閑話 神々の思惑
三人称視点
神々の大地アスガルドに戻ったオーディンは玉座に座り、思案に耽っている。
「解せんのう」
玉座の前にはトール、ヘイムダル、フレイ、バルドルといった名だたる神々が勢揃いしていた。
「どうされたのですか、父上。何か、ありましたか?」
普段、見られない父神の様子に愁いを帯びた表情を見せる光の神バルドルの容貌はアスガルドで最も美しいとさえ、言われている。
「ふむ。おかしいとは思わんのか、お前らは」
「はて? 俺には分かりませんな」
即答したのは考えることが苦手なトールだけで多少は思慮分別がある他の面々は即答を避けただけなのだ。
「もしや、あの
ヘイムダルの呟きに近い推理にオーディンはただ、頷くことのみで答える。
「考えてみよ。まるで
「確かに。
フレイの美貌はバルドルと並び称されるものでアスガルドの女神界隈では二人が並ぶ姿に密かな黄色い声援が飛ぶほどである。
リリアナはこの二人とも母方の血で繋がっており――フレイは大伯父であバルドルは伯父なのだ――、容貌だけではなく、ただ一途という性質まで似通っている。
特にフレイは愛の為に自らが持つ魔剣を手放している。
「そんなもの、どうせ
「お前さんの決めつけはいつも通りだねぇ」
「何だと!?」
「今回ばかりはトールの意見が正しいやもしれんのう」
そのまま、ヒートアップしそうなトールとヘイムダルを静かに手を上げ、制したオーディンは長い白髭を撫でながら、眉間に皺を寄せる。
「ロキの狙いは何でしょうか?」
「そりゃ、お前。あいつは性格が悪いからだろ」
「そんな理由だけであんな豪華な撒き餌を撒くもんかねぇ?」
瞼を閉じ、何かを考えているバルドルを除く、三神は思い思いの考えを述べていた。
どれも真であり、真でないと感じるオーディンは白髭を撫でる手を止めず、何も語らない。
その時、バルドルが瞼を開けた。
「もしかしたら、彼の狙いは
バルドルの言葉に誰もが口を噤み、静寂が場を支配した。
重苦しい雰囲気に誰一人、言葉を紡ぐことが出来ないでいる。
「まさしく、その通りじゃろうな。であるならば、どうすべきかじゃよ」
全てを
大きすぎる餌を用意して、ロキが企むのは何であるのか?
狙いが
ヘルヘイムの女王がアスガルドの敵になる。
それ以外はないという結論に至ったのだ。
「その点に関してですが、私に一つの腹案がございます。この案に関して、父上のご裁可が必要ですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ。何かのう?」
「シグムンドをかの勇者のもとに遣わすのです」
「ほお。シグムンドか。よいぞ、よいぞ。面白い案じゃな」
バルドル以外の三神には合点がいってないようで首を捻っているが、オーディンはそれをさして、気にしていない。
シグムンドはかつて、オーディンが与えた聖剣グラムを手にした勇者だった。
過去形なのはそのグラムをオーディン自らがグングニルで粉砕したことで、勇者としてのシグムンドが既に死に体だからである。
「ヘイムダルよ。分かっておるな」
「は、はぁ。全く、損な役回りだぜ」
ヘイムダルによって、隠遁生活を送っていたシグムンドにオーディンの命が伝えられ、かつての勇者と勇者が出会うのは少し先の未来の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます