ギルドマスター


 階段を上って、三階へ。三階はたくさんのドアが並ぶ廊下だった。ミレーユさんに手を引かれて連れて行かれたのは、一番奥の部屋。


「リタさん。これから支部長、つまりここのギルドマスターに会いますわ」

「ん」


 ギルドマスターさんとの面会。何をするんだろう。でもとりあえずあれかな。ここで一番偉い人に会うから、粗相の無いようにとか……。


「ギルドマスターに不愉快なことをされたら言ってくださいまし。制裁しますわ」

「…………」


『なにそれ怖い』

『なるほど察した。ギルマスよりもSランクの方が上なんだな』

『一番上かと思ったら中間管理職じゃないですかやだー!』

『しかも上司がいつ来るか分からないというおまけつき』

『異世界にすら! 夢も希望も! ないんだよ!』


 実力主義ってやつなのかな。人材的にはSランクの方が貴重ってことなんだと思うけど。


「ギルドマスターなんて事務職はいくらでも代わりがいるのですわ」

「あ、はい」


『日本って恵まれてるんやなって』

『法律とかあるかもわからんからな。気付いたら路頭に迷ってそう』

『俺たちのファンタジーへの憧れをぶっ壊すのやめません?』


 私に言われても困る。

 ミレーユさんがドアをノックすると、中からどうぞ、という声が聞こえてきた。女の人の声だ。ちょっと年配の人かも。

 ミレーユさんが先に入って、私もそれに続く。

 大きな机とソファのある部屋だった。壁際には本棚もある。

 ソファは机を挟むように二つ置かれていて、その一つに初老の女の人が座っていた。にこにこと柔和な笑顔を浮かべてくれていて、優しそうな人だ。


「お待ちしておりました。どうぞお掛け下さい」

「ん」


 頷いて、ギルドマスターさんの対面に座る。ミレーユさんは私の隣に座った。なんで?


「なんで私の隣に座るの?」

「嫌ですの?」

「んー……。まあ、いいけど」


 ありがとう、とミレーユさんが笑った。


『てえてえ?』

『いや、単純にリタちゃんがめんどくさくなってるだけだろ』

『尊みのかけらもねえw』


 何を求めてるのかなこいつらは。

 ギルドマスターさんを見ると、あらあらと笑っていた。


「あらあらうふふ?」

「え?」

「なんですのそれ?」

「なんでもない」


『おい誰だよリタちゃんに変な知識教えたやつ!』

『だから全員では?』

『最近だとリタちゃんが漫画を読んで勝手に仕入れたりしてるからなあ』

『防ぎようがねえwww』


 余計なこと言っちゃったのはなんとなく分かる。黙っておこう。


「改めまして、ギルドマスターのセリスです。ミレーユさんから優秀な魔法使いと聞いているわ。飛行魔法も習得済みだとか」

「ん」

「素晴らしいわね。飛行魔法はそれだけで重宝される魔法だから、あなたの加入は歓迎するわ」


 けれど、とセリスさんが続ける。


「いきなり高位ランクというのは、さすがに厳しいわね」

「ギルドマスター」


 声をかけたのはミレーユさんだ。ミレーユさんは不満そうにセリスさんを見てるけど、セリスさんは肩をすくめて、


「当然でしょう。何の実績もない女の子を、灼炎の魔女の紹介だからといきなり高位ランクにしてしまえば、それこそ周囲は納得しないわ」

「むう……」


 変わらず不満そうだけど、今回は納得したらしい。それ以上文句は言わなかった。

 当たり前と言えば当たり前だと思う。他の人からすれば、きっと面白くない。

 でも、こつこつ仕事してランクを上げる、というのもやる気はないんだよね。せっかくだから入ってみよう、程度の気持ちだから。


 我ながら不真面目すぎると思う。やっぱりギルドは断った方がいいかも。いや、でも、二つ名はほしい。かっこいいのが欲しい。どうしよう。

 頭の片隅でそんなことを考えていたら、セリスさんが困ったように片手を頬に当てた。あんな仕草、本当にする人いるんだね。


「やっぱり納得はできないわよね」

「納得できませんわ!」

「なんでミレーユさんが答えるの?」


 今のは間違い無く私への質問だったと思うんだけど。いや、いいけどね。


「そこで、Aランクの冒険者用の依頼を三件、用意したわ。このどれか一つを、ミレーユさんと一緒に受けてもらえるかしら。それを試験としましょう。ミレーユさんは今一度、試験官としてリタさんを見極めてください」

「まあ……それなら、いいですわ」


 ミレーユさんが承諾したっていうことは、この辺りが現実的なラインってことなんだろうね。それでもかなり譲歩してもらえてると思う。何も知らない私でも、ミレーユさんが紹介するからっていきなりAランク以上は無理があると思うし。

 一階の冒険者さんを見たら分かるから。信用が大事だって。


「それではリタさん。どの依頼がいいかしら」

「ん……? どれでもいいの?」

「ええ。これならできるというものを選んでね」


 うん。本当にすごく譲歩されてるのが分かる。ミレーユさんの方が心配になるぐらいに。大丈夫かな、他の人に疎まれたりしないかな。

 でもここで聞いても、問題ないって絶対言われると思う。それぐらいは私でも分かる。だから素直に選んでおこう。

 えっと……。


「廃都イオに生息するドラゴンの討伐。不死鳥の涙の採取。精霊の森の調査……」


 ん? あれ? え? 精霊の森の調査って、なんで……?

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