空を飛ぶ魔法


 視聴者さんが景色に飽きたので、スピードを上げた。精霊の森から街までは馬を丸一日走らせたぐらいの距離、らしい。一時間ほどでついたけど、それでもみんな暇そうだった。


『スピードアップしてから景色すら分からなくなったからなw』

『会話しかすることなかった……』


「んー……。次から移動中の配信はやめておくね」


 移動が重要とはさすがに言えないし、街の中だけ見せる、とかでもいいよね。

 とりあえず、到着だ。ある程度高い場所を飛んでるんだけど、眼下に大きな街が見える。魔獣対策の大きな壁が街を取り囲んでいて、東西南北それぞれに門がある。


「どこの門を使うべきかな。最寄りでいい?」


『だめ』

『精霊の森から来たってこと丸分かりになるやん。南門から入ったら?』


「南ね」


 地上から見えないように高度を上げて、反対側へと向かう。

 こうして上から眺めてみると、本当に広い街だっていうのが分かる。中心に大きな建物があるのは、何だろう?


『はえー。ファンタジーですなあ』

『何がすごいって、あれだけ大きな街なのに電線がないってことだよね』

『現代日本からじゃ考えられないな』


 日本は、というよりあっちの世界は、電線ばかりだったね。どこを見ても必ず電線があった、と思う。科学は魔法よりも便利だとは思うけど、電線は本当に邪魔だった。

 この世界は、どうなるのかな。科学がなくても、魔法がある。魔法そのものが使えなくても、魔法の道具なんてものもある。今更科学が入り込む余地はない、と思えるほどに。

 なんて、そんなこと考えてみたけど私にはあまり関係ないことだね。なるようにしかならない、とも言う。

 そんなことを考えていたら、反対側の南門にたどり着いた。


「おー……」


 長蛇の列で並んでる、というほどではないけど、途切れることなく街に入っていく人や馬車がある。逆に街から出て行く馬車も。交易の街と言われるだけあるね。

 それじゃ、私も入ってみよう。とりあえず南門の前に下りていけばいいかな?

 いきなり落ちたらびっくりする人もいるだろうし、ゆっくりと下りていく。あ、ちらほらと私に気がつき始めた。指を指されてる。門番らしい人も気付いたみたいで、こっちを見てぽかんとしてる。仕事しなよ。


『おやかた! 空から不審者が!』

『よし、撃ち落とせ』

『なんでやw』


 いきなり攻撃されたら反撃しちゃうよ?

 うん。なんか、注目を集めてしまってる。いつの間にか誰も動かなくなってる。みんな私を見て固まってる。どうしよう、何があったのか分からない。

 ゆっくりと地面に着地する。相変わらず視線を集めたまま。えっと、私は何を求められてるの? 何も悪いこと、するつもりはないよ?

 あ、この黒い板が怪しいのかな。当たり前か。


「コメントの板、消すね。いくつかのコメントは直接耳に届くようになってるから」


『りょ』

『当然やな』

『相変わらずの謎技術』


 技術というか、魔法だしね。

 黒い板を消して、改めて周囲の様子を確認する。うん。うん。やっぱりみんな見てる。どうしようかこれ。

 次の行動を決めかねてる間に、街の方から兵士さんが走ってきた。武器の類いは何も持ってない。丸腰と言ってもいいかも。

 走ってきた兵士さんは、二人。二人とも私の目の前で立ち止まると、直立の姿勢になった。


「失礼致します! 高名な魔女殿とお見受けしますが、ゲーティスレアへはどのようなご用件でしょうか!」

「ん……。ゲーティスレアって?」

「は! この街の名前です!」


 街の名前はゲーティスレアというらしい。長い名前だね。日本を見習え。


『高名な魔女ってなんや』

『リタちゃんって有名なん?』

『森から出たことのないリタちゃんが有名だとしたら師匠さんの仕業だろうけど』


 ん。そっか。師匠の手がかり、かもしれない。聞いておこう。


「私のこと知ってるの?」

「いえ!」

「ん……? 高名っていうのは?」

「空を飛んでいたためです!」


 待って。


『空飛べたら有能なんか?』

『兵士の反応見る限り、有能なんてもんじゃないっぽい』

『はい、ここで皆さん、かつての師匠の言葉を思い出してみましょう』

『空を飛ぶ魔法なんて基礎中の基礎、だっけw』


 いや、うん。おかしいとは思ってた。思ってたよ。だって、基礎のわりにはかなり難しかったから。今でこそ自由に飛べるけど、覚えるのにかかった時間は他と比べて圧倒的に長かった。

 何が基礎だ。会えたら怒ってやる。


「魔女殿?」

「ん……。なんでもない、です」

「そうですか。では、そのですね。どのようなご用件でいらっしゃったのでしょうか?」

「んー……。ただの観光、ついでに人捜し、です。ところで、私からも聞いていいですか?」

「何なりと」

「なんで、その、そんなに丁寧なんです? 子供相手ですよ……?」

「魔女というのは、見た目通りの年齢とは限りませんから。空を自由に飛べるほどとなれば、きっと長い時間を研鑽に費やしたのだろうことは容易に想像できます」

「…………」


『リタちゃんがなんかすっごい顔になってるw』

『嫌そうというか、申し訳なさそうというかw』

『でも実際のところ、亜空間だっけ? あそこにどれぐらいいたのか分からないからな……』


 そうなんだよね。あたらずも遠からず、というか。確かに私はエルフで、亜空間の中で過ごした時間を考えるとそれなりの時間になってると思う。

 でもそれって、魔法の研鑽というよりは、興味があることの研究だったんだよね。地球とか日本とかお菓子とか。だから、その、うん。研鑽とか言われると……。そこまでじゃないと思います。

 まあ、それはいいや。勘違いされて困るようなことでもないし、説明もめんどくさいし。それよりも、気になってることがある。


「私、街の中に入れますか?」


 ここまで注目されたりすると、難しいのかなって。わざわざ兵士さんが来たぐらいだし。

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