精霊様の仮説
これは本当にどういうことなのかな。日本の特徴はだいたい一致してるから、地球からの転生者というのは間違いないと思うんだけど……。ただ、もしかしたら、似て非なる惑星が他にあるかも、とも思ってしまう。
「ですが、リタ。それほど気にする必要もないのでは?」
「んー……。まあ、うん。それはそう」
この世界での生活にも、日本へ遊びに行くのも、師匠の生まれがどうとかはあまり関係ないのは事実だ。別の地球があるとしても、あそこの料理で私は満足してるし。
でも。それでも。
「師匠の家族がまだいるなら、挨拶ぐらいはと思って……」
「家族、ですか」
「ん……。日本に帰りたそうにしてたから、それぐらいはしてあげたい」
師匠が帰ってきたら、自慢して、日本に連れて行ってあげよう、なんて思ってた。けど、それはもう叶わない。だったらせめて、師匠がここで生きていた証を、師匠の家族に伝えたい。
ただ、それだけ。それだけの理由。
「そんな理由だから、どうしてもっていうわけじゃない。会えたらいいなって思っただけ」
「…………」
『リタちゃん……』
『ええ子やなあ……』
『師匠の名前なんだっけ? 名前さえ分かれば探せるかも』
「名前は、コウタ、だったかな。ただ本名かは分からない」
「本名ですよ」
精霊様の声に顔を上げると、精霊様は真剣な目で私を見ていた。
「心桜島の計画が五年前なら、おそらく五年前から開発が始まる二年前の間に亡くなったのだと思います。地球と呼ばれる星も、私が知る限りあの星だけです」
「ん……。でも、時間がおかしい」
「そうですね……。私もこれが正しい、と言えるわけではありませんが……」
そう前置きして、精霊様は仮説を話してくれた。
宇宙には目に見えない星、光すら吸い込む超重力の星、ブラックホールというものが無数にあるらしい。銀河の中心にすごく大きなブラックホールがある他、それ以外にも小規模なものが点在しているのだとか。
その重力は光を呑み込み、そして空間すらねじ曲げてしまうほど、らしい。それどころか、時空間すらねじ曲げることすらあるのだとか。
師匠の魂がこの星に呼ばれる時、ブラックホールを通り、そのまま過去に飛ばされたのかもしれない、というのが精霊様の仮説だった。
「これが正解かは分かりません。この仮説でも、説明できない部分もやはりありますから」
「ん……。例えば?」
「はい。私が呼んで、それほど間を置かずに彼の魂がこちらに来ました。この仮説なら、何も知らない過去の私の元へと飛ばされたはずです」
「なるほど……?」
『精霊様の声が届くのに数十年かかったとか』
『届いて、そっちの星に向かう間にブラックホールに巻き込まれて過去に飛んだ、てことか?』
『お前ら落ち着け。考えたところで正解なんて絶対に分からないぞ』
それもそうだね。師匠が生きていれば直接話を聞けたかもしれないけど、それはもうどうにもならないことだ。現実は受け入れないといけない。
「そうですね。ですが、コウタの出身はそちらの地球で間違いないかと思います」
それさえ分かれば、十分だ。名前も分かったから、あとはあっちで探せば見つかるかも。
そう考えてたら、そのコメントが流れてきた。
『失礼します。少々よろしいでしょうか』
『おん?』
『なんかお堅い文が流れてったぞ』
分かってるならちょっと静かにしてあげなよ。
「ん。なあに?」
『その人捜し、こちらで引き受けさせていただきます。その代わりにお願いがございます』
「ん。どうぞ」
『あなたを是非とも正式に、我が国へとご招待させてください』
「ん……?」
えっと。なんだか、すごく変なこと言われた気がする。誰だろうこの人。
『日本国外務省外交官、渡辺春樹と申します』
『ふぁ!?』
『ついにお国が接触してきた……!』
『えらいこっちゃえらいこっちゃ!』
『お前ら間違いなく楽しんでるだろwww』
『むしろ楽しむ要素しかねえ!』
ん……。えっと。つまりは日本のえらい人、かな? えらいかどうかはよく分からないけど、そんな感じの関係者ってことかもしれない。
あまり興味はないけど、でも師匠の家族を代わりに捜してくれるなら、それはとてもありがたい。捜し方すら分かってなかったからね。
だから、まあ。少しぐらいなら、いいかな?
「捜してくれるの?」
『全力を尽くします』
『さすがに見つけるとまでは言えないか』
『万一を考えるとリスクになるからな』
『ほーん。よく考えてる』
んー……。いっか。
「それじゃ、お願いします」
利用できるものは利用していこう。国そのものであろうとも。なんて、ね。
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