回想②〜白草四葉の場合その1〜拾壱
自分自身の心境の変化に驚きつつ、クロに熱い視線を受け続けたことによる快感の余韻にひたっていると、彼は、
「歌うのも疲れたし、ちょっと休憩するか?」
と、提案してきた。
二人で歌い始めてから一時間ほどが経過していたため、喉の渇きと心地よい疲労感を覚えていたわたしも、「そうだね」と笑顔で同意する。
わたしの返答に、「おう!」と、うなずいたクロは、
「シロ、さっきオススメの映画を教えてくれたじゃん? オレが、好きな映画も観てくんね?」
と言いながら、一度、プレイステーションのカラオケアプリを終了させ、《YourTube》のアプリを起動させ、検索機能の画面に、文字を入力していく。
(クロは、どんな映画が好きなんだろう――――――?)
興味津々で、その横顔を眺めていると、
「この検索画面、使いにくいんだよな〜」
と言いつつ、『フェリスはある朝』と文字列を入力して検索結果を表示させた彼は、『Ferris Buller’s Parade』というタイトルのスポーツチームのものらしい真っ赤なシャツを着た青年と、白のジャケットを羽織った女性が写っているサムネイル画面を選択した。
再生が始まると、アメリカの都市のパレードの風景が映し出され、サムネイルの男女二人が、人混みをかき分けて登場する。
二人は歩きながら会話を始めるが、字幕のない英語の動画なので、小学生のわたしには、何を言っているのかわからない。
しかし、その直後の場面から、言葉での説明など必要のない印象的なシーンが展開された。
会話をしていた二人が、会場のアナウンスらしき声に振り返ると、パレード用のフロートの中央で、マシュー・ブロデリック演じる青年が立ち上がり、二人に視線を送った後、歌い出したのだ。
「この三人はさ、学校の授業をサボって、このパレードに来てるんだぜ」
無邪気な表情で、映像の内容を解説するクロを少しカワイイと思った。彼は、続けて、
「なあ、シロは、授業のある日に学校を抜け出して、街に出たいと思ったことないか?」
と、たずねてきた。
突然の質問に、やや困惑しながらも、
「う〜ん、わたしは、問題行動を起こして先生を困らせる子じゃないんだけど……でも、その気持ちは、ちょっと、わかるかな〜」
そう答えると、クロは、「へへっ」と笑って、嬉しそうに、
「やっぱ、そうか!」
と満面の笑みを返してきた。
そして――――――
「この後からが、見どころなんだ!」
と、彼が言い、画面の中の青年が、フロートの中央に向かって、「ユーアー・クレイジー!!」と叫ぶと、演奏されていた曲が変わる。
ノリの良いマーチング・バンドが姿をあらわすとともに、壇上のマシュー・ブロデリックが、さらにテンションを上げて、歌い出す。
「あっ、この曲、知ってる! ビートルズの……」
『ツイスト・アンド・シャウト!!』
わたしが、曲名を答えると同時に、画面の中のブロデリックも、歌詞を熱唱していた。
あまりにキレイにタイミングがハマったので、クロとわたしは、声を揃えて笑いあう。
「さすが、シロ! 良く知ってるな……」
という彼の声に、
「クロだって……! わたしは、この映画のこと、全然知らなかったよ……なんて言うタイトルなの?」
わたしがたずねると、
「『フェリスはある朝突然に』って、いうんだ! シロは、『ホーム・アローン』は、観たことあるか?」
クロはタイトルを答えたあと、逆にこちらに質問を返してきた。
「うん! あの映画、面白いよね!」
即答すると、「だよな!?」と、クロは、また嬉しそうに返事をして、
「この映画は、『ホーム・アローン』と同じスタッフなんだよ! 去年のクリスマス前に、ソウマと『ホーム・アローン』を観たあとに、オススメで出てきた、この映画を観たんだけどさ……今では、一番のお気に入りの映画なんだ!」
熱っぽく、映画との出会いを語る。
わたしが、
(またまた、ソウマ君かぁ……)
と、内心で苦笑していると、画面の中は、さらに盛り上がりを見せ、フェリス(もう説明するまでも無いと思うけど、マシュー・ブロデリックが演じている中央で熱唱している主人公の青年のこと)とコーラスを担当する女性たち、マーチング・バンドのメンバーだけでなく、パレードの見物人なども巻き込み、ド派手なお祭り騒ぎになっていた。
「スゴい盛り上がり方だね〜」
なかば感心、なかば呆れながらの気持ちで、わたしがつぶやくと、肯定的な返答と受け取ったのか、クロは、
「だろう!?」
と、声をあげたあと、
「この映画のフェリスみたいに、パレードで、みんなと盛り上がりながら、『ツイスト・アンド・シャウト』を歌うのが、オレの夢なんだ」
と言い切った。
その言葉を聞いた瞬間、わたしは、一瞬なんのことかわからず、「えっ!?」と言葉を失ったあと、クロが、パレードの真ん中で、一生懸命『ツイスト・アンド・シャウト』を歌っている姿を想像し、おかしくなって、プッと息を吹き出し、
「フフフッ……可愛らしい」
と、口にして、笑いだしてしまった。
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