テンプレお嬢様
私が聞くと、兵士さんはすぐに頷いてくれた。
「もちろんです! 魔導師は街の、国の、そして世界の宝です! 拒む者などいるはずもありません。人捜しとのことですが、こちらで協力させていただきます」
「あ、それはいいです」
「そうですか……」
なんか、しゅんと落ち込まれてしまった。ちょっと子犬っぽい……、いやそれはないか。こんなに大きな犬なんていてほしくない。
「では、どうぞ魔女殿。ご案内させていただきます」
「え。あ、えっと……。並ぶんじゃ……?」
「魔女殿をお待たせするなんてとんでもない!」
「はあ……」
いや、いいんだけどね。待たされずに入れるならすごくありがたいし。
でも、なんとなくだけど。何か目的というか、そういうのがあるんだろうなっていうのは察してる。特別待遇っていうよりも、私が待ちくたびれてどこかに行ってしまわないように、とかそういうやつだと思う。
だって、単純に案内だけなら兵士さんは二人もいらないだろうし。一人は何も言わずにじっと私を見てるからね。少し怖い。
話しかけてくれた兵士さんが先導してくれて、私がそれに続く。もう一人の兵士さんは私の後ろ。護衛なのか逃がさないようになのか、どっちかな。
『これはリタちゃん、捕まっちゃうのでは?』
『よろしい、ならば戦争だ!』
「いやしないけど」
「魔女殿?」
「なんでもない、です」
思わず口が滑ってしまった。人の目があるところでは黙っておかないと。
ちなみに捕まえようとしてきたら、さっさと転移で逃げるつもりだ。その場合は他の街に行こうかなって。
兵士さんに連れられて、大きな門へ。たくさんの人や馬車が並んでいて、順番に検問を受けてる。その列の横を堂々と通っていく私たち。
気のせいかな。列の人にすごく見られてる気がする。気のせいかな。気のせいだよね。
『少なくとも俺ならなんだよあいつって思う』
『軽くイラッとするね!』
『殺意とまではいかないけどむかつくかな』
お腹がきゅっとするようなことは言わないでほしい。
そうして私が案内されたのは、門の中にある部屋だった。小さな部屋だけど、椅子やテーブルは精巧な造りをしていてちょっと高級そう。私には物の価値なんて分からないけど。
そして、その部屋では女の人が待っていた。華美な装飾が施された黒いローブの人。とても綺麗な金の髪で、年は私よりも少し上ぐらい。
私を見て、その人は胸を張って言った。
「よく来たわね! わたくしはミレーユですわ! あなたを招待したのはこのわたくし! 感謝なさい!」
うん。なんだこいつ。
そう思ったのは私だけだったみたいで、
『お嬢様だあああああ!』
『すげえ! 典型的なお嬢様や! こんなんマジでいるんか!』
『ツンデレですか!? ツンデレお嬢様ですか!?』
止まることなく声が流れてくる。正直言うとすごくうるさくて切りたくなるけど、でもこれは楽しんでくれてるってことだし、このまま続けようかな。
視聴者さんが楽しんでくれるなら、この人とお話しするのも悪くないと思えるから。
「ん。初めまして。リタ、です」
「リタね! 覚えたわ! わたくしはミレーユですわ!」
「ん……? はい」
いやさっき聞いたけど。なんで二回も繰り返したの?
私が首を傾げると、ミレーユさんも不思議そうに首を傾げた。
「あ、あの。魔女殿。お相手はミレーユ殿です。ご存知でしょう?」
「いや知らないけど」
「え?」
「え?」
そんなさも知ってて当然みたいな反応されても。もしかしたら森の外ではわりと有名な人なのかな。ごめんね、私には聞き覚えも何もないよ。
師匠の話にも出たことがない名前だし、最近有名になった人なのかな?
「わ、わたくしを知らないの!? 最年少で魔女となったこのわたくしを!?」
え、なにそれ。魔女になるも何も、魔法を使える女の人なら魔女じゃないの……?
『これはお互いの認識に蘇我があるやつ』
『齟齬な。多分だけど、魔女として認められるのってすごいことなんじゃないかな』
『称号とか位とか、そんなやつでは』
あ、それならなんとなく分かるかも。でも一応、聞いておこう。
「魔女ってなんですか?」
「え?」
「え?」
どうしてそんな、信じられないものを見るような目で見てくるの? うそでしょ、とか小声で言わないでよ。聞こえてるよ。少し傷つくよ。
『これが世間知らずの弊害か』
『引きこもりだからなあ、リタちゃん』
『パソコンのない引きこもりとか情弱一直線だからなw』
もう配信切ろうかな……。ひどいと思うよ。うん。
「魔女というのは、魔法を扱う冒険者に与えられる称号の一つですわ。魔法の最上位に到達した女性に与えられます。冒険者はご存知? ギルドは?」
「なんとなく」
「なんとなく……。あなた、どんな田舎から来ましたの……」
失礼な人だ。私はそんな田舎者じゃ……。田舎……。いや待って。
『田舎者ですらないんだよなあ』
『人が住んでない森に引き籠もってる子だからなw』
『むしろ野生児の方が近いのではw』
いや。いや。ちょっと、え……。否定できない!?
そうだよね、森だからね、私の他に人は誰一人として住んでないからね。田舎にすらなってないよね。野生児って言われると誤解されそうだけど、でも野生で生きてると言える気がする。
でも! でも待ってほしい! 私は日本を知ってるよ! 伝説のカツカレーとか、餃子とか、お饅頭とか、この世界にはないとっても美味しいものを食べて……。
『ちなみにリタちゃん、当たり前だけど日本はノーカンだぞ』
『そもそもとして日本に住んでるわけじゃないからな……』
『観光に行った場所を自慢して田舎者じゃないは無理があると思う』
逃げ道が……一つもなかった……。
「あの、リタさん? 急に黙って、どうされましたの?」
「なんでもないです……。田舎者なんてそんないいものじゃないです……。どうぞ野生児と呼んでください……」
「どういうことなの……」
『お嬢様の困惑も致し方なし』
『野生児ちゃん、落ち込むのは分かるけどとりあえずお話しに集中しようぜ』
『さりげなく追い打ちかけんなwww』
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