第37話 うっかりなお姫様は小さな勇者に勝てない
島に来てから、どれくらい経ったのかしら?
お空に顔を覗かせるあの大きな紅い月が何度、真円を描いたことか。
数えてないから、分からないですけど、
彼らはとても農業に適しているとは思えない土壌を根気よく、開拓してくれました。
そして、肥料をあげて、どうにか種を植えてもいい環境が整って、ようやく植えることが出来たのです。
土壌が整うまでにそこそこ、経過しているわね。
あの時、植えた種はもう、かなり成長したわ。
さすがに収穫出来るほどには育ってないですけど……。
それにしても暑いわ……。
暑すぎますわ……。
もう耐えられないですわ!
魔法杖ユグドラシルを取り出して、術式を展開しました。
彼に見つからないうちに早く、片付けるべきね♪
「我が凍てつく指が触れし、悉くに均しき災いを成さん」
成功かしら?
頭上の空に黒雲が渦巻き始めましたし、少しだけ気温が下がった気がしますわ。
白い物が空から、ちらつき始めましたけど、やりすぎたかしら?
一時的ですし、大丈夫よね?
「リーナ、何してるの?」
レオに見つかりましたわ。
とりあえず、ユグドラシルはすぐに放り込んでおいたのでバレていないはずです。
「何もしてないわよ?」
「急に天気がおかしくなったんだ。不思議だよね。何だろう、この白いの」
南の島で育った彼にとって、雪は初めての体験なのね。
ヘルヘイムもわたしが物心ついた頃には気候が安定していましたから、レオが勇者としてやって来た時、雪が降っていなかったわ。
「へ、へぇ? 不思議ですわ~。わたしにはワカリマセンわぁ」
「何か、変だよ?」
「ヘンジャアリマセンワ」
レオの追及が中々に激しかったので誤魔化す為に無理矢理、彼の口をふさいだわたしは悪くないと思いますの。
朝起きてから、おはようのキスで始まって、おやすみのキスで終わるまで。
一日に交わす口付けが何回なのかも分からないくらいなのよ?
唇が軽く触れるだけなんですもの。
これだけで幸せになれて、レオにも追及されません。
わたしは何も損をしないわ。
レオもまんざらではないと思いますの。
その証拠にわたしの腰に手が添えられて、動けません……え? 逃げられない!?
これはしくじったかもしれないわ。
彼の背はかなり伸びた。
わたしとほぼ同じくらいまで伸びたんですもの。
わたしはほとんど背が伸びてないのにおかしくありません?
それに仕草や表情はまだまだ、子供なのに真っ直ぐなだけではなく、妙に熱気を帯びた瞳はずるいわ。
そんな目で見つめられて、拒めると思うの?
結論から言うと拒むべきだったのかもしれないわ。
だって、唇と唇が触れるだけの軽い口付けではなかったんですもの!
今、思い出しているだけでも胸の鼓動が激しくて、苦しい……。
でも、しんしんと降り続ける雪の中のキスは絶対に忘れないわ。
あんなロマンチックなことも出来るなんて、わたしの旦那様が最高なのですけど♪
何か、大事なことを忘れている気がしますけど、何だったかしら?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます