第38話 お姫様の人に言えない趣味

 窓から、差し込んだ月の光が照らすパメラの身体は幻想的でありながら、どこまでも魅惑的にアベルの心を捉えて、離さなかった。


「私は君だけを愛すると誓おう」

「アベル様」

「本当にいいのかな?」

「ええ。お願いします。勇者様」

「分かった。お姫様」


 アベルの手はパメラが纏っていた薄絹を取り払うと彼女の体を優しく、寝台の上に寝かせた。

 パメラは既に身を隠すもの一つない生まれたままの姿でいるのが恥ずかしいのか、身を捩るがそれがかえって、アベルの劣情を刺激する。


「パメラ。じっとして」

「は、はい」


 アベルの手がパメラの敏感な花弁に触れると蜜が溢れ……


「リーナ、何を読んでるんだい?」

「うっきゃあああああ」


 わたしは慌てて、起き上がり、読んでいたロマンス小説を慌てて、背中に隠しました。

 全くもう、心臓に悪いわ……。


「何か、隠さなかった?」

「し、知らないわ!? レオの気のせいじゃない?」


 実はパ・シェル・ブーク百貨店で島に必要な種子だけでなく、新刊のロマンス小説も買っていたのよね。

 それも刺激が強いので読んではいけないと言われていたのを……。


 今、読んでいたのは『勇者と姫の秘密の睦み事』というタイトルの典型的なロマンス物語。

 魔王に攫われたお姫様を助けた勇者がそのお姫様と結ばれるだけだから、特に変哲の無いストーリーですけど、つい二人の逢瀬に自分とレオの姿を重ねてしまうの。


「ふーん。そうなんだ。気のせいかー。あっー! ピーちゃんが巨大化してる!」

「嘘ぉ!?」


 小鳥サイズのピーちゃんが巨大化するなんて、一大事よ。

 大変だわ。

 大変!? レオに本を取られましたわ。


「まさか、あんな簡単なのに引っかかるとは思わなかったよ」

「ちょっと! レオ!! それはダメ! 君はまだ、大人じゃないでしょ? 返してぇ、お願いだからぁ」

「そう言われると逆に気になるんだよ」


 レオにまんまと担がれるなんて、思っていなかったから、わたしがうっかりなのではないですからね?

 そんなことよりもレオが本を読もうとしている方が大問題ですわ~。

 わたしの人生が終わってしまいましてよ!


「えーと、あーアベルのか、かたく? あ、熱いに、肉のつー、つるぎがパメラのかー。かーべん? を開き、ひー、ひ、ひしょにつきい」

「ダメぇ!!」


 無我夢中でレオを止めようとした結果、かえって状況が悪化した気がするわ。

 これではわたしがレオを押し倒して、襲っているようにしか、見えないのですけど!

 完全に馬乗りになっていて、彼の腰の上に女の子座りしてますもの。


「どうしたの、リーナ?」

「レオ君。その本、早く返して」

「なんで? 文字を覚える勉強になるよ」


 そこで君は何で満面の笑みを浮かべるのかしら~?

 内容がアレだから、レオが悪い子になってしまうわ。


「んっ……それは君が覚えるにはまだ、早いの」

「リーナはいいの?」

「わ、わたしはほら! 大人ですから?」

「ふーん。本当かな?」

「何よ、レオ君。疑ってますの? 正真正銘、わたしは大人でしょ?」

「ふぅーん」


 彼の上に乗った状態で胸を張るのも変ですけど、胸を張ってみるとなぜか、見られているような……。


「確かにこういう視点で見るとリーナの胸は僕と違うよね。えっと」

「だぁからぁ! その本を見ちゃダメだってばぁ!」

「分かった! リーナのおっぱいだね!」

「ど、どこ見てるのよ!? レオ君、悪い子になっちゃったの?」

「どこって、僕は普通に前を見ているだけだよ」


 悪い子にはなってないわね……。

 うん。

 真っ直ぐ、前しか見ていないし、澄んだ真っ直ぐな瞳ですわ。

 ただ、真っ直ぐに胸を凝視されても困るのですけど!?


 慌てて、両手で胸を隠したのはいいですけど、何か、お尻に当たっているのよね。

 何ですの?


「リーナが恥ずかしがっていると何か、新鮮でかわいいね」

「か、かわいい? そう? 君にそう言われると嬉しいかも」

「リーナはかわいいよ」


 即答なの!? そんなストレートに言われると破壊力が高すぎるわ。

 それにしても何なのかしら? さっきから、当たっているのは……。


「ねぇ、レオ。さっきから、これは何なの?」

「え? 何の話?」


 レオはきょとんとして、目を丸くしたままで本当に分からないみたい。

 仕方ないので手で探って、触ると何か、硬くて熱を持った物がお尻に当たっているのです。


「これだってば」

「リーナ、痛いよ」

「え?」

「うん?」


 思い切り、掴んだらレオが痛がっているということはもしかして、このグニュとするわたしが握っているのは……


「も、も、もしかして、レオ君……これって?」

「どうしたの?」

「きゃうんっ」


 最近、悲鳴を上げて気絶していることが多くありません?

 なんて、冷静なのに妙なことを考えながら、わたしの意識は徐々に暗闇に囚われていく……。

 うん、この判断は間違っていないと思うのよ?




 目を覚ますとちゃんとベッドに寝かせてくれているんですもの。

 レオは優しいわ。

 だから、大好き♪ と思ったら、彼と目が合いました。

 手にはあの本がしっかりと握られていて、まさに読み耽っていたところ!


「大丈夫? これ、良く分かんないだけど、リーナにもしたら……あれ? リーナ?」


 わたしは再び、意識を手放して逃げることにしました。

 この判断も間違ってないと思いますわ。


 純朴な彼のことですもの。

 これをどうするの?

 どうなっているのかな?

 リーナのを見せて欲しいな!


 絶対、なぜなに攻撃が始まる未来が見えるんですもの。

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