第35話 吸血姫の昏い願い

 レオの武器を探しに行ったのに結局、見つかりませんでした。

 それどころか、わたしがネペンテスに捕まるという失態を犯す始末……。

 何だか、レオはあれ以来、少し陰のある表情をするようになって、気になってますの。


 そんな表情をしている時の彼は大人びて見えて、ドキッとするのですけど、何だかそのまま、どこかへ行ってしまうような不思議な感情が浮かんでくるのよね。


「君。何か、隠してない?」

「え? ごめん、リーナ。聞いてなかった」


 また、暗い表情をしてますわね。

 心ここにあらずとでもいうところかしら?


「ちゃんと聞いておいて」

「あいたたっ。痛いよ、リーナ。耳を引っ張らないで」


 ちょっと涙目になったレオはいつもの明るくて、元気な姿なのですけど……。

 絶対、何かを隠しているわ。


「もしかして……何か、言われましたの?」


 一瞬、身体が跳ねるような動きをするのだから、分かりやすいわ。

 返事をしなくてもすぐに分かってしまう。

 彼のことが好きだから、そうなってきたのかしら?


「そんなことないよ」


 そう言って、笑顔を見せてくれるけど、どこか不自然な引き攣ったような薄っすらとした笑みなのね。

 自分の心に蓋をして、無理をしてでもわたしに心配かけないようにしているのだわ。


「ねぇ、レオ。ちょっとしましょう?」

「うん? 何を? するって、え? 何で服脱ぐの!?」

「服は脱ぎませんわ! ケープが邪魔だからなの」

「そ、そうなんだ」


 君が段々とおませになってきて、嬉しいような……そうでもないような複雑な気分ですわね。

 羽織っていた葡萄酒の色に染められた薄手のケープを物入れに放り入れて、白銀のカードを手にします。


「この運命ファトゥムを君に使うけど、いいでしょ?」

「カードを使うって、どういうこと? カードだよね?」


 両腕を組んで首を傾げ、考え込む彼の姿はそんなに見られない珍しいものだわ。

 瞼を閉じて、真剣に考えている顔もかわいい。

 悪戯したくなるのを我慢しないと……。


「前に聞いたでしょう? わたしが化け物でも好きでいてくれるの? って……」

「うん」

「それはね……こういうことなの!」


 運命ファトゥムは希少なミスリルで作られていて、見た目は白銀の美しいカードにしか見えません。

 裏の面には四種類の紅・碧・蒼・金の魔石が填められていて、表の面には杖・剣・盃・護符の絵が描かれているのです。


「な、なんでリーナ……くっ」

「これは紅の杖のカード。火を司っているのよ」


 わたしが投げた一枚のファトゥムがレオの胸にしっかりと刺さっています。

 紅の魔石が輝きを放ち、呼応するようにわたしの両目も微かに輝いているはずですわ。


「別名吸血姫の口付けブラッディ・キス。どうして、そう呼ばれるのかは今、君が体験しているでしょう?」

「ぐっ。力が……抜けていく。なんでだよ、リーナ」

「正解♪ そのカードはを吸うの。そんな君には御褒美をあげるわ」


 たっぷりとを吸ったファトゥムが手元に戻ってきたので次のカードを投げました。

 今度のカードは護符が描かれたもの。


「うわ!? あれ?」

「それは金の護符のカードよ。地を司っていて……」

「回復した!」

「ええ。正解ですわ。杖は奪って、護符は逆に与えるの。妖精の涙フェアリー・ティアズなの。剣と杯も与えるのだけど、それぞれの役割が違うわ」

「へえ。スゴイんだ、そのカード」


 ブラッディ・キスを刺した時、レオの瞳に一瞬、絶望の色が浮かんだから、心臓が止まるかと思いました。

 いきなり刺したのが、さすがにまずかったかしら?

 嫌われちゃったら、どうしよう……。


「わたしのこと、嫌いになったよね。化け物みたいでしょう? こんな力……」

「リーナはリーナだろ? 言ったろ? 絶対に嫌いにならない! でも、僕は……僕が……化け物なんだ。リーナに好きって、言ってもらえる人間じゃないんだ」

「え?」


 やはり、何かがあったのね。

 わたしが意識を失っている間にあったのかしら?

 また、陰のある表情になったレオを見ていると彼を決して、一人にしてはいけないと改めて思いました……。

 大丈夫よ。

 世界が敵になってもわたしはずっと、君の味方だから。

 世界を敵にしても絶対に守ってあげるわ。

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