家の鍵


 生態調査の依頼を受けてから一週間。あの後、特に依頼を受けずに過ごしてる。他の人が受けなかった余ってる依頼を受けようと思ってたんだけど、楽しそうな依頼はなかったから……。

 なので今はのんびりだらだらと。真美の家でちいちゃんとだらけてる。いや、魔法を教えてるよ。


「じんわりあったかいのを感じられるようになったら、今度はそれを動かせるようになるのが目標。ただ、すごく時間がかかるから気長にやろうね」

「うん!」


 自分なりに魔力を感じられるようになっても、そこからがとても長い。魔力を動かす、と言われてもどうやって動かすかになると説明できないから。

 さっきちいちゃんの手を握って、実際にちいちゃんの魔力を動かしてあげた。でもそれは動いたらどうなるかが分かるだけ。結果は分かっても方法が分からないってことだね。

 こればっかりは自分なりのやり方を見つけるしかないから、ちいちゃんにはがんばってほしい。


「ところでちいちゃん。真美は?」

「んー……」


 あ、集中してる。邪魔しないでおこう。

 私がここに来たのは、一時間前だ。その時、真美はちょうど出かけるところだった。私を見て、少し迷ったみたいだったけど留守番を頼まれた。少し遅くなるとは言われたけど。


「んっとね……。にゅうがくしき、だって」

「にゅうがくしき……」


 えっと。入学。学校に入ること、だね。そのための儀式みたいなものかな。楽しそう。

 みんなで魔法陣を書いて魔法を使ったりとか……、ないね。魔法ないからね。


「ちいも明日からようちえん!」

「じゃあ、昼に来てもいないってこと?」

「うん」


 そっか。それはまあ、仕方ないかな。二人だって生活があるんだから、私ばっかり拘束するのはだめなことだ。それぐらいは分かる。

 でも、ちょっとだけ、寂しい。


「ああ、そうだ。ちいちゃん」

「んー?」

「ちょっとごめんね」


 むむむ、とうなるちいちゃんの頭に手を置いて、用意しておいた魔法を発動。んー……。よし、大丈夫。これで安全。


「あとは真美かな」


 急ぐ用事もないし、のんびり待とう。




 以前視聴者さんからもらったお菓子のグミをちいちゃんと食べる。食べながらテレビを見る。時間が時間だからかは分からないけど、ニュース番組をやってるね。

 それを見てると、少しだけ恥ずかしい。


『異星からの来訪者、首相と会談』

『会談は和やかな様子で行われたと関係者が明かす』

『今後も継続して交流を図っていく方針』


 私に関わるニュースが多い。多すぎる。ちょっと、うん。そんなに注目することなの?

 なんとも言えない気持ちでグミをかじっていたら、ドアが開く音がした。


「ただいまー」


 真美だ。ぱたぱたと走ってきて、すぐにこの部屋に入ってきた。


「リタちゃんごめん!」

「ん。気にしなくていい。二人にも生活があることは分かってるから。それよりも」

「うん」

「こっち来て」


 真美は首を傾げながらも、私の前で座ってくれた。その真美の頭に手を置いて、先ほどちいちゃんに使ったものと同じ魔法を発動。とりあえず、これで安心だと思う。


「リタちゃん、何かしたの?」

「ん。ちょっとした認識阻害。私に関わることは二人にたどり着かなくなる、はず」


 かなり特殊な魔法だ。単純な認識阻害ならそんなに難しくないけど、条件付けがかなりややこしかった。細部の調整を精霊様に手伝ってもらったぐらいには。

 本当は私一人で完成させたかったけど、あまり時間をかけすぎると問題の方が先に起こるかもしれないからね。それでも時間がかかりすぎたけど。


「なんだかすごい魔法みたい……?」

「ん。がんばった」

「あは。そっか。ありがとう、リタちゃん」

「ん」


 笑顔でお礼を言ってもらえると、がんばったかいがあったと思う。満足だ。


「それじゃあ、出かけてくる」

「うん。どこに?」

「ん。未定。安価やる」

「そっか。前回は私の家に来てもらったし、今回は参加しないようにしておくね」

「ん」


 私はどっちでもいいけど、真美が気にするならそれでいいと思う。

 ちいちゃんにがんばってと声をかけて転移をしようとして、


「あ、ちょっと待って」


 呼び止められたので、魔法を中断。真美を見ると、鞄から何かを取り出した。


「これ、渡しておくね」

「ん……?」


 銀色の細長くて平べったいもの。私が首を傾げると、真美はすぐに教えてくれた。


「この家の鍵。転移があるから必要ないかもしれないけど、一応持っておいて」

「ん……? いいの?」

「うん。お母さんにも許可をもらってるから。いつでも使ってね」


 どうしよう。本当にいいのかな。家の鍵って、日本ではかなり大事なものだったと思うんだけど。

 真美を見ると、とびきりの笑顔だった。これは断れないやつだね。それなら、受け取って、絶対になくさないように気をつけよう。


「ありがとう」


 お礼を言うと、真美は嬉しそうに頷いた。

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