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「写真の方がいいって思ってたでしょ!」

そう笑って階段を降りてくる彼女は、冬だというのに折れそうな足を出していた。

電車が来るまで、少し時間があったから、すこし話した。

寒いね、だとか、勉強はどうだとか、寒いねだとか

あの時僕は怯えていたんだと思う。自分がなりたかったような人。これから追いかけたいと思う人に、自分の浅さを見透かされるのが怖かった。


彼女との出会いは、僕が一番好まないものだった。生活をここ数年で蝕んでしまったこの小さな箱。皆がこの箱に詰まった情報に生きる道を左右され、新たな人格を有するほどに執着している。挙句の果てにはそれが真か偽か定かでない。そんな汚い箱に詰められた、自尊の押し付け合い。そんなもので人となりがわかってたまるか。

 しかし僕は、それにすがってしまった。余裕がなかったから。僕はずっとふけってた。

何を求めて、なんのために生きるのか。きっと正解なんかない。わかってた。だけど探して。でなければ、生きている意味がない。

そんなことばかり毎日考えていたらある日、切れてしまった。

朝の心地よさをを素直に感じられない。鳥の囀りがただの音。いいとは思える。けど、いいとしか思えない。

世界から色を奪われたあの感覚。感性も、人生の針も、止まってしまった。そう思った。

そんな時、話していたのが彼女だった。



普段聴いている音楽が近いものがある、それだけがきっかけだった。

 話の流れで僕の悩みを聞いてもらうことになった。

きっとわかってもらえない。今までだってそうだった。少し話すと皆何かに束ねようとする。それでも話そうと思った。でも今度はいつもと違った。全て話してみようと思った。彼女に少し期待をしていたから。言葉が素敵だと思ったから。

僕は全て話した。未来への不安、それに押しつぶされそうな毎日。頭の中に靄がかかっていて、自分が自分ではなくなっていること。

普通なら引くほどの言葉を投げつけた。彼女は、素敵だねと言ってくれた。それから僕を助けようとしてくれた。すごく素敵で、すごく綺麗で、寄り添う言葉。もちろん、受け止めてくれたこと、わかってくれたこともすごく嬉しかった。だけどそれ以上に、彼女の選ぶ言葉の一つ一つが、綺麗な素敵な心そのままで、僕は心惹かれた。




僕は彼女のおかげで、一つ見出すことができた。生きていることに本質的な意味はない。しかしそれを諦めてしまうのは違う。では綺麗なものにしてしまおう。自分が綺麗だと思うもの、優しいと思うものに従って生きよう。そうして選んでいく素敵なもので自分を作っていこうと決めた。頭の中の蟠りが少しずつ消えていった。


彼女はSNSに見たい映画を上げていた。僕も気になってたし、何より彼女の世界にもっと触れたいと思った。ダメ元で誘ってみた。行きたいと言ってくれた。


約束の日を待ちながら、ずっと彼女のことを考えてた。ある日彼女を近くのデパートで見かけたが、話しかけられなかった。できるわけなかった。どこか暖かくて寂しい雰囲気を纏い、整った顔立ちは遠くからでもわかった。雰囲気に圧倒されてしまった。そんな事を話したら笑われた。


約束の日の前日。少しでも彼女に引けを取らないようにと、信頼する友人に聞きながらをもらい服を選ぶ。もうすぐ会える。強く握って引き出してくれた君に。



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