ルール違反をしちゃいけないってルールはなかった!


「というわけで、ただいま」


『何が、というわけ、なんですかねえ』

『いつの間にかいつもの森である』


 あの後、いつもの森に帰ってきた。二人のお母さんに直接説明しようと思ったんだけど、真美が言うにはややこしくなるからやめて、とのことだった。真美が説明してくれるって。

 正直なところ、私は説明が苦手だから助かった。


『結局どうなったん?』


「ん。危なくない魔法だけ教えてあげるつもり。洗浄の魔法とか」


『教えるのか』

『ちょっと意外』

『洗浄の魔法なら、まあ大丈夫、か?』


 多分大丈夫。もしかしたら使い方次第では悪いこともできちゃうかもだけど、そんなのは子供でも触れる道具でも同じことだ。ちゃんと教えてあげれば大丈夫、なはず。


『それでリタちゃん。初日本、というより初カレーの感想は?』


「控えめに言って最高」


 まさかカツカレーを食べれるなんて思わなかった。すごく、すごく美味しかった。是非ともまた食べたい。想像しただけでよだれが出そう。


「テレビ、ていうのも見たけど、あれもすごい。あんなに薄い板みたいなやつで絵が動くなんて、意味が分からない。科学すごい」


『なんだろう。ちょっと嬉しい』

『わかる。にまにましちゃう』

『ドヤア!』

『まあ作ったのは俺たちじゃないんだけどなw』


 でも、地球の人間が作ったのは間違い無い。本当にすごいと思うよ。こっちの人は絶対に作れないから。科学技術そのものがそれほど発達してないし。

 暗くなりつつある森をのんびり歩く。向かう先は、世界樹だ。

 世界樹にたどり着いた私は、すぐに精霊様を呼んだ。


「精霊様、いる? いないね。じゃあおみやげはなしで」

「います! いますから! せめて返答する時間をください!」


『草』

『リタちゃんwww』

『精霊様おっすおっす!』

『相変わらず美人やなあ』


 精霊様はコメントが流れる黒い板を一瞥して、けれどそれを意識から外したみたいで私に視線を戻した。師匠も言ってたけど、コメントは気にしすぎると終わらないらしい。正しい対応だと思う。


「それで、お土産とはなんでしょう?」

「ん。これ」


 持っていた袋を掲げてみせる。私が帰る前に、真美が買ってきてくれたものだ。精霊様とわけてねと渡されたから、独り占めしたいのを我慢してわけてあげよう。


「感謝しろー」

「ははー」


『何やってんだこの二人w』

『上下関係あるはずなのに仲いいなあw』

『友達みたいな関係に見えるよな』


 んー……。実際、どうなんだろう。精霊様の指示や命令に従うけど、なんというか、上の人っていう感じではない。命令といっても、いつもお願いの形式だしね。

 でも、私たちはこれでいい。話しやすいこの関係がいい。


「ところでリタ」

「なに?」

「いきなりあちらの星のものを持ち込んでいるじゃないですか……」

「ん。漫画で読んだ。ばれなきゃいいのさ」


「すごく正直に報告してきましたね」

「ルール違反をしちゃいけないってルールはなかった!」

「リタ? 悪い影響を受けてませんか?」

「そんなことない」


 ちょっと悪のりしただけです。


『本当に悪い影響受けまくってるやんけw』

『なんか、うちの国が本当に申し訳ない……』

『テレビを褒められた誇らしさが一瞬で消えちまったよ……』


 でも漫画もすごく良かった。師匠から教えてもらってはいたけど、実際に見たことはなかったから。師匠は描いてくれようとしたけど、師匠の絵は壊滅的だったからなあ。


「そんなことより、お土産。ここで全部食べて捨てたら問題ないはず」

「それもそうですね」


 この世界の人の手に渡らなければ問題ないって話だったからね。さすがにそれぐらいはちゃんと覚えてる。


「この袋もすごい。ビニール袋、だって」

「薄くて丈夫なのでしたね。ちょっとしたものなら手軽に持ち運びできて便利そうです」

「師匠が作ったアイテムボックスっていう魔法があれば必要ないけど」

「それを言う必要はありませんよね?」


『すごい魔法だよなあ、アイテムボックス』

『それが使えるだけで物流に革命が起きるな!』

『そういえば、今日の子にアイテムボックスは教えるん?』


 ちいちゃんに、てことだよね。確かにアイテムボックスはそれほど危険な魔法じゃないから教えても問題はないかもしれないけれど、それよりも何よりも。


「多分、使えない」


『あら』

『そうなん?』


「必要な魔力がわりと膨大。子供の頃から魔法に触れてるこの世界の人でも、使える可能性がある人は少数だと思う」


 極めて便利な魔法ではあるけれど、出し入れのたびに少なくない魔力を要求される。地球の人だと、使うことすらできないはず。

 探せば、もしかしたらいるかもしれないけど。

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