第30話 消えたお姫様
(小さな勇者視点)
リーナは何でわざわざ難しい言い方をしたのかな。
僕がそう呟いたのが聞こえたんだろう。
ローが「そりゃ、姫さんは女の子だからなあ」と教えてくれた。
女の子は大変なんだな。
リーナは僕よりもちょっとだけ、背が高いけど腕も細くて、たまに僕よりも小さな女の子みたいに見える時があって、守ってあげないといけないと思うんだ。
「しかし、姫さん。遅くないか? いくらお花摘みでも長すぎるぜえ」
「何か、あったのかな?」
「いや、まさかなあ。姫さんは認識阻害を発動しているんだよな?」
「そう言ってたけど、リーナはうっかりなところがあるんだ」
「だろうなあ」
何だろう……胸騒ぎがするんだ。
嫌な感じがする。
「ロー。何だか、イヤな感じがするんだ」
「お、レオもか。俺の鼻も感じているんだよなあ。うまく隠れていたみたいなんだが、尻尾を出したみたいだなあ」
「急ごう。リーナが心配だ」
「おい。待てよ、レオ!」
後ろからローが慌てて、呼び止めようとする声が聞こえてきたけど、僕はそれを振り切って、リーナが向かった方へと駆け始めた。
おかしい。
百貨店には階層ごとにトイレが設置されているということはローが聞き込みで調べてくれた。
でも、どのトイレにもリーナが行った形跡はない。
「おかしいなあ。姫さん、どこに行ったんだろうなあ」
「僕がついていってあげれば、よかったんだ」
「おいおい。レオ。そりゃ、無理だろうよお。お前さんのせいじゃないさあ」
「だけど、僕がいたら……」
ローが僕の肩に手を置くと真剣な表情で言った。
「レオ。焦っても仕方ないぜえ。ここは落ち着くんだ。まずは聞き込みをするんだ」
「分かった……」
こういう状況でも考えてくれるローは頼りになる。
そうだよ。
僕がしっかりしないとダメだ。
リーナに何か、起きているなら、僕が絶対に助けるんだ!
嫌がられつつも情報を聞いて回った結果、分かったのはリーナが一度、百貨店の外に出ているという事実だった。
何しに出たのかと思ったら、僕が「助けることは出来ないかな」と言ったあの子供達をリーナが全員、買い取って引き取っていたんだ。
僕は知っている。
リーナは夜中、こっそりとベッドを抜け出しているんだ。
女王としての仕事を疎かにしないようにって、仕事の為にヘルヘイムに戻っていることを……。
彼女が朝弱いのは疲れているせいなんだろう。
「あの姫さん、やるなあ」
「僕が言ったからだ。リーナは優しいから……僕のせいだ」
「レオのせいじゃあないさあ。姫さんはまた、店内に戻っているはずだ。行くぜえ」
「うん。絶対に助ける!」
その時、僕は微かな気配を感じた。
確かにリーナの気配で間違いない。
でも、気配は店の中に戻っていないぞ。
「ロー! こっちだ。こっちにリーナがいる気配がするんだ」
「どういうことだあ? そうか。そういうことか。店内に戻る前に寄ったんだろうなあ。まあ、分からないでもないなあ」
百貨店前にはたくさんの小さなお店――屋台が出ていて、百貨店に入ろうとするお客さんを捕まえようと頑張っているみたいだ。
リーナの気配はそこで消えている。
「は、はな……読めないや」
「何だよ、レオ。姫さんと勉強しているのにまだ、読むのが苦手だったのかよお。ありゃ、花嫁衣裳……ウェディングドレスの店だなあ」
花嫁衣裳って、何だろう?
分からないけど、リーナの気配が消えたのはそこで間違いないんだ。
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