二つ名と称号

 仕方ないとは分かってるけど、野生児はわりと本当にショックだったかもしれない。いや、うん。いいけどね。私は自分のお仕事に誇りを持ってるから。多分。きっと。


「では、僭越ながらわたくしから簡単に説明してさしあげますわ。わたくしがここにいる理由でもありますので」

「はあ……。お願いします」


 というわけで、ミレーユさんから冒険者とギルドについて軽く教えてもらった。

 冒険者というのはギルドに登録してる人のことで、ギルドは冒険者の人に仕事を斡旋する組織のこと、らしい。登録の時の聞き取りで適性を調べられて、戦士か魔法使いに分けられるのだとか。

 その適性に合った仕事を紹介してくれるようになってる、とのこと。


「ふむふむ」

「もちろん高難易度の依頼をすぐに受けることはできません。冒険者にはランクがありまして、そのランクに応じた仕事を振り分けられますわ」

「ほうほう」

「聞いてます?」

「ん」


 大丈夫。ちゃんと理解してるよ。ただ、視聴者さんがちょっとうるさいだけ。


『はいはいテンプレテンプレ』

『いつものやつですね分かります』

『つまりは仕事を決められなかったやつらの最終受け入れ先ってことだろ。単発バイトみたいな』

『身も蓋もない言い方すんなw』


 視聴者さんにとっては、どこかで聞いたことのあるようなものらしい。私も何かで見た覚えがあるけど。漫画とか。


「ちなみにランクは六段階ですわ。上からS、A、B、C、D、Eとなります」


『なんでアルファベットなんだよwww』

『お前新参か? そこを気にするならまず言葉通じてることを気にしろよ』

『ちな配信魔法は異世界語と日本語が自動的に翻訳されてるぞ』

『ランクの等級も翻訳の都合だろうな。なんでアルファベットかはわからんけど』

『多分リタちゃんが読んでた漫画の影響じゃないかな』

『あんなところから学習すんなよwww』


 あー……。そういえば、あったね。漫画のタイトルは忘れたけど、その漫画にもギルドがあって、ランク付けがあった。

 全部が一緒ってわけじゃないけど、なかなか似通ってると思う。分かりやすいからかな。


「さらに、Aランクに到達した者には、二つ名が与えられますわ!」

「二つ名?」

「そうです! 多くの冒険者が、二つ名を得ることを目標にしていますわ!」


 二つ名。称号みたいなものだよね。かっこいいやつだ。なんとかの魔導師、とか。


「わたくしは最年少のSランクです。もちろん二つ名持ちですわ!」

「おー……。なに?」

「わたくしは! 灼炎の魔女! ミレーユ!」

「おー……!」


 なんだかすごいかっこいい気がする! 気がした!

 でも視聴者さんの反応は違っていた。


『ぎゃああああ!』

『あいたたたたた』

『うぐおおおお!』


「……っ!」


 頭の中に唐突に悲鳴のようなものが流れて、思わずびくっとしてしまった。悲鳴はまだ続いてる。コメント由来のものだと思うけど、いきなりすぎるよ。ミレーユさんからすごく不審そうに見られてるし。


「ど、どうかしました?」

「ん……。ま、待って……」


 私が聞きたい方だから! えっと、少しコメントに集中しよう……。


『うおおおお! 封印した厨二病がうずく……!』

『よせ! やめろ! それ以上やるとこの右目の封印をばばばばば』

『この俺の右腕に封印されし邪龍がお前をろろろろ』


 いつも以上に意味が分からないことになってる。なにこれ。


『阿鼻叫喚で草』

『誰もが一度は通る道だからね、仕方ないね』

『リタちゃんは気にしないでいいから。バカどもの問題だから』


 気にしなくていいと言われても気になるよこれ。

 落ち着くためにゆっくり深呼吸してから、ミレーユさんに意識を戻す。どこか心配そうに私を見てる。やっぱりこの人、いい人だ。


「ごめんなさい。もう大丈夫」

「そうですか? その、ご気分が優れないのでしたら、宿の手配をさせていただきますけれど……」

「平気」


 説明したくてもできないし。


「魔女というのは、Sランクに到達した女性の魔法使いに与えられる称号ですわね。他にも国から称号を与えられる場合もありますわ。二つ名と称号を合わせて、灼炎の魔女、ということです」

「かっこいい」

「ふふふ。そうでしょう?」


 素直に褒めると、ミレーユさんは満更でもなさそうに、でもちょっぴり頬を染めて微笑んだ。かわいいと思う。


『かっこいい……のか……?』

『痛いと真っ先に思った汚れた俺を誰か殺してくれ』

『今回は多分ほとんど全員が思ってるよ……』


 えー。かっこいいと思うけど。灼炎の魔女。かっこいい。

 私も何か名乗りたいな。二つ名。私の場合どうなるんだろう。ミレーユさんは、多分炎の魔法が得意なんだよね。じゃあ得意なものから連想して……。


「私の得意な魔法って、なに……?」


 ミレーユさんに聞こえないように小声で聞いてみたら、みんなから答えがあった。


『転移魔法?』

『召喚魔法?』

『何を召喚してるんですかねえ』

『お菓子』

『つまり、お菓子の魔女』

『それだ』


「それだ、じゃないよ。もっとかっこいいのにしてほしい。例えば……そう……。深淵の魔女とか」


『審議中』

『審議中』

『審議するまでもなく、ないな』

『ない』

『満場一致で否決されました』


 なんで!?

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