第36話 お姫様はヤンデいる

 俯いたままのレオにそっと近づいて、包み込むように優しく抱き締めました。

 君がいつも、わたしにしてくれるように……。

 わたしも返すわ。


「君は化け物じゃないわ。わたしが一番、良く知っているもの。誰よりも優しくて、皆を守ろうとする君が化け物のはずないんだから」

「だけど……」


 レオの頭を胸に抱いていると何だか、泣いている子供を宥めている母親みたいで複雑なのですけど……。

 彼の心が少しでも癒されるのなら、それでもかまわないわ。


「だから、わたしも……レオはどんなレオでもわたしのレオよ。あなたがどんな姿でも関係ないわ」

「リーナ……ありがとう。僕は……」


 それから、会話がないまま、ただ抱き締め合っているだけ……。

 でも、レオが落ち着いてきて、自然と見つめ合っているうちに熱に浮かされたように流されるまま、何度も唇を重ねていたの。

 軽く、唇を触れ合うだけのキスだけど、それでも十分。




 恥ずかしいわ。

 顔が火照って、熱いんですもの。

 レオも同じなのかしら?


「すごいわね」

「うん。そうだね」

「熱いわね」

「うん。そうだね」

「わたしはかわいいかしら?」

「うん。そうだね」

「じゃあ、お嫁さんにしてくれる?」

「うん。そうだ……って、リーナ!」

「レ~オ~くぅ~ん! 心ここにあらずで聞いてない君が悪いのよ?」

「あ、う、そ、それは……何か、恥ずかしくてさ」


 繋いでない方の手で髪を無造作にクシャクシャにして、はにかむような笑顔を浮かべるレオを見るとそれ以上、何も言えないのよね。


「わたし達はここでこんなにのんびりしていて、いいのかしら?」

「今日はゆっくりしていていいんだってさ」


 それからもレオと手を繋いだまま、特に何をする訳でもなく、島の皆様の農作業を眺めているだけですの。

 同じ景色を見ているだけで、こんなにも心が満たされるものなのね。


「うまくいくといいわね」

「リーナが考えてくれたんだよね? きっとうまく、いくよ」


 君の笑顔は本当に邪気が無いわ。

 太陽みたいに眩しくて、皆を照らしているんだと思うの。


 わたしがルテティアの町で仕入れてきた大量の果実や野菜の種子。

 この『名も無き島』の温暖な気候に適した品種を選んできましたの。

 でも、この島では農業を営むという考え自体がなかったから、土壌の改良なんて一切してなかったのよね。


 幸いなことに手つかずの土地はたくさん、あるので原野をまずは開拓するところからスタートということになりましたの。

 レオの呼びかけで力自慢の魔物に集まってもらって、現場の指揮はネズミ君に任せてあるわ。


 この作業をただ、レオと眺めて、幸せを噛み締めているの。

 わたしのことを全部、受け入れてくれる優しい君。

 だから、わたしも全てを受け入れるわ。


 例え、あなたが何者であろうとも関係ない。

 あなたに殺されるのなら、それでもかまわないの。

 でも、もしも……ううん、君に限って、そんなことはしないよね?

 もしも、そんなことをしたら、絶対に許さないわ。

 君はわたしの小さな勇者様なんですもの。


「レオぉ……」

「リーナ、どうしたの? あれ、寝ちゃったのか」


 レオの肩に頭を乗せると妙に安心出来るの。

 何だか、眠くなってきたわ……。

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