管理精霊ちゃん


 五人とも、ぺたりと座り込んでる。よっぽど怖かったのかな。


『むしろこれリタちゃんに怯えてるのでは?』

『命の危機を感じていたら魔物が全てぐっちゃりいっちゃったからな』

『ホラーなんて生やさしいものじゃない、それ以上の何かを見せつけられたぜ……!』


 いやだって、邪魔だったから。いちいち結界を張って探すのも面倒だったし。


「あんたは……冒険者か……?」


 剣を持った人がそう聞いてきた。


「ん。隠遁の魔女、と呼ばれてる。よろしく」


『呼ばれてる(自称)』

『自分でつけた二つ名なんだよなあ』

『ち、ちがうし! つけたのはミレーユだし!』

『一般的な二つ名を考えたら大差ないだろうがw』


 いちいちつっこまなくていいよ。自称隠遁の魔女です、とか言いたくないよ。そっちの方が恥ずかしいよ。


「隠遁の魔女……。そうか、魔女か……」

「ん。立てる?」

「あー……。いや、すまん、ちょっと腰が抜けて……」

「ん。じゃあ、もうしばらくここで休んでて。ちょっと終わらせてくるから」

「は?」


 意味が分からないといった様子の五人へと、隠蔽の魔法をかけてあげる。そういえば、さっき私が解除した隠蔽の魔法、気配だけ消すものとはいえ、なかなかいい、そして思い出深い魔法だった。


「さっきの隠蔽の魔法、すごかった」

「え?」

「多分、見られなかったら誰にも気付かれなかったんじゃないかな」


 そう言ってあげると、小柄なローブの子がちょっと顔を染めてうつむいてしまった。なるほど、この子が使ってたんだね。


『見られなかったら気付けなかった、だって』

『リタちゃん、わりとあっさり見つけてたよなw』

『まあリタちゃんだし』


「私の場合は魔力の流れに違和感があったから気付いただけだよ」


 視聴者さんに言ったつもりだったけど、小柄な子にも聞こえたらしい。あんぐりと口を開けてる。あ、いや、隣のもう一人の魔法使いさんも同じ感じだ。


「空気中の魔力の流れを感じ取れるの……!?」

「すごい……!」


 うん。よし。これはまさに今言うべき時。


「私、何かやっちゃいました?」


『やめろwww』

『でも実際どうなん? 難しいの?』

『魔力の制御がなんかおかしいらしいからな、リタちゃんは』


 ギルドでの登録の時に言われたね。そんなことないと思ってたんだけど。


「これ、隠蔽……!? すごい、気付かなかった……!」

「なんて緻密な魔力制御なの……。これが、隠遁の魔女の魔法……!」

「…………」


 よし。やることをやろう。


『リタちゃんお顔真っ赤やで』

『照れ照れリタちゃん』

『照れリタかわいい』


 やめて。やめろ。

 私は五人に追加で結界の魔法をかけてから、部屋の中央に視線をやった。そこにあるのは、ダンジョンコア。人一人ぐらいの大きさの綺麗な水晶、みたいな魔力の塊だ。このコアは緑色をしてるけど、色はコアによって違うらしい。

 私はダンジョンコアに手を触れると、小声で言った。


「管理精霊、いる?」

「はーい」


 コアから飛び出したのは、小さな精霊。視聴者さんには妖精と言った方がイメージが近いかも。小人の姿で、蝶のような羽がある。その名の通り、コアの管理をする精霊だ。

 この子たちが放出する魔力量をできるだけ一定にしてるんだけど、魔物の討伐数が少なくて放出が間に合わなかったら、許容量があふれてスタンピードが起きる。一度あふれると空になるまで止まらない。

 でも、あふれる先ぐらいはまだ指定できるはず。


「私のことは分かる?」

「はいー。大精霊様のお気に入りさんですよねー。世界樹の森を守ってくれてるひとー。今はこんなにかわいいんですねー。なでなでしていいですー?」

「むしろ私が撫でたい」

「わはー。どうぞー」


 すり寄ってきたので指先で撫でてあげると、むふーととても満足そうに頬が緩んだ。


「かわいい」

『かわいい』

『なんだこれ、すごくかわいい』


 いや待って、今はそれじゃなくて。


「お願いがある」

「なんでしょー。今は放出中なのでできることは限られますよー」

「ん。放出先をこの部屋だけにしてほしい。あと、放出のスピードを上げることはできたよね? どんどん出して。私が処理する」

「わはー。豪快ですねー。それならいいですよー」


 ゆっくり十、数えてから始めますねー、と言って、管理精霊はコアの中に戻っていった。もうちょっと撫でたかったから残念。

 私は唖然としている五人の元へと戻って、言った。


「コアの管理精霊と話がついた。今から一気に魔物があふれるから、ここでじっとしてて」

「コアの管理精霊……?」

「あー……」


 そっか。それすらも、今の人は知らないのか。


「気にしなくていい。忘れて。誰にも言わないで」

「お、おう……。分かった。忘れる。ろくなことにならなさそうだし」


 話が分かる人で助かるよ。

 それじゃ、と振り返ると、ちょうど魔物が増え始めたところだった。それはもう、一気に。床から天井から壁から、ぐねぐねと黒い塊があふれてきてる。


「うおわ……!?」


 縮こまる五人。まあ、うん。仕方ないよね。


「怖がらなくていいから、そこでじっとして待ってること」


『無茶ぶりがすぎる』

『これ間違いなくさっきよりも怖い状況w』

『鬼か何かかなリタちゃんはw』


 配慮、足りなかったかな。でも今更だし、処理を優先しよう。

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