第2章〜白草四葉センセイの超恋愛学概論〜⑥
「ボクも、竜司も明日は特に予定はないけど……どうして?」
オレより先に、壮馬が聞き返すと、白草は、
「良かった!」
と、表情を崩し、こんな提案をしてきた。
「明日は、今回の企画の作戦会議をしない? 黒田クンが、紅野サンに対して具体的にどんなアプローチをするのか、彼女との仲を近づけるためにナニが必要か、最後にどんなふうに想いを告げるか……そんなことを相談したいと思うんだけど……」
その言葉に、オレはすぐに返事を返す。
「そう言うことなら、明日もまた、ウチに来るか? 白草が良ければ、今度はオレがランチをご馳走するぞ?」
「えっ!? いいの?」
たずね返す白草に、今度は壮馬が応じた。
「こう見えて竜司の料理の腕は、なかなかのモノなんだよ」
珍しくオレのスキルを素直に褒め称える壮馬に、白草は、
「あっ、そうだったね……」
と、小声でつぶやいた。そして、
「じゃあ、明日は黒田クンの手料理を楽しみにしてる! お礼に、シッカリとアドバイスをさせてもらうから!」
そう言って、顔をほころばせ、「じゃ、また明日ね!」と、オレたちに言い残し、駅前の道から仮住まいへと戻っていった。
※
新学期早々の来客の見送りを終えると、壮馬が、「さて……」と、接続詞を口にし、オレにたずねてくる。
「白草さんとの初回の打ち合わせはどうだった?」
「どうもこうも、オレは圧倒されっぱなしだったな……オマエの方は、どうなんだ?」
「彼女の企画力には、脱帽したよ。さすがは、一◯◯万人のフォロワーを持つだけはある……恋愛全般に関する考察力に関しても、ボクたちじゃ異論を挟む余地がないよね」
そこまで言って苦笑した壮馬は、「ただ……」と付け加えて、
「教室や、ボクたちの編集スタジオで話しをさせてもらった第一印象を言うと……白草さんって、初対面の人間との距離の取り方がバグってない? これが、ギャルゲーなら、フラグ管理の失敗を疑うレベルだよ」
と、同意を求めてきた。
友人につられて苦笑いの表情になりながら、友人に賛同しつつ、問い返す。
「それは、オレも同感だ……SNSのカリスマってのは、みんなあんな感じなのか?」
「どうなんだろう? 考えてみれば、インフルエンサーと呼ばれるヒトたちの活動って、ネット上でしかわからない部分もあるし、リアルだと、ああいう感じなのかな? それにしても、白草さんの竜司との距離の詰め方は、ね……そりゃ、女子からすると、ボクよりも竜司の方が話しやすいんだろうけどさ……」
と、つぶやく壮馬。
「おっ!? 壮馬、白草と話すオレに嫉妬してるのか?」
「なに言ってんの? ボクは、ああいうグイグイ押してくる感じの女子は苦手だから……それより、竜司こそ、まさか紅野さんから白草さんに乗り換えようとしてるんじゃないだろうね?」
友人は、ジト目でオレに視線を送ってくる。
「そんな訳ねぇだろ……第一、今日の白草の言動を思い出してみろ……あの自信タップリの恋愛強者ぶりを見せられるとな……自分で言うのも悲しくなるが、カリスマ的人気を誇るインフルエンサー様が、オレなんかを相手にすると思うか?」
そう自嘲気味に語ると、壮馬も「たしかに、そうだね」と同意したあと、
「でも、ボクたちのレベルで何か意見を言えるようなコトではないけどさ……個人的な実感を述べさせてもらえば、女子って、恋愛方面では基本的に男子に対して、上から目線じゃない?」
と、感想を口にした。その言葉には、即座に同意するしかない。
「それな!! まぁ、今回のことに関して、オレが異論をはさめる立場では無いが……壮馬が言ってた『恋愛工学』? とやらが、女子受けしないわりに、オトコに支持された理由は、その辺りに要因があるのかもな」
オレの述べた一言に、壮馬は目を細めながら、賛意を示して所感を述べた。
「竜司って、普段はニブいのに、こういう直感だけは鋭いよね」
「さっきも言ったけど、オマエはいつも、一言余計なんだよ」
オレは親友から下された評価を受け止めつつ、その頭部に向かって軽く手刀を振るう素振りをする。
そんなツッコミを受け流しつつ、壮馬は新たな疑問を口にした。
「そう言えば、確認したいことが、もう一つあったんだ! 竜司、白草さんにツカサさんのアップルパイの話しをした?」
「ウチの母親の……? いや、今日は、そんな話しをした覚えはないが……」
「そっか……竜司に、ベーカリー・ショップのアップルパイを準備してもらってる間、白草さんに、竜司のお母さんがアップルパイを良く作ってくれるって、話しをさせてもらったんだけど……白草さん、何故か、そのことを知ってるような口ぶりだったんだよね……いまさっきの会話で話題に出た竜司が料理をするってことを話した時も……まぁ、これは、《トゥイッター》のボクらのアカウントで、料理画像をアップしてるから、熱心なフォロワーのヒトなら知ってるかもだけど……」
慎重に考察するような語り口で話す壮馬に対し、オレは、
「おまえの気のせいじゃね〜の?」
と、軽くあしらうような口調で返事をしておく。
こちらの返答に、納得のいっていないようすだが、壮馬はこの話題を終わらせようと考えたのか、こんなことを言ってきた。
「まあ、なんにしても、白草さんの協力がなければ、竜司の初恋の
明日から始まる活動に対して、前向きな言葉を掛ける友人をありがたく思いつつ、過去の経験から、ひとつだけ訂正する。
「あ〜、春休みの時は言えなかったが……紅野は、オレの初恋の相手じゃないんだ」
つぶやくように語りつつ、オレは、小学生の頃のことを思い出していた。
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