お姫様のショッピング:花の町編

第19話 姫の企み、再び

 触れるくらいの軽いキスから、始まって、思いがもっと深まるようにと何度も口づけを交わした森での勉強会から、少しだけレオとの関係が変わった気がしますの。

 手を繋いで見つめ合っているだけでもお互いに何だか、恥ずかしさの方が先にくるんですもの。

 それに気が付いてしまったのですけど、わたしもレオもキスが下手だったということかしら?


 あの時は何もしなくても唇に触れそうなくらいに距離が近かったから、頬に手を添えるだけで失敗しなかったのです。

 でも、状況が違うと一気に変わってしまうのよね。


 夕焼けの茜色の光を浴びながら、何となく、そういう雰囲気になったのはいいのですけど……。

 あの時と違って、立っていたこともあって、いざ、キスをしようと顔が近づくまでは自然でしたのよ?

 でも、距離感がおかしかったのかしら?

 互いに鼻をぶつけちゃったのよね。


 今のところ、十回キスをしようとしたら、六回はぶつかってしまうわ。

 そうなると顔を見合わせて、笑ってごまかすしかないでしょう?

 一回、ごまかしてから、もう一度だけ挑戦したことはありますの。

 そうしたら、今度は勢いよくしすぎて、前歯が正面衝突しましたわ。


 もっと上手にキスが出来るようにならないと……。


「リーナ。何か、難しい顔をしてるね。どうしたの? 考え事?」

「ええ。まぁ、そのようなところかしら」

「分かった! 島のみんなと何をすれば、いいのかを考えてるんだね」

「そ、そうですわ。うん、そう……」


 レオとのキスを考えていたなんて、言える雰囲気ではなくてよ?

 彼は優しいから、そう言ったとしても一緒に考えてくれるのでしょうけど。

 何か、違うもの。

 キスの練習をするというのも変な話だわ。


「レオのカタナはあの時、壊れましたのよね?」

「ごめん……。リーナに貰ったのに壊れちゃったんだ」


 そういう時は話題を変えてしまえば、いいのですわ。

 島の未来について、レオが大事に思っている方々をどうすべきなのか。

 真面目に考えてましたのよ?


「あのカタナは与えられた役目を果たしたの。だから、そんな顔をしないでくださいな」

「でもさ。折角、リーナに貰ったのに」


 わたしが癒しの魔法の力を得る儀式で無防備な状態だったから、レオがその間、ずっと守ってくれました。

 それでレオが無意識のうちに滅びの爆裂咆哮フォール・バーストロアを発動させたのでカタナがその威力に耐え切れないで壊れたのよね。

 人の姿で発動させられた記録が無い超魔法ですから、魔剣でも何でもないただの良質な剣に過ぎないカタナでは耐えられないのが当然でしたのよ。


「そこでわたしにいいアイデアがあるのですけど、聞きたいかしら?」

「リーナ。また、悪い顔しているよ」

「し、してませんわよ」


 そのアイデアを悪用して、自由に羽を伸ばそうなんて、思ってませんわよ?


「大きな都市にある百貨店でレオに合ういい剣を探せばいいのよ。ついでに島で必要な物をお買い物して、それで時間が出来たら、レオと……そのデートもしてみたいですわ」

「百貨店? デート? 分からないのが二つもあるよ、リーナ」


 眉尻が下がったたレオが悩んでいる顔もかわいいから、好き。

 ではなくてよ!

 レオは知らないことがたくさんあるのを忘れてました。

 何という、うっかり。


 結婚を絆で結ばれた運命の人と一緒に人生を送ることと洗脳……もとい、教えておきましたし、お嫁さんがその運命の人であることももうアピールしたので抜かりはなくってよ。


「百貨店には色々な物を売っているのよ。すごい大きい建物で何でも揃っちゃうんだから」

「大きいって、リーナの城よりも?」

「え? ええ? わたしの城よりは小さいかしら……多分」


 わたしの荊の城ドルンブルグは物語に出てくる理想的な白亜の城を具現化マテリアライズしたもの。

 この世界屈指の大きなお城と言っても過言ではないと思いますの。

 百貨店がいくら大きくてもさすがにドルンブルグほどではないとは思うのですけど。


「じゃあ、この家よりも大きいかな?」

「ええ。それは間違いないわね」

「うわー、スッゴイな。早く、行こうよ、リーナ」


 あら? デートの説明をしていないのですけど、よろしいのかしら?

 レオの興味はもう百貨店にしか、ないようですわね。

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