おうどん
朝の配信を終えて、お昼過ぎに日本に転移。向かう先は真美の家。
ベランダに転移して中に入ると、真美とちいちゃんが何かを食べていた。器に水がたっぷり入っていて、白っぽくて細長いものをすすってる。初めて見るものだ。
私に気付いた真美が、目をまん丸に見開いた。
「え? リタちゃん、なんで?」
「なんでって……。来ない方が良かったの?」
「そうじゃなくて。配信見てたけど、政府の人は?」
「ん……。後回し。私は急がないし」
朝の配信の後、待ち合わせの場所だけ決めておいた。私の手が空いたら来てほしいと言われたから、先にやることをやっておこうかなって。
つまりはちいちゃんへの魔法の指導だ。
「ええ……。いいのかな……」
「ん。問題ない」
確かに師匠のことは調べたいけど、弟子をほったらかしにすることはできない。そんなことをしたら、師匠に怒られるから。
でも、その前に。
「それ、なに?」
「おうどん。食べる?」
「食べる。食べたい」
先にお昼ご飯だ。
真美は苦笑しながら立ち上がると、ちょっと待っててねと部屋を出て行った。残されたのは、私とちいちゃん。
ちいちゃんはふうふうと冷ましながら、おうどんというのを食べてる。ちゅるちゅるとすすっていて、なんとなく美味しそう。すごく気になる。
「ちいちゃん。美味しい?」
「おいしい!」
にっこり笑顔のちいちゃん。これは、すごく楽しみだ。
もぐもぐうどんを食べながらのちいちゃんと話していたら、真美が戻ってきた。手のお盆には二人が食べていたものと同じおうどんというもの。それをテーブルに置いてくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
早速食べてみよう。
半透明の水、湯気が立ってるからお湯かな。それに二人が食べていた白くて細長いものが入ってる。他には、えっと、なんだろうこれ。ちょっと茶色っぽくて、薄いやつ。食べてみれば分かるかな。
「いただきます」
しっかり手を合わせて、と。それじゃあ、早速。
お箸を使って、うどんを引っ張る。なんだかすごく長い。これをすすって食べればいいのかな?
ずるずるとすする。できたてだからか、少し熱い。でも食べられないほどじゃない。味は濃いわけじゃないけど、すごく食べやすいね、これ。美味しい。
「どうかな?」
「ん。美味しい」
「よかった」
嬉しそうにはにかむ真美。いや本当に、料理上手だね。本人曰く、レシピ通りに作ってるだけ、らしいけど。
「これ、なに?」
「え? きつねあげだよ。うどんあげとも言うかな。うすあげも聞くかも」
「ええ……。多すぎない?」
「あはは……。どこかの和菓子よりはましだから……」
どうして同じものにそんなたくさんの名称があるのやら。
かじってみると、ほんのり甘い。あと、なんだろう。水の味? それも混じってる、気がする。
「お水の味もよくする……」
「み、水……? あ、うん。おだしの味、の方が他の人には伝わりやすいよ」
「おだし」
おだし。なんか、師匠が言ってた気がする。すごく大事なものだって。
ちいちゃんと一緒にずるずるとうどんをすする。ちいちゃんはちゅるちゅるって感じだけど。ちいちゃんを見てたら、にぱっと笑いかけてくれた。かわいい。
「ところでリタちゃん」
「ん?」
「本当にこれ、待たせてもいいの……?」
「ん……?」
真美が指さすのは、テレビ。すごいよね、遠くのものをたくさんの人が見れる機械だって。魔法みたいだ。
いやそれはともかく。
緊急記者会見、話題の推定異星人と接触成功、この後会談の予定……、なんて文字が画面に出てる。あと黒い服を着た人が何かたくさんの光を浴びながら話してる。
うん。うん。うん。いや、えっと……。
「なにこれ」
「あはは……。リタちゃんの少し前の配信からこの話題でもちきりだよ。ついに異星人との接触が、とか、実は壮大ないたずらでは、とか、実際に魔法が見れるとか、そんな感じで」
「うわあ……」
ええ……。そんな、話題にすることなの? なんか、逆に怖いんだけど。この調子だと、待ち合わせの指定の場所もすごく人が多くなってそうだなあ……。
「もう行くのやめようかな……」
「ええ……。ほ、ほら。師匠さんの生家を探してくれるんでしょ?」
生家とはまた違うかもしれないけど、そうなんだよね。それがすごく大きい。
「それに、ほら。リタちゃんが美味しいものを食べるのが好きっていうのもみんな知ってるから、きっとすごく高級な美味しいものが出るよ!」
「高級……」
高くて美味しいもの。うん。それも、いい。真美がいろいろ作ってくれるからわりと満足してるけど、高級なご飯はちょっと興味がある。
んー……。まあ、うん。よし。行こう。
でもまあとりあえず、今はうどんに集中だ。美味しいものはしっかり味わわないとね。
うどんを食べて、少し休憩してから、私は真美とちいちゃんに見送られて転移した。
転移先は東京上空。眼下に見えるのはたくさんのビル群。そのうちの一つの屋上が待ち合わせ場所。そこを見てみると、へりこぷたー? が降りる場所のマーク? そういうやつの真ん中に、真っ黒な服の人が三人ほど並んで立っていた。
その周辺を見てみたけど、他に人はいないみたい。テレビカメラっていうのかな。ああいうのもないみたいだ。気を遣ってくれたのかもしれない。
ただ、うん。空にはいたわけだけど。
ヘリコプターが何台か飛んでいて、そこからカメラが向けられていた。私を指さして何か言ってるみたい。あまり気分は良くないけど、気にするだけ無駄かな。視聴者さんたちも、マスコミがいても気にするなって言ってたぐらいだし。
おっとそうだ。配信しておこう。
手を振ると、見慣れた光球と黒い板が出てくる。早速コメントが流れ始めた。
『リタちゃん何やってんのwww』
『テレビでめちゃくちゃ流れ始めてる』
『待たせてるのに配信を優先するのほんと草』
「ん。いやだって、私は視聴者さんの方が大事だし」
『リタちゃん……!』
『とぅんく……』
『こいつらチョロすぎない?』
将来が不安になるやつだね。
これで準備は完了。さて、行こう。
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