魔力測定
『ド正論である』
『洗礼みたいなものはやっぱあるんだな』
『あるけどリタちゃんみたいな子供にはやらないってことか』
『テンプレ不発で悲しい』
私もてっきりやるかと思ったよ。期待、とかではないけど、ちょっとわくわくしていたのは内緒。
私の不満そうな顔に気付いたのか、おじさんは肝っ玉が据わった嬢ちゃんだなと苦笑した。
「俺たち冒険者も信用で成り立ってる商売だからな。子供に喧嘩をふっかけた、なんて街の人に知られてみな。信用なんて吹き飛んで仕事なくなっちまうよ」
「ん……。なるほど」
言われてみれば当然か。依頼したギルドで働く人が不誠実な人とか粗暴な人だと、信用なんてできるはずもない。そんな噂が流れたら依頼が減っちゃうんだろうね。
依頼が減るっていうことは、働ける人も減るわけで。冒険者の人からすれば死活問題になる。
「冒険者も大変」
「そうなんだよ。ギルドの看板を背負ってるわけだからな。下手なことなんてできねえ」
「それをすぐに理解できる君は見込みがあるよ。Aランクも夢じゃない」
「魔法使いなんでしょう? 期待しているわ。機会があれば、色々教えてあげるわね」
みんなにこやかにそう言ってくれる。もちろん遠巻きにして面白くなさそうな人もいるけど、でも優しそうな人の方がずっと多い。これなら新人さんも安心だ。
『やさしいせかい』
『やさいせいかつ』
『ここまでテンプレ。ここからからあげ』
『どっから唐揚げが出てきたんだよw』
『でもこいつら大丈夫か? なんか、冒険者になることを止めようとしてたのに、逆に勧めてない?』
そんなコメントが聞こえた直後だった。
「って、いやいや待て待て! 冒険者になるのを止めようとしてんのに、なんで勧めてんだよ!」
「は! そうだったわ!」
「いいかい、悪いことは言わない。冒険者になるなんていつでもできる最終手段だ。他の真っ当な仕事を探した方がいいよ!」
『コントかな?』
『こいつら絶対ノリで生きてるぞ。間違い無い』
そんなことないと思う。多分。
止められても、私は登録するわけだけど。いやだって、ミレーユさんにも勧められたし、承諾したし。そういえば、ミレーユさんが遅い。
まだかなと思って階段の方を見れば、にやにや笑いながらこちらを見ていた。
よし。なるほど。
「じゃあ、やめる」
私がそう言うと、周囲の人とミレーユさんで面白いほどに反応が分かれた。
「おお! それがいいそれがいい! よし、なんなら一緒に仕事探しに行くか! 大丈夫だ、おっさんは顔が利くぞ! 依頼料なんていらねえから任せとけ!」
「さすがおっさん、頼りになるね!」
「てめえがおっさん言ってんじゃねえ!」
周囲の人は安心したみたいで嬉しそう。
そしてミレーユさんは、
「ま、まってまってまって! 本当に待って! リタさん考え直して!」
ものすごく大慌てて駆け寄ってきた。少し面白い。
「あん? 灼炎の魔女さんじゃねえですか。Sランクの人がどうしたんです?」
「あら。もしかしてミレーユ様のお弟子さん? 修行でギルドで働いてみる、とか」
「そっか、それなら納得……」
「違いますわ! そうではありませんの!」
「はあ……?」
首を傾げる人と、慌てたままのミレーユさん。受付さんも困ってる。
ミレーユさんはじれったそうにしてたけど、すぐにぽんと手を叩いて受付さんへと叫んだ。
「そこのあなた! すぐに魔力測定の宝珠をお持ちなさい!」
「は、はい!」
受付さんが慌てたように立ち上がって、カウンターの奥にある部屋に走って行く。すぐに戻ってきて、カウンターの上に丸い宝石を置いた。
拳大ぐらいの大きさだ。これは、あれだね。触れると魔力が多いほど光り輝く魔道具だ。師匠に聞いたことがあるから間違い無い。
「さあ、リタさん! これに触れてくださいまし!」
『テンプレ展開キタコレ!』
『誰よりも光り輝かせてびっくりされるやつや!』
『よっしゃやったれリタちゃん!』
うん。知ってる。みんなも乗り気だね。
でも、そんなテンプレ展開は拒否しよう。
魔力をコントロール。体外に漏れ出る魔力を完全に消す。これで触れば、光ることなんてあり得ない。
そうして宝石に手を触れれば、やっぱり一切光ることがなかった。
『なんでえ!?』
『リタちゃんが意地悪すぎる……!』
『やり直しを要求します!』
断固として拒否します。理由は特にない。
どうだ、とばかりにミレーユさんを見れば、目をまん丸に見開いていた。信じられないものを見るかのように。周囲を見ると、みんなが同じように固まってる。
はて。ミレーユさんはともかく、他の人はなんで?
「信じられねえ……。光らないってことは、漏れ出る魔力を完全に止めたってことか……」
「そんなこと、あり得るの? 魔法使いでなくても漏れ出るものでしょう……」
「わたくしでも、完全に止めることなんて不可能ですわ……」
うん。よし。なるほど。
わたし、何かやっちゃいました?
『そっちできたかあw』
『それもテンプレっちゃテンプレだなw』
『さすがリタちゃん、そこに痺れる憧れる! 真似はできないけど!』
『できるわけがないんだよなあ』
これ、光らせてしまった方が良かった気もする。
私が何とも言えない苦い気持ちを抱いていると、誰かが私の肩に手を置いた。振り返ると、ミレーユさんがとってもいい笑顔で私を見てる。とってもとってもいい笑顔。
「リタさん。やはり逃がすわけにはいきませんわね」
「…………」
この人怖い。
『ヒェッ』
『本性現したわね!』
『これはもうダメかもしれんね』
何がダメなのかなあ!?
ミレーユさんに腕を掴まれて、二階へと引っ張られていく私。他の人も、もう止めようとはしてくれなかった。悲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます