第31話 幸せで残酷な夢
ここはどこなの?
わたしはレオと百貨店で買い物をしていたのに……。
「え? あら?」
おかしいですわ。
ここは良く知っているわたしとレオの部屋。
それもベッドの上にお行儀悪く、ぺたんと座っているなんて。
確認したくないですけど、一応確認してみると着ているのか、着ていないのか分からないほどに薄く、肌が透けて見える生地の夜着を着ています。
「どうなっているの?」
「あれ? どうしたの、リーナ」
何が起こっているのか、分からなくて脳が混乱しているわたしを落ち着かせてくれるこの声はレオ!
でも、何だか、いつもよりも低くありません?
「俺の奥さんがかわいすぎるんだが、どうしようかな?」
「ふぇぁ!?」
思わず、変な声が出てしまったわたしは悪くないと思いますの。
だって、後ろから結構、力強く抱き締められたかと思ったら、背中とベッドがお友達になっていて。
目の前にはレオの姿があるのですけど……。
「どうしたの? リーナが驚いた顔、かわいいから好きだけどさ」
「本当? あ、あれ? あなた……だ、誰なの?」
腰にシーツを巻きつけているだけだから、露わになった上半身は程よく、筋肉が付いていて、均整が取れているからまるで彫像みたい。
でも、そこではないの。
人懐こい表情を浮かべるその顔はわたしが知っているレオよりも大人びていた。
少年ではなくて、青年よね?
わたしが軽く、彼の下に押さえつけられるくらいの体格差があるから、ええ?
どうなっているの?
「寝ぼけているのかな? 俺のお姫様。リーナがもっと欲しいって、言ったんじゃないか?」
「お、おれ? え? えぇ? わたしが欲しい……?」
えっと、レオが大人になっていて、それでわたしが欲しがったということだから……一体、どうなってますの!?
もしかして、黄金鳥が来るようなことをしたのかしら?
「ねぇ、レオ。わたし達、もしかして、黄金鳥が来るようなこと、しちゃったの?」
「黄金鳥? 何の話かな」
「え? 本気で言ってますの? ピーちゃんは?」
「ピーちゃん?」
首を傾げる青年レオの顔はちょっと憂いも含んでいて、かわいいというよりもかっこよくて、クラッときてしまいそうですけど……やはり、変だわ。
何かがおかしいのですわ。
赤ちゃんは黄金鳥が連れてくるという話を彼とは何度もしていたんですもの。
それにピーちゃんのことも知らないなんて。
ピーちゃんはレオの親友の黄金鳥。
知らないなんて、ありえないわ。
「レオ。わたしは仕事をしないといけないわね」
「仕事なんて後でいいよ」
そう言うとわたしの前髪を愛おしそうに撫でてくれる青年レオですけど、今ので確信したわ。
わたしのレオはそんなこと、絶対に言わない。
彼はわたしが女王として、仕事している姿が好きだと言ってくれたんですもの。
すまし顔が凛々しくて、かっこよくて、惚れ直した(意訳)と言ってくれたわ。
「君はレオ君ではないわね? 貴方、一体誰ですの? わたしのレオを返して」
その瞬間、世界が音を立てて、崩れ始めた。
実際には耳をつんざく音が聞こえてませんでした。
ただ、イメージとして、まるで硝子が割れるように視界に見える物全てにひびが入って、ガラガラと崩れ去っていくさまが錯覚を起こしていただけ。
ひび割れた隙間からは闇を思わせる黒い液状の物が溢れ始め、わたしの世界は暗転しました。
そして、空から降り注ぐ雨に打たれて、わたしは立ちすくんでいる。
血生臭い匂いが立ち込める荒野にたった一人で……。
「今度は何なの?」
降り注ぐ雨は血のように赤く、容赦なくわたしの体だけでなく、心までも痛めつけてくるみたい。
誰もわたしのことを見てくれない。
わたしは……こんな世界……全部、壊すの……。
その時、あんなにも立ち込めていた黒雲に切れ目が出来た。
差し込む眩い日の光に照らされて、わたしは確かな温もりを感じた。
「レオ!」
誰かに「リーナ!」と呼ばれた気がして、それが嬉しくて、幸せだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます