おみやげ
「そんなことより、おみやげ」
ビニール袋から取り出したのは、カレーパンが二個と四本入りのみたらし団子が一パック、あとは真美お手製のおにぎりが二つ。精霊様と二人でちょうど分けられるようにしてくれてる。
「どうぞ、精霊様」
「はい。ありがとうございます」
精霊様にカレーパンとおにぎりを渡して、と。それじゃあ、早速食べよう。
カレーパンの袋を破って……。この袋もすごい。日本すごすぎない?
ぱくり、と一口。んー……。
「カレーがない……」
『ああ……w』
『リタちゃん、市販のカレーパンってわりと中具が寄ってる時があるんだ。食べ進めれば出てくる』
「へえ」
もぐもぐと食べ進めていけば、すぐにカレーが出てきた。カレーライスのかかっているようなどろっとしたものじゃないけど、これは確かにカレーだ。ほんのり甘めだけどスパイシー、それがパンによく合う。美味しい。
「パンにカレーを入れるという発想をした人は天才だと思う」
『わかる』
『そこに気が付くとは、さすがやでリタちゃん』
『パンにあんこを入れたあんパンも美味しいよ』
『特に粒あんパンがな』
『いや、こしあんの方がうまいし』
『は?』
『あ?』
なんだか険悪な雰囲気になってるけど、気にしないでおく。和菓子の話をしていたら、たまに始まる喧嘩と似たようなものだから。そのうち勝手に終わる。
流れる量が増えたコメントを無視して精霊様に視線を向けると、美味しそうに食べていた。
「やはり食に関してはあちらの方が進んでいますね。この世界でももう少し頑張ってほしいものです」
「料理は師匠が作ったものしか食べたことないから分からない」
「ああ……」
『配信もいつも森だしな』
『ぶっちゃけ魔法とか魔獣が出ないと異世界って感じがしない』
『異世界の街並みを見たい』
師匠からどんな街があるのか聞いたことあるけど、私も伝聞でしか知らない。人が住んでる街に行ったのは今回の日本が初めてで……、いや待って。
「あれ? 私、真美の家にしか行ってない……?」
『気付いてしまわれましたか』
『あの子のカレーで満足しちゃったからなw』
『まあどっちみち、心桜島はまだこれからの島だからな。どうせならもっと都会に行ってほしい』
『東京とかな!』
『東京はいきなり難易度高すぎだろw』
東京。確か、日本の首都だっけ。次はそっちにも行ってみようかな。
「あの、リタ」
「ん?」
「そちらも……頂いても……?」
気付けば精霊様はカレーパンを食べ終わっていた。私はまだだけど……まあ開封ぐらいいっか。
みたらし団子のパックを開封して精霊様に差し出す。精霊様は嬉しそうに食べ始めた。
なんだかんだと精霊様も日本のお菓子とか大好きだよね。間違い無く師匠の影響だと思うけど。
私は先におにぎりを食べよう。のり、というものを巻いたおにぎりだ。
「んー……。塩がよくきいてる。中に入ってるの、お魚かな? 美味しい」
『見せて見せて』
『何入れたんだろ』
『ちょっと!? 恥ずかしいんだけど!』
『本人降臨』
「あ、真美。どれも美味しい。ありがとう」
『あ、うん。喜んでもらえたなら良かった。ちなみにおにぎりは鮭です』
『ありきたりすぎて面白みがない』
『つまんね』
『お前らwww』
鮭は一般的なんだね。こっちにもお米はあるけど、やっぱり師匠が個人的に育てたものしかない。お米を気に入った精霊様がこっそり継続して育ててくれてるけど……。
「このおにぎりのお米と比べたら、私のお米は正直ちょっと微妙ですね……」
「ん。まあ、仕方ない」
あっちは長年かけて、品種改良、だっけ、続けてきた結果だからね。師匠もお米に関しては一朝一夕でできるわけがないって諦めてたぐらいだし。
「んー……」
「リタ、どうかしましたか?」
「ちょっと、師匠をよく思い出しちゃうなって」
「…………」
『リタちゃん……』
『音信不通になってそれっきりだもんなあ……』
『あのバカ、マジでどこで何やってんだよ』
あ、なんかしんみりした雰囲気になってる。精霊様も心なしか悲しそうだし。正直、私はそこまで気にしてない。あの師匠のことだから、そのうちひょっこり顔を出すでしょ。
「どうせ師匠のことだから、美味しいものを見つけて再現しようとがんばってるだけだと思う」
『あり得るwww』
『食べ物と料理に対する執着が半端ないからなあいつw』
『戻ってくるのが楽しみだね』
うん。きっといい土産話を聞けるはず。
そう私が言ってる間も精霊様は何とも言えない表情をしていたけど、私は気付いていないことにした。だって、聞きたくなかったから。
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