第17話 勇者の義父はつらいよ

勇者の義父視点


 ワシセベクはいずれきたる世界の終末に起きる大きな戦いに備え、仲間とともに『名も無き島』でいつ終わるともしれない教練に身を置いてきた。

 それがワシの誇りであり、生きる意味でもあった。


 ワシを変えたのはあの子レオニードとの出会いに他ならないだろう。

 戦いに生き、戦いに明け暮れていたワシらは変わった。

 邪気が無く、ただひたすらに真っ直ぐなあの子のお陰で。


 そんなレオがまさか、神によって勇者として選ばれようとは思わなんだ。

 いや、違うか。

 あいつほど、勇者に相応しい者は恐らく、いないのだ。

 ワシらが変わったのもあいつが勇者だったからと考えれば、全てが腑に落ちる。


 さらに驚いたのはヘルヘイムの女王ヘルと懇意になったと聞いて、驚いた。

 あのの娘とそういう仲に陥るのは何かの運命なのだろうか?


「リーナは大事な友達だよ」


 レオは全く、迷いなくそう言いおった。

 そうだな。

 ワシの考えすぎだったのだろう。




 考えすぎなどではなかったのだ。

 闇そのもの。

 恐怖そのもの。

 あれほどの威圧感をワシらに与える者はこれまでにいなかった。

 レオを迎えに現れた神どころの騒ぎではない。


 プラチナブロンドの長い髪を靡かせたその者の姿は人であれば、美しいと表現するのだろう。

 かつて人の里を訪れた際に見た陶器人形ビスクドールの如き、まるで作られたような美の持ち主だった。

 だが、作り物でないことが一目で分かるのはレオと同じ色をした瞳がまるで燃え上がるように輝いているからだ。


 正直なことを言えば、ワシですら怖い。

 恐れる者などいない勇士と言われたこのワシがだ。


「ごきげんよう。初めまして、おとう様。わたしはリリアナ。レオの妻ですわ」

「つ、つま!?」


 どうなっておるんだ、レオ!

 あいつがこの場にいないことを嘆きつつもワシがこの場をどうにかせんといかんと奮い立つのだった。


 しかし、どうやらワシの思い違いであったようだ。

 リリアナと名乗った我が子レオニードの自称嫁はよく分かっている。

 レオを肴に満足するまで語り合える者など、この世に存在しないと思っていたのだが……。

 中々に手強いようだ。

 後半はほぼ頭に入ってこない程にレオへの愛を強く、語る自称嫁リリアナのレオ愛はあまりにも深く、危険な気がしてならん。

 だが、これほどに強く愛されるのであれば、よいのではないかと考えてしまうのだ。


 自称嫁はあまりにレオを強く愛するあまり、周囲を慮る傾向が低いのではないかと考えていたが杞憂だった。

 レオがかつて言っていたことを思い出した。

 「リーナはすごいんだ。女王として、場に臨む時はちゃんとしてるんだ」と。

 女王としての矜持とでも言うのだろうか?


「わたしはレオが大好きなこの島とおとう様にも幸せになってもらいたいのですわ。ですから、一緒に考えましょう。より良く生きる為の道を……」


 熱を帯びた目でレオのことを追いながらもこれだけ、しっかりとした考えを持っているのなら、レオのことを任せても平気だろう。


「ねぇ、レオ。聞いた? 今のわたし、どう?」

「う、うん。すごいよ」


 レオの腕に体を密着させて、甘えている姿はとてもヘルヘイムの女王には見えん。

 本当に平気なのか?

 冷徹な仮面を被り、女王然としていたかと思えば、レオに甘える仕草はとても、そうは思えないほどに危ういものではないのか?

 不安になったワシはヤツを呼び出すのだった。

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