0519 マギア・レジーニ

 バッカンさんの言葉にデニケンは愕然とする。

まるで信じられない事が起こったかのようだ。


「馬鹿な!「マギア・レジーニ」だとぉっ!?」

「そうだ。だからお前さんがどんなに魔法を唱えようとも無駄な行為だ。

すでに起動しているアイザックやジャベックなら多少動きが制限される程度だが、マギアグラーノや呪文でタロスを出そうとしても無駄だぞ?

わしのマギア・レジーニの作用範囲内ではいかなる魔法も無効だ。

ま、もっともシノブとグリーンリーフ師匠は別だがな?

少なくともお前は何の魔法も使えん。

このわしの結界内ではな?」


これがバッカンさんの特殊能力「マギア・レジーニ」だ。

マギア・レジーニとは一種の対魔法能力で、術者の周囲の魔法を全て無効にする。

別名「魔法封じ」とも言われている。

つまり魔法使いには天敵とも言える存在だ。

アンジュの村が壊滅しかかったのも、この能力を持った人間が村に攻め込んで来たからだという話だ。

俺もマジェストンの学校で習ったが、この能力は非常に特殊で数万人、数十万人に一人とも言われている。

だから実際にこの能力を持っている人に会うのはバッカンさんが初めてだ。

しかしこの能力にも弱点はあって、能力者が相手とレベルが拮抗する程度でないと封じる事は出来ないらしい。

アンジュの村がかろうじて壊滅しないですんだのも、おそらくはマギア・レジーニを使った相手よりもレベルが高い魔法使いが数人いたからなのだろう。

だがバッカンさんのレベルは300以上、優秀とは言ってもデニケンのレベルは120程度なので、バッカンさんがマギア・レジーニを発動して展開すれば、余裕でデニケンを封じる事が出来る。

この事態にデニケンは相当驚いたようだ。


「馬鹿な!貴様がそんな能力を持っていたとは・・・」

「ふん?驚いたか?

まあ、わしも今まで人に話した事はなかったからな?

使った事は何回かあるが、その時も誰が使ったのか知らないふりをしていた。

わざわざ宣言して使うのは初めてだ!

だが今回は隠しておく場合でもないのでな?

そしてわしの今のレベルは367、お前は120程度・・・

間違ってもお前がわしの前で魔法を使う事は出来ないぞ?

観念しろ」

「くうっ・・・」


バッカンさんの言葉にデニケンに冷や汗がにじみ出る。

そしてバッカンさんがデニケンを詰問する。


「さあデニケン!これでもう言い逃れは出来ないぞ!

言い加減に全て白状して諦めたらどうだ?」

「知らん!私は何も知らん!」


焦るデニケンにユーリウスさんとシャルルが静かに迫る。


「デニケンさん、私もあなたがこのノーザンシティのためを思ってやっている事なら多少の事は見逃そうと思っていました。

しかしこれは見逃せませんね?」

「ええ、そうですね?ユーリウスさん」


ユーリウスさんとシャルルが静かにデニケンに迫る。


「待て!ユーリウス!シャルル!

俺の話を聞いてくれ!」


デニケンが必死に言い訳をしようとしても二人は無言だ。

そこで今度は俺がデニケンに話しかける。


「話?一体何を話すと言うんです?

証拠は全て上がっているし、私が捕まえたあなたの部下が証人ですよ?

話すならあなたのでっち上げた話ではなく、本当の事を話してくれるんでしょうね?」


突然の俺の登場に面食らったデニケンが尋ねる。


「何?誰だ?貴様は?」

「私は帝国貴族のシノブ・ホウジョウ子爵だ」

「貴様が?あの大森林領を切り開いたと言われている・・・」


どうやらデニケンは俺の貴族になった経緯を聞いて知っているらしい。

それならば好都合だ。


「私の事を知っているなら話が早い。

さあ、とっとと本当の事を白状してもらおうか?」

「待てっ!なぜお前がこの問題に出て来る!

お前は何も関係がないはずだ!」

「まあ、確かに今回の事と関係ないと言えば関係ないんだがね?

ただシャルルは私の大切な友人だ。

その友人の助太刀に来たという訳さ。

もっともそれとは別にあんたに少々恨みはあるが・・・」

「恨みだと?

私とお前は初対面のはず!

何故恨まれる筋合いがある!」


どうやらデニケンは俺の事を全く覚えてはいないようだ。

今の俺は高等魔法学校の制服を着ている。

あの時は格好も全然違ったし、無理もないか?


「ああ、正確には恨みと言うよりも逆恨みかな?

その事に関しては確かにあんたに罪はない。

悪いと言えば、俺が悪かったんだからな」

「何?一体、どういう事だ?」


そのデニケンの質問に俺は一言呟く。


「こういう事さ、ハムハム!」


その俺の言葉にポケットに入っていたハムハムが飛び出し、ダダダ・・・と俺の体を駆け上り右肩にスッと立ち上がる。


「うきゅっ!」


その姿を見たデニケンがようやく思い出したように叫ぶ。


「思い出したぞ!そのネズミ・・

そうか!貴様あの時の小僧か!」

「ああ、そうだよ。

あの時はこのハムハムがお前さんに世話になったな?

もう一度遊んでやってくれよ?」


俺がそう言うとハムハムは俺の肩からダッ!と飛んで、デニケンに飛び移る。

そして以前の時にハムハムがしたようにデニケンの首の周りをグルグルと走りまわる。


「ええい!またしてもこのネズミがっ!」


デニケンは以前の時のようにハムハムを捕まえて地面に叩きつける。

そして同じように踏みつぶそうとする。


「ふんっ!こんな物!前と同じよっ!」


しかしそう言って踏みつぶそうとしたデニケンの足を巧みに取ったハムハムがデニケンを転倒させる。


「うきゅッ!」

「なにっ!ガッ!」


ただのネズミ型の小型ジャベックだと思って油断したデニケンが、ハムハムによって派手に転がされる。


「うっ・・・ぐぅ・・」


無様に床に転がったデニケンに俺が説明をする。


「残念だったな?今度のハムハムは以前のハムハムとは性能が段違いなんだ。

前と同じにはいかないぞ?」

「くっ・・」


ハムハムに転ばされたデニケンはヨロヨロと立ち上がる。

そして両手で俺を制止して喚き散らす。


「待て!話せばわかる!

これは色々と誤解があるんだ!

説明をさせてくれ!」


あくまでしらを切ろうとするデニケンにユーリウスさんが話す。


「そうですか?それほど言うなら、是非この人にも説明していただきましょうか?」

「何?」


するとそこへ一人の人物がやって来る。

年頃的にはデニケンと似たような年齢の金髪の男性だ。

その人物を見たデニケンが途端に青ざめる。


「きっ!貴様は!」

「久しぶりだな?デニケン?」

「ばっ!馬鹿な!シモン!貴様は死んだはず!」


その姿を見たデニケンは、真っ青になりガタガタと震え始める。

これでいよいよ大詰めか?

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