第43話 お姫様は無駄に企む
普通だわ。
杞憂だったということかしら?
練習用の木剣でレオと打ち合っているシグムンドの姿を見ていて、そういう感想しか出てこないわ。
「あの人間、伝説の勇者なんですよねえ?」
「ええ。
「マジですかあ。本物の勇者様かよお。つか、姫さんもどうなってんのさあ」
ネズミ君とレオの勇者修行を見ているだけでいないといけないこの苦痛と屈辱。
たまにネズミ君が良く分からない言葉を使うから、苦痛がさらに増していくのだわ。
「ちょっと魔法を撃ち込んでみたら、どうかしら?」
「はあ? 何、言ってるんですかあ」
「大丈夫よ。わたし、回復魔法のエキスパートだもん」
「そういう問題じゃないですよお。この姫さん、おかしくないですかあ!?」
そういう問題でしょう?
勇者たる者、魔法の一つや二つ、さっと処理しないといけないわ。
「君がやらないのなら、わたしがやるけどいいかしら? 君がやったということにするけど、いいわね」
「ち、ちょっと! 姫さん。待ってえ! 待ってくださいよお」
わたしがもっとも得意とするのは氷の魔法だから、さすがにそれは危ないわね。
得意ではない炎の魔法にしましょう。
ネズミ君の意見は聞いてないから、とりあえずやるわ。
「姫さん! 姫さん! それ、本当に大丈夫なヤツですかあ」
「単なる
「いやあ! ダメでしょおお! 姫さん、それダメなヤツだからあ」
抑えても威力は
右人差し指の先に発動させた小さな火の玉にふっと小さく息を吹きかけました。
これくらいの火の玉は勇者であれば、問題ないでしょ♪
見せてみなさい、勇者としての力を!
「あれ、君がやったことにしておいてね♪」
「悪魔だあああ。悪魔がいるよおお」
小さかった火の玉が宙を飛び、
「先生! 炎が!」
「レオニード君。少し、離れてください」
「はい、先生」
予想通り、勇者らしく、生徒であるレオに被害が及ばないように配慮したのね。
さて、どうするのかしら?
実際に勇者と呼ばれた人物がどう対処するのか、興味深いわ。
「はあああああ! とうっ!」
シグムンドは剣を抜かず、レオの授業で使っていた木剣をそのまま、使いました。
まさかですのよ?
それを使うとは思っていませんでしたわ。
彼の木剣の一閃は一見、簡単な型のように思えるわ。
気合を込めて、頭上に振り上げてから、大きく振り下ろしただけ。
でも、違うわ。
あれはまず、風の付与魔法である
凄いですわ。
さすが、勇者と言うべきかしら?
大きな火の玉と化した
「リーナ! これ!」
「どうしましたの? そんなに慌てて」
レオがえらく慌てているけど、どうしたのかしら?
わたしの方に駆け寄ってくると羽織っていたマントをわたしに掛けてくれたのですけど……。
どうしたのかしら?
「それ……」
「え? きゃあっ!?」
ドレスがボロボロになっているのに気がつかないなんて!
あちこちが裂けたり、破けていて、酷い状態だわ。
おまけに狙ったように胸がはだけて、露わになっているじゃない。
これにいち早く気が付いてくれて、見えないようにと気を遣ってくれたのね?
嬉しいわ。
涙目で彼のマントに
そのまま、彼の胸に抱かれているといつも以上に、レオのことを男らしく感じて、妙に恥ずかしい。
このマントもレオの匂いが強く、感じられて、胸のドキドキが激しくて気持ち悪くなってきたかも……。
「大丈夫? 怪我してない?」
「う、うん。服が破けただけなの」
「そっか。リーナが無事で良かった」
君はただ、わたしを純粋に心配してくれるのね。
ごめんなさい、レオ。
次はこんなへまをしないから。
「ありがとう」
抱き締めてくれる彼の背中に手を回して、わたしからも強く、抱き締め返した。
君の体は温かくて、身体だけでなく、心までもが君に染められてしまいそう……。
こちらを注視している
だって、ちゃんと伝えておかないとダメでしょう?
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