先輩冒険者の皆様


 たくさんの建物が並ぶ街。道路は石畳で整備されていて、馬車も走りやすそう。多くの人が行き交い、雑談や子供の元気な声が聞こえてきて、活気に溢れてる。

 うん。すごい。日本とはまた違ったすごさだ。私はこっちの方が好きかも。


『俺は日本かな、やっぱ』

『パソコンとネットがあればどこでもいい』

『パソコンやスマホのない生活とかイメージできない。ぜったいやだ』

『ここには廃人しかいないのか?』

『ここを見てる時点でお前も同類なんだよなあ』


 パソコン、便利だからね。私も真美が持ってるものを少し触らせてもらったことがあるけど、すごいと思った。

 だって、ちょっと検索とかいうのをやっただけで、いろいろ情報が手に入るんだよ。便利なんてものじゃない。真美が言うには嘘や間違いの情報もあるから取捨選択が大変らしいけど、そんなものパソコンじゃなくても同じだ。


 私も欲しいな、パソコン。まあパソコンを手に入れても、森では使えないだろうけど。そもそもとしてインターネットというのに繋げられないだろうし。

 そんなことを考えながら、ミレーユさんについて行く。それにしても、賑やかな街だね。みんな楽しそう。お店もたくさんあるから、あとで寄ってみたいな。


「リタさんは大きな街は初めてなのですね」

「ん……。この世界の人里が初めて」

「本当にどんな田舎ですの……?」


 周囲が巨木と魔獣に囲まれた素敵な森です。私以外、人が住んでいないけど。


「つきましたわ。ここがギルドです」


 不意にミレーユさんが立ち止まって、そう言った。

 ミレーユさんが案内してくれた建物は、他よりも一回り大きい建物だ。具体的に言えば。二階建ての建物が多くて三階建てがちらほらとある中、ここだけ四階建てになってる。

 人の出入りも多くて、その人たちも鎧やローブのいかにも冒険者な人ばかりだ。なるほど、ここがギルド。


「おー……」


『やべえ、イメージ通りすぎてやべえw』

『ここが……異世界の本拠地……!』

『異世界の本拠地ってなんだよw』


 日本の漫画でもたまに見るやつとすごく似てるね。ここまで似通ってると、誰かこの星から日本とかに行っちゃって広めた人が実際にいるんじゃないかって思ってしまう。

 ない、とは言い切れない。だって師匠が実例だから。


「リタさん?」

「ん。今行く」


 ミレーユさんを追って、ギルドの中に入った。

 ギルドの中は広い部屋になっていた。左側に掲示板みたいなのが設置されていて、小さい紙がたくさん貼り付けられてる。部屋の奥にはカウンターがあって、三人ほどカウンターの奥で座っていた。


 あれが受付かな。依頼を出したり受けたり報酬をもらったり。ちょっとやってみたいかも。

 他にも丸テーブルがいくつかあって、たくさんの人が談笑していた。

 カウンターの両側には階段がある。二階より上には何があるのかな。聞いたら教えてくれるかな。だめかな。


「リタさん、わたくしは支部長と少し話してまいりますわ。すぐに戻ってまいりますから」

「あ、はい。りょです」

「りょ……?」

「了解です」


『おい誰だよリタちゃんに変な言葉教えたやつ』

『俺ら全員だろ言わせんな恥ずかしい』

『これ絶対に師匠さんに怒られると思うんだ……』


 階段を上っていくミレーユさんを見送る。ミレーユさんは有名人みたいで、階段に向かう間、たくさんの人に話しかけられていた。さすが灼炎の魔女だね。これが二つ名持ち。


「かっこいい」


『あ、ハイ』

『カッコイイナー』


 なんだかすごく流されてしまった。

 この後は、どうしよう。ミレーユさんはすぐに戻ってくるみたいなこと言ってたけど、だからって待つだけっていうのも……。なんだかちらちらと見られてる気がするし。


「そこの君、どうしたの?」


 不意にそんな声がカウンターの方からかけられた。見ると、受付の一人が私を見て手招きしていた。

 呼んでくれたし、行ってみよう。

 なんだかちらちらと感じる視線が気になるけど、カウンターへと歩いて行く。受付さんは私が目の前まで来ると、にっこりと笑った。


「こんにちは。ギルドに用事? 依頼を出したいの? それとも、迷子かな?」

「んー……」


 さて。どうしよう。


『登録しようぜ!』

『テンプレやろうテンプレ!』

『お前みたいなガキが登録なんてふざけんなとか言われよう!』

『もしくは魔力の測定とかでばかな! すごい魔力だ! みたいな!』


 なんかみんな好き放題言ってるけど、登録するという意見はみんな同じみたいだ。それなら、うん。登録しよう。


「登録したい。冒険者になりたい」

「え」


 驚いて目をまん丸にする受付さん。どうにも困ったような表情だ。


「えっと……。冒険者って、危険な仕事も多いの。何があったか知らないけれど、別の仕事を探した方がいいんじゃないかな? どこか紹介してあげようか?」

「それはいい。冒険者がいい」

「ええ……」


 なんだか、断りたいっていう気持ちがひしひしと伝わってくる。ただこれ、私を嫌ってるというよりは心配してくれてるみたいだね。いい人なんだと思う。

 受付さんが言い淀んでいると、今度は真後ろから声をかけられた。


「おう。嬢ちゃん、冒険者になりたいんだって?」


 振り返る。筋肉むきむきなおじさんだ。とても強面の人で、私のことをじっと睨んでる。


『テンプレキタアアア!』

『新人への洗礼ってやつですね分かります!』

『ぶっ飛ばそうぜリタちゃん!』


 血の気多すぎない?

 視聴者さんのコメントに困惑していたら、おじさんが私の両肩をそっと掴んで、


「悪いことは言わねえ。やめとけ」

「え」


『え』

『おや?』


「いいか? 冒険者っていうのは、楽しい仕事じゃねえんだ。はっきり言っちまえば、まともな仕事ができねえやつの掃きだめさ。だから命の危険ともいつも隣り合わせだ。例えば……」


 そこから始まったのは、おじさんの苦労話。ただの薬草採取のはずが大きな魔獣に襲われたり、ゴブリンの討伐に行ったら巣が大きくて危うく死にかけたり、そんな話。

 途中からおじさん以外も加わってきて、顔に傷があるお兄さんとか、魔法使いのローブを着たお姉さんとか、たくさん集まってきて。そしてみんな、冒険者なんてやめとけと言ってくる。

 うん。なんか、予想と違う。漫画とかだと、言いがかりをつけられて襲われたりとかだったのに。


「ん? どうした嬢ちゃん」

「ん……。えっと……。知り合いの人に、登録の時に襲われる、みたいに聞いたから……」


 ちょっと濁してそう言えば、おじさんたちは一瞬だけぽかんとした後、気まずそうに目を逸らした。


「いや、うん。確かにそれもやってるんだけどね……」

「あのな、嬢ちゃん。嬢ちゃんみたいな子供に難癖つけて喧嘩をふっかけるとか、人間としてクソすぎるだろう……」

「間違い無くギルドから除名処分を受けるわね」


 ぐうの音も出ない正論でした。

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