第45話 無自覚のイチャイチャは続く!

 日中はレオがシグムンドから、勇者としての戦い方の手ほどきを受けて、日が落ちてからはわたしがリンシグリンドから、料理の手ほどきを受けているの。


 だって、わたしよりもレオの方が料理がうまいのよ?

 それは許されないと思うわ。

 料理なんて、習ったこともなかったし、必要性がなかったんですもの。


「殿方は胃袋を握れば、心も得られるものです」

「ふぅ~ん。そういうものですの?」

「そういうものです」


 リンも立場上はわたしと同じように姫と呼ばれる立場だったと思うのですけど、信じられないくらいに器用だった。

 レシピ通りに進めていく手際の良さは見ていて、惚れ惚れとするくらいに見事だったし、味も一級品。

 わたしの城の厨房と変わらないどころか、上かもしれない。


「姫様は素材の調理だけは見事なお手並みなのですが……」

「それ以外がダメなのね?」

「ええ。残念ながら」


 お菓子作り……クッキーくらいはどうにか、作れるようになっただけなのよね。

 ちょっと狐色よりも濃い色になっているクッキーでもレオは笑顔で全部、食べてくれたけど……。


 わたしの料理修業は続く!




 でも、悪い話ばかりでもないわ。

 島の皆が切り開いた広大な開拓地に植えた果実や野菜といった農産物が収穫出来たんですもの。

 まだまだ、収穫量が少ないのは試行錯誤で進めているから、仕方ないとは思いますのよ?


 リネンとして、加工してから出荷出来るアッマーは特産品として、十分な主力になるもの。

 それに不思議なマメ科の植物は加熱乾燥させることで独特の香りを発することが分かったのが大きいわ。

 この前、跳ね返されたわたしの炎の矢ファイアボルトを浴びたのが良かったのか、ネズミ君も炎の魔法を少しばかり、使えるようになったの。

 それで急にネズミ君が変なことを言い出したのよね。

 「この炎の魔法で珈琲を作れるかもしれないなあ。焙煎が出来そうなんですよお。ああ。俺っちの実家が自家焙煎が売りの喫茶店だったんでねえ」と……。

 こーひー? ばいせん?

 それに君の実家は戦士の家系ではなかったの?


 疑問の方が大きかったけど、嗜好品として、人気が出るかもしれないと分かった以上、選択肢は増やすべきよね。

 思わぬ宝物を見つけたのかもしれないですわ~。


「リーナ。また、悪そうな顔になってるよ」

「レオ君。わたしのどこが悪そうな顔ですって?」

「い、いひゃいです。やみぇてよ、リーナ」


 身長もまだ、少しだけの差とはいえ、彼の方が高くなった。

 この分だとこうして、レオをいじるのもそう遠くないうちに出来なくなりそうだわ。


「レオ君はどんどん、わたしを置いて、大きくなってしまうのね。きゃっ」


 彼の手が腰に当てられたかと思うと、急に持ち上げれられたのでびっくりした。

 軽々と抱き上げられるように持ち上げられたら、誰だって驚くと思うのよ?


「リーナは軽すぎるよ。もっと食べないとダメだよ」

「レオ君が食べ過ぎなだけでしょ?」

「お腹が空くんだから、しょうがないだろ」


 口を尖らせている姿すらもかわいく見えてしまう。

 もう病気なのかもしれない。


 実際、彼はかなりの大食漢なのよね。

 毎日、激しいトレーニングをしているせいでそれだけ、身体が栄養を欲しているのでしょう。

 わたしはあまり、動いていないせいか、お腹も空かない。

 元々、小食なのもあって、食べないだけなの。


 それに女の子にとって、食べ過ぎて体重が増える方が乙女の大問題だわ。

 レオは「リーナは少しくらい、体重増えた方がいいと思うんだ」といつもの晴れやかな笑顔を向けてくれるけど……。


 わたしだって、分かってはいるのよ?

 君はわたしの体重が増えて、容貌が衰えても「そんなこと関係ないよ。リーナはリーナだから」と言ってくれるって。

 でも、君の前ではかわいくありたいと思うのが乙女心なのも分かって欲しいわ。


「次は絶対にレオ君が満足してくれるものを作るから、期待していて」

「うん」

「だから、下ろして?」

「何で? こうしていたいんだ」

「えぇ!? もうちょっとスピードを緩めてぇ!」


 わたしを持ち上げたまま、まるで舞踏会で踊るようにクルクルと回るレオ。

 笑顔を絶やさないままだから、きっと楽しいのね。

 わたしには刺激が強すぎて、目が回るのが先にきちゃうかも!?


 傍目にはどう映っているのかしら?

 気になって、チラッと様子を窺うと「あいつらー、わざと見せつけてるのかあ」と地団太を踏んで悔しがっているネズミ君の姿が見えたわ。

 まるで慰めるようにピーちゃんが肩の上で「ピッピ」と鳴いているけど、それ……逆効果よ?

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