インターミッション(黄瀬壮馬の見解)

「オレは、反省を込めて、二週間前のオレ自身に対して、復讐をしたい、と思う」


 小学生の頃からの腐れ縁である黒田竜司は、そう言った――――――。

 

(竜司らしい言い方だな)


と、感じると同時に、復讐と言えば――――――ボクは、子供の頃に読んだ、こんな話しを思い出した。


 ギリシア神話の美の女神アプロディーテーは、海の泡から生まれたという伝説がある。

 大地母神ガイアは、夫のウーラノスが、(一つ目の巨人や百本の手を持つ巨人として生まれた)我が子を醜いと忌み嫌い、彼らを冥界に閉じ込めたことを嘆き悲しんだ。


夫婦の末の子であるクロノスは、母の意を汲み、寝室に忍び込み、彼女の作った大鎌で父の男性器を切り取って、海に投げ入れたとか――――――(うぅ……グロい…………)。


 その投げ入れられたにまとわりついた泡から生まれたのが、ヴィーナスの別名でも知られる美を司る女神アプロディーテーだという。

数多くの絵画や彫刻の題材にもなっているので、この逸話は、日本でも比較的よく知られているのではないだろうか?


 ただ、この時のエピソードで生まれたのは、美の化身だけではなかった――――――。


 クロノスが、父のを切り落とした時、その傷口から、一緒にいた母の身体に血が滴り落ちた。

 そこからは、エリーニュニスと呼ばれる複数の女神が生まれたという。


 この壮絶な場面から生まれた女神たちは、こう呼ばれるようになった――――――。


 『復讐の女神』


 その姿は、頭に蛇の冠をいただき、背中にはコウモリの羽をはばたかせ、手に持った松明をかかげて罪人を追いつめ、捕まえた罪人を覗き込むその目からは、血が滴り落ちるという恐ろしい姿をした女神として描かれている。


 ギリシャ神話の中に登場する人物の中でも、後ろ暗い過去や罪の意識に苦しむ人間たちは、こうした復讐の女神エリーニュス(単数形だとこう呼称される)から厳しく追い立てられることによって、自らの心を苛まれて自滅への道を進んでいくことになる。


 復讐という言葉に魅入られてしまった人々の末路は、いつも仄暗ほのくらい――――――。


 ここで語られるのは、ボクたちが目撃することになる、そんな彼の復讐リベンジャーの物語だ――――――。

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