第5話 無謀な乙女の蛮勇

 いつもでしたら、就寝時はレオが言ったように薄い生地の夜着に着替えます。

 でも、それはいつもの話。

 今は違いますわ!


 勝負に出るんですもの。

 そのような物を着ていては勝負になりませんでしょう?

 覚悟を決めて、漆黒のゴシックドレスを脱ぎました。


 ええ、全部脱ぎますわ。

 下着も脱いだ方がいいのかしら?

 あぁ、もうっ! まどろこしいですわ。

 脱げば、いいのでしょう! 脱げば!


 レオが見ていないと分かっていても恥ずかしいわ。

 何も着ていないからではなくて、レオがすぐそばにいるからなのかしら?


「大変……お風呂に入ってないわ」

「ないよ」

「え?」

「いつもは川で洗うだけなんだ。だから、気にしなくてもいいよ」


 お風呂がないですって!?

 衝撃的な事実を知ってしまいました。

 これはどうにかしないといけませんわ。

 明日、お家をどうにかするのとお風呂ですわね!


「でも……」


 気にするなと言われてもわたしは乙女なのです。

 大丈夫かしら?

 変な匂いがしたりはしません?


 自分の体をクンクンと犬のように鼻で確かめることになろうとは……。

 多分、大丈夫な気はするのですけど。


 自分の匂いは自分では気が付きにくいとも言いますわ。

 どうしましょう?


「大丈夫だよ。リーナはその……いい匂いがするんだ」


 まるでわたしが悩んでいることを知っているみたい。

 いい匂いと言われると悪い気はしませんもの。

 ええ、何だか、自信が持てますわ。


「は、入りますわ」

「うん。おやすみ、リーナ」

「お、お、おやすみなさい、レオ」


 レオはわたしが何も着ていないと分かっていたのかしら?

 もう振り向いていいのかと聞かないでわたしに背を向けたまま、横になってますもの。

 あくまでもわたしとの約束を守ってくれるのが嬉しくて、胸の奥がポカポカとしてくるのは気のせいではないと思いますの。


 でも、さすがに裸のまま、レオに抱き着く勇気はありませんでした。

 だって、レオは下着だけなんですもの。

 抱き着いたら、わたしは何も着ていないから、肌と肌がくっついてしまいますのよ?

 無理ですわ! 心臓が持ちませんわ!


 そうは言うもののベッドが小さいので身を寄せ合うようにして、寝ないといけなかったのですけど……。

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