初めての報酬
街の側に転移して、門を通ってギルドへ。受付に行くと、すぐにギルドマスターの部屋に通してくれた。
そして、ギルドマスターさんは、
「すぐに終わらせるだろうとは思ったけど、一日で終わるとは思わなかったわ……」
ミレーユさんが提出した書類を確認しながら消え入りそうな声でつぶやいた。
『ですよねー』
『リタちゃんが入った時、忘れ物ですかって聞いてきたぐらいだもんなw』
『依頼の報告って聞いた時の唖然とした顔はある意味最高でした』
視聴者さんはいい趣味してるよね。もちろん悪い意味で。
セリスさんが黙々と確認してる中、私とミレーユさんは出してもらったジュースをのんびりと飲みながら待つ。日本のジュースと比べると甘さ控えめだけど、これはこれで悪くないと思う。
私たちがジュースを飲み終えて少しして、セリスさんも読み終わったらしい。書類をテーブルの上に置いて、頭を抱えてしまった。
「これを私は上に報告するの……?」
「ん……。問題、あった? 信用がないのは、仕方ないけど……」
「ああ、違うの。それは問題ないわ。そのために二人に行ってもらったわけだし」
調査系の依頼は必ず二人以上で受けないといけないらしい。適当に嘘を書くような不正の防止が目的なんだって。だから二人そろって戻ってきた時点で疑ってはいないらしいけど……。
「リタさん、よくこんな森に住んでるわね……」
この言い草だよ。
『こんな森w』
『でも言いたい気持ちは分かるw』
『人外魔境の極みみたいな森だから……』
視聴者さんたちもひどい。でも否定はできないけど。
「ではこれで依頼は完了ということで、こちら、報酬よ」
そう言って書類を回収したギルドマスターさんがテーブルに置いたのは、重そうな布の袋を二つ。ミレーユさんが先に手に取り、頷いてアイテムボックスの中にしまった。
私も袋を取って中を見てみる。えっと……。金貨でぎっしりだ。枚数は、さすがにちょっと分からない。ミレーユさんはあまり確認せずにアイテムボックスに入れてたけど、すぐに分かるものなのかな。
『経験を積めば分かるのかも?』
『いやさすがに無理だろこれは』
ミレーユさんを見てみる。何故か目が合って、ミレーユさんは小さく笑った。
「私を含めSランクはお金に困っていない人が多いので、調べないことの方が多いですわ。けれど気になるなら調べてもいいと思いますわよ。それぐらい待ってくれるはずですもの」
次にギルドマスターさんを見る。間違いないみたいで頷いてくれた。
「ですがギルドもSランクの信頼を裏切るようなことはしませんから。よほどの馬鹿でもない限り、ごまかしたりはしないはずですわ」
「ん……。そっか」
それはそうかもしれない。ミレーユさんが騒いだら、すぐに噂が広まりそうだし。そうなったら、冒険者からも街の人たちからも信用を失って、仕事がなくなる、かな?
それを考えると、ごまかす方がおかしいよね。
「それでは、これで精霊の森の生態調査、完了となります。お二方、ありがとうございました」
ギルドマスターさんが頭を下げてきたので私も慌てて下げておいた。ミレーユさんも少しだけ下げた。
んー……。これで今回の依頼は終了みたい。なんというか、うん……。
「つまんない……」
『ちょwww』
『いや確かに仕事っていうより、実家案内だったけどw』
『もっとこう、冒険者っぽい仕事がしたいよな』
それだよね。お話に出てくるみたいな、掲示板で依頼を取って、薬草を集めに行く、とかそんなのをしたい。どうせならそういうのがいい。
「Cランクの依頼とかは受けてもいいの?」
セリスさんに聞いてみると、特に悩むそぶりもなく頷いた。
「もちろんよ。ただ、あまり下位ランクの子の仕事を奪わないように気をつけてあげて」
ほどほどに、てことだね。当然の配慮だとは思う。私もお金に困ってるわけじゃないし、余ってる依頼を選ぼうかな。
「それじゃ、私はもう行くけど……。いい?」
「ええ、もちろんよ。今後ともよろしくね、隠遁の魔女さん」
「ありがとうございました、リタさん。わたくしはこの街を拠点にしていますので、何かあればいつでも声をかけてくださいな」
「ん」
二人に小さく手を振って部屋を出る。二人とも笑顔で手を振り返してくれた。それが、なんとなく嬉しかった。
巡り合わせがよかっただけ、というのは分かってる。悪い人だってたくさんいるだろうし、ミレーユさんですら私に話してないことなんていっぱいあるはず。
それでも、とてもいい出会いに恵まれて、私はとても運がいい。
「んふー」
『リタちゃん機嫌いいなあ』
『リタちゃんが楽しそうで俺も嬉しい』
『でも次はもっと楽しい依頼がいいです』
わがままだなあ。でも、そうだね。次はもっと冒険者らしいお仕事、選ぼうかな。
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