第42話 姫と勇者の夜の一時

「本物の勇者だよ。もっと話を聞きたかったなぁ」


 心底、残念そうな表情を見せる君を見ているとちょっとは悪いことをしたと思っているのよ?

 レオは既に服を脱ぎ終わって、下着だけになっているわ。

 だから、今、室内に響くのはわたしが脱ぐドレスの衣擦れの音だけ。


「ダメよ! ダメ! 不純だわ」

「不純って、何のこと?」

「レオ君は知らなくてもいいということ。分かるでしょ?」


 わたしが夜着に着替えている間、レオは決して振り返らないわ。

 約束をしっかりと守ってくれているの。


 でも、なぜか夜着を着てくれないのよね。

 下着だけで上半身が見えるとわたしの方がドキドキして、心臓に悪いわ。

 身長も追い抜かれそうだし、最近、さらに逞しくなってきたの。


 着ない理由は息苦しいからだそうですけど、わたしは別の意味で苦しいわ!


「もういいわ」


 わたしの声にレオはベッドの真ん中で仰向けにゴロンとなるの。

 わたしはそんなレオの首に手を回して、足は彼の腰に絡める。

 最近は逞しくなったレオが腕枕をしてくれるから、さらに安心して、寝られるのよね。


 ベッドは広いし、どうせ寝ている間に寝相の悪いわたしが抱き着くのは分かっているのでそれなら、寝る前からその姿勢でいいという結論に落ち着いたの。


「前は君が胸に抱き着いていたのにね?」

「違うよ。あれはリーナが抱き着いてきたんだよ」

「ふぅ~ん。レオ君はそういうことを言うんだ?」


 手と足にちょっと力を入れるけど、全くびくともしない。

 少しばかり、負けた気がして悔しいのはなぜかしら?


 もう少し、攻めに転じたら、レオが焦る姿も見られるのですけど。

 それは諸刃の剣でわたしの方がダメージが大きいのよね。


「ねえ、リーナ」


 妙な固さを感じる声色から、彼がまじめな話をしようとしているのが分かる。

 何かしら?

 まさか、さっきの勇者の話なの? それはまずいのですけど。


「愛し合う家族なら、赤ちゃんはやって来るのかな?」

「どうなのかしら。でも、黄金鳥は祝福してくれないと思うわ」


 とりあえず、男女が違うもので男女でなければ、赤ちゃんもやって来ないから……わたしと赤ちゃんを作りましょうまで、ようやく導いてきたの。

 どれだけ、わたしが苦労して、教えたと思っているのよ。


「何で? リーナは言ってたよね。愛し合う者が望むと赤ちゃんを黄金鳥が連れてくるんだって」

「それはそうなんですけど……」


 血の繋がった者とはいけない気がするのよね。

 どうして、ダメなのかというのが説明出来ないのは……


「もし……もしもだけど、わたしとレオ君が実の姉弟だったとしてもわたしのことを好き?」

「うん。リーナはリーナだから、好きなのは一緒だよ。リーナは違うの?」


 レオが正しいわ。

 そうよね。

 もし、君が血が繋がった弟だとしてもわたしの思いも止められないもの。


「同じだわ。レオはレオだから、好きよ」

「そうだよね。じゃあ、問題ないね」

「うん……」


 あら? あらあら?

 そうなるとシグムンドとシグリンドの兄妹が愛し合ったという事実も問題ないのだわ。


 腑に落ちないものを感じつつも無理矢理、頭を納得させることにした。

 レオの温もりを感じ、安心して夢の世界へ。

 本当にいいのかしら!?

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