勧誘されてます

「あの……リタさん?」

「あ、えと。ごめん。なに?」


 コメントに集中しすぎた。多分ミレーユさんが何か話してたと思うけど、全然聞いてなかった。

 ミレーユさんは呆れたようにため息をつきながら、もう一度話してくれた。


「その様子ですと、本当にギルドや冒険者については知らなかったようですわね」

「ごめん」

「いえ。どうやら上級貴族の使者というわけでもないようで」

「ん……?」


 なんでいきなり、貴族とかが出てくるの? いや確かに関係ないけど。むしろ関係ないと思われた理由が気になる。


「どうして関係ないと思ったの? いや、上級貴族なんかと関係はないけど」

「上級貴族の関係者がこんなバカ……、失礼、もっと理知的かと」

「…………」


 なんか、すごくバカにされた気がする……!


『草』

『否定できないのがまた……』

『無知は分かりやすいほどに晒してたからなw』


 視聴者さんはどっちの味方なのかな。


「それにしても……」


 ミレーユさんが私をじろじろと見つめてくる。頭の先からつま先まで。そんなに見られると、少し恥ずかしい。


「あなたほどの魔法使いが、ギルドに所属しておらず、貴族の子飼いでもないのに、今の今まで無名だなんて……。驚きですわね」

「ん……? あなたほどって、どういうこと?」

「空を飛んでいらしたでしょう? 空を飛ぶのは熟練の魔法使いでも難しいですわよ」


 まって。いや本当に、待って。

 私、空を飛ぶ魔法を覚える時に、師匠から基礎的な魔法だって言われたんだけど。いやでも確かに、基礎的な魔法なのに他の魔法と比べるとやたらと難しいと思ったけどね。

 魔力のコントロールがかなり難しい魔法なんだ。正直、空を飛べる魔法さえ使えたら、あとはコントロールについては大丈夫だと言えてしまうほどに。

 だからこそ初期に教える基礎的な魔法、とか師匠は言ってたんだけどね……。


『間違い無く騙されてますね』

『お師匠の代から見てるワイ、みんなでいつ気付くか賭けていたということを暴露しておく』

『俺、すぐに気付かれると予想してたんだけどなあ』

『一年で気付くと予想してたw』

『お前らwww』


 え、なにこれ。視聴者さんの大勢が知ってったってこと……? 教えてくれてもいいのに。

 でも言われれば言われるほど、私が気付くべきだったとも思う。せめて次に教わった魔法がすごく簡単だと感じた時に気付いておくべきだったよ。


「師匠からは空を飛ぶ魔法は基礎の魔法だと教わりました……」

「ええ……」


 どん引きされたんですが。


『草www』

『草に草を生やすな』

『まあでも、実際にリタちゃん以上の魔法使いなんてそうそういないだろうし、問題ないさ』


 私の気持ちにはとても問題あるけどね。とても。


「こほん。まだどこにも所属していないのなら、是非ともギルドに所属することをオススメいたしますわ」

「ん? なんで?」

「貴族ですら手出しできないからですわ」


 名の売れた冒険者は貴族から声がかかることもあるのだとか。でもそれで貴族に仕えるかは自由に選べる。

 無理に引き抜こうとすると、その国からギルドがなくなるかもしれない。それを危惧して、あくまで勧誘する程度になるのだとか。


「もちろんそれでも無理矢理な引き抜きはありますわ。けれどそれを国王なり上の方に報告すれば、対処していただけます。なので、貴族に仕えたくないのなら、ギルドに所属することが一番安全ですわ」


 ということで、とミレーユさんが身を乗り出してきた。


「是非とも、ギルドに入ってほしいですわ!」


 んー……。さて、どうしよう。正直なところ、どっちでもいいと思ってる。貴族は煩わしいかもしれないけど、そもそもとして迷惑だと思ったら帰ればいいだけだし。

 もしも森まで追ってくるなら、それこそ容赦しない。容赦せずに放置する。それだけで、森の魔獣に食われるだろうから。

 視聴者さんはどうしてほしいんだろう?


『ギルドに入るべき』

『めんどくさいのなら、入らなくてもいいんじゃね?』

『是非とも入ろう。王道だし』


 何がどう王道なのかはよく分からないけど、入る方の意見が多そうだし、入ってみようかな。わりと楽しそうだし、ね。


「じゃあ、入ります」

「本当に? 嬉しいですわ! 歓迎致します!」


 にっこり笑って手を差し出してきたので、その手を取る。しっかりと握手だ。


「それでは、ギルドの本部に招待させていただきますわ」


 そう言って、ミレーユさんが部屋を出て行くので慌てて追う。その時に、ミレーユさんはぽつりと。


「貴族に取られる前に確保できましたわ……」


 そんな言葉が聞こえてきた。どういう意味なんだろうね。聞くつもりはないけど、ね。

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