになりそうな大きさの水球を打ち上げたから、間違いなく気付くはずだ。これでいきなり穴から出ても攻撃されないはず。


『脱出前に打ち上げるんじゃなかった?』

『さすがに早すぎるだろ』

『ミレーユのことだから心配して入ってくるぞ』


 それは私も想像できる。ミレーユさん、優しいからね。でも大丈夫、すぐに脱出するから。


「じっとしててね。暴れたら落ちるよ」


 五人にそう言ってから、浮遊魔法をかけてあげた。ふわりと浮き上がり、ゆっくりと上昇していく。一気に行ってもいいけど、驚いて暴れられると制御が面倒になるから。


「な、なんだこれ!? 浮いてる!? 浮いてるぞ!」

「浮遊の魔法……! すごい!」

「ミト! どうすごいんだこれ!」

「空を飛ぶ魔法の簡易版! 簡易版だけど、魔法としての難易度はかなり上の方! それを六人同時だなんて、信じられない……!」


 え……?


「今適当に作った魔法っていうのは、言わない方がいいの……?」


『マジかよwww』

『まあ言わない方がいいかなって……』

『さらっと何をやってるのやら……w』


 いや、だって、空を飛ぶ魔法があるんだから、浮遊魔法なんて誰も作らないと思ってたから……。あ、でも、師匠なら作りそう。師匠かな?

 そのままふわふわと浮かんでいって、大きな穴からダンジョンの外へ。浮いたまま、ミレーユさんの元へと向かった。横へ移動し始めたところでまたみんなが騒いでたけど、気にしても仕方がないので無視しておく。

 こちらを見て呆然としている冒険者の中にミレーユさんの姿があったから、その側に降り立った。

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