すごく見られてる
庭園から出て、階段を下りて、ドアから建物に入って。行く先々にたくさんの人がいて、ほとんどの人が私を見てくる。しかも一部の人はついてくる。どうしよう。
「すごく人が多い……」
『そういや、人が多いところは今回が初めてか?』
『一応東京都内も歩いてるけど、あの時はまだ知らない人も多かったしなあ』
『テレビで取り上げられてから初めて行くのが大阪なのは、ちょっと難易度高かったかも』
もうちょっと人が少ないところを自分で選べば良かったかな。ちょっとだけ反省するけど、でも今更なのは変わらないわけで。もうここまで来たんだし、たこ焼きはちゃんと食べて帰りたい。
『そこエレベーター。とりあえず一階まで』
「ん」
言われた通りにエレベーターの方へと向かう。待ってる人が何人かいたけど、私を見るとみんな驚いていた。ちょっと慣れてきたかもしれない。
エレベーターのドアが開く。中に入っていた人が出てくる時に私を見て、やっぱりびっくりして。そんな固まっている人を気にせず、エレベーターの中に入った。
「ん……?」
誰も乗ってこない。待っていた人たちも。
「乗らないの?」
私が聞くと、もともと待っていた人たちが慌てたようにエレベーターに入った。一の数字を押して、ドアを閉める。
「何階?」
「あ、その……。五階で……」
「あたしは四階を」
「俺は二階でお願いします」
「ん」
数字のボタンを言われた通りに押しておく。あとは待つだけ、だね。
「あの……」
声をかけられたので振り返ると、一緒に乗った三人が私を見ていた。
「リタさん、ですか?」
「ん」
「わあ……。あ、あの! 握手! いいですか!?」
「ん……? いいけど……」
三人とそれぞれ握手。どうしてかみんな嬉しそうだ。よく分からない。
『あああああ!』
『くっそ羨ましいんだけど!』
『いいなあいいなあ俺もリタちゃんと握手したいなあ!』
私と握手して何が楽しいのかな。
五階、四階、二階と三人が下りていく。下りる時に思い出にしますと言われたけど、何なのかな。不思議と乗ってくる人はいなかった。
一階で下りて、指示に従って歩いて行く。見られることにはそろそろ慣れてきた。
「本当に人が多い。これ、私邪魔してない? 大丈夫?」
『大丈夫!』
『ふっつーに観光してるだけだし気にしすぎさ』
「ん」
それならいいんだけどね。
信号を待ってる間、やっぱりみんな私をちらちらと見てくる。他の人と違って目立つのは分かるけど、ね。
そうして信号を渡ったところで、
「あ!」
そんな、短いけど大きな声。そして、
「ねえ! ねえ! 君、リタちゃん!?」
その声に振り返ると、男女二人が私を見ていた。このあたりではよく見る服装、スーツかな? 二人ともその服装だ。
「その服! 杖! あと浮かぶ光と黒い板! リタちゃんで間違いない!」
「ん……。そうだけど」
「おお。ほんまにリタちゃんなんや。ほんまにおるんやなあ」
そう言ったのは男性の方。その男性の頭を女性が叩いて、
「アホ! 間違いないゆうたやろ! あ、リタちゃん! 配信、ずっと見てます!」
「いてて……。俺も見てます」
二人はそう言って笑った。ちょっと警戒しちゃったけど、悪い人ではなさそう、かな。
「ん。ありがと」
「それでそれで! 大阪に来てるってことは、たこ焼きかな!? もしくはお好み焼きとか!」
「たこ焼き」
「たこ焼きか。それならうまいとこ知ってるよ。一緒にいこか」
男性の人がそう言って歩き始める。女性はちょっと困った顔をしてたけど、ごめんね、と手を合わせてきた。
「案内してもらってたよね? 今だけでいいから付き合ってもらっていいかな?」
「ん。大丈夫」
美味しいたこ焼きが食べられるならいいよ。もちろん。案内してくれてた視聴者さんには悪いけど、これも何かの巡り合わせってやつだと思うから。
それじゃ、と女性が手を差し出してきたので、とりあえず握っておいた。人が多いからこっちの方が安心だ。
『クッソ羨ましい通り越してめちゃくちゃ羨ましいんだけど』
『案内人さんはちょっとお休みかな』
『しゃーないさ』
みんな優しくて、そういうところは好きだよ。
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