第14話 姫の目論見儚く、崩れる
残念なことに温泉は考えていたよりも温度が低め。
温めのお風呂。
それよりもちょっと温かいプールといった方がいいかしら?
それにまず、大きな問題点として、この島にお風呂という概念自体がなかったこと。
これをどうにかしないといけませんわ。
そこで考えたのがお風呂ではなく、あくまで体をきれいにして、休める為の施設であるということを分かってもらうことが大事なのよね。
「リーナ。まーだー?」
そんなことを言いながらも、バシャバシャと水音がするから、十分に楽しんでそうですわ。
そうなのです。
完成記念ということでまずはわたしとレオが大浴場を使ってもいいことになりましたの。
独占! 自由!
とてもいい響きですわ。
「お待たせ」
「遅いよ。リー……ナ!」
思ったよりもいい反応なので満足でしてよ。
「レオ、どうしたの? 似合ってるかしら?」
「に、似合ってるよ。うん。とっても!」
なんて言いながら、わざとビキニを直したりすると途端にもじもじするところがかわいいわ♪
色々と見ているのに熟れた赤い果物みたいになってる顔も素直に褒めてくれるところも……あなたの全部が大好きなの。
だから、結構無理して、大胆なデザインの赤いビキニの水着を選んだんですもの。
油断すると胸が零れ落ちる可能性がありそうなのが怖いですけど、慎重に動けば大丈夫。
大丈夫ですわ!
ええ。
そうなのです。
この大浴場は水着着用が原則ルールですわ。
お風呂というよりは温かいプールだから、仕方ないのよね。
レオにもこの島の空を飾っている青空みたいに目が覚めそうな水着を穿いてもらって……あら?
「あの……レオ? 水着はどうしましたの?」
「え? お風呂は何も着ないで入るものだって、聞いたよ」
間違っては無いですけど……色々と間違ってますわよ。
レオのレオもなぜか、かわいくなくなりかけていて、どうしてなの!?
「レ、レオぉ。とにかく、水着を……お願いだからぁ」
「どうしたの? そんな泣きそうな顔をして。分かった。それが脱ぎにくいんだね?」
「ち、ち、違うからぁ!? きゃあああっ」
レオの動きが速いの! 力が強すぎなの!
ビキニを剥ぎ取られて、胸がレオの前で露わになってしまいました、クスン。
明るいところで見られたのもショックですけど、剥ぎ取った本人が驚いて固まっているのはなぜかしら?
「リーナのおっ……おっぱ……痛いよ、リーナ! また、たんこぶが出来たよ」
「それ以上、言わないのっ!」
慌てて、胸を隠して、彼を睨んでも無意味なのは分かっているわ。
涙目で言ってもこういう場合、逆効果。
むしろ、その後、美味しくいただかれるのでしょう?
「ごめんよ、リーナ。知らなかったんだ。はい。水着を着てくるね!」
ええ? ここでそうきましたのね?
もう全てで負けた気がしますわ……。
あなたの純真無垢なところを忘れていたわたしが悪かったのだわ。
レオを揶揄ってから、わたしの魅力で喜ばせるなんて、考えたのがいけなかったのね。
最初から、普通に楽しめば、良かったのね。
その後、レオと疲れ果てるまで水遊びに興じて、楽しかったですわ。
ただ、何度も水着が脱げかけ……いえ、脱げましたの。
ええ、事故ですわ。
レオは故意に脱がそうとする子ではありませんもの。
その度に「後ろ向いていて」「はーい」というやり取りがあまりに繰り返されたので……
「もうっ! 君が着させてくれる方が早いわ」
「え、えー!?」
「それくらい、やってくれるのよね? レオ君」
「分かったよ。リーナ姫」
彼は目を瞑って、見ようとしないで挑戦するものですから、レオらしくて微笑ましいし、わたしの勇者様はかわいすぎて、どうしましょう?
うふふっ。
いいことを思いついたの。
「きゃあん。レオったらぁ、変なところを触っちゃやだぁ」
自分でもわざとらしいとは思ってましてよ?
こんなのに騙される子はまず、いないと思うのですけど……。
「え? ち、違うよ! わざとじゃないんだ」
そうよね。
レオはそういう子だったわ。
本当は当たってもいないのに謝るんですもの。
彼はどこまで純粋なのかしら?
何だか、わたしの方が悪いことをしているみたい。
「わざと触ってもいいわよ? レオ君には許してあげる。感謝してよね?」
「あ、うん。ありがとう。って、え? えー!?」
レオは分かっているのか、分かっていないのか、どちらなのかしら?
顔が真っ赤になっているから、案外分かっていて、わたしのことを意識してくれているのなら、嬉しい。
少しでもあなたの心にわたしがいるのなら……。
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