0163 ハムハムの最期
その二人は俺たちに近づくと止まってユーリウスさんと話し始めた。
見た感じでは、一人はこの町のお偉いさんのようで、もう一人は俺と同じ位の年齢の金髪の少年だ。
おや?この子には会った記憶があるぞ?
確かこの前のゴーレム大会でノーザンシティのジャベック展覧所で案内をしていた少年だ。
ふわっふわの金髪で、知的で気品のある顔立ちでやさしそうな少年だ。
どこぞの王子様だと言われても納得する風体だ。
偉く印象に残った顔だったので間違いない。
そしてその偉そうな人が、ユーリウスさんに挨拶をしてくる。
「おや、これはユーリウスさん」
「ああ、デニケンさん、シャルル君、こんにちは」
「こんにちは、ユーリウスさん」
なるほど、こっちの偉そうな人はデニケンという名で、この少年はシャルルというのか?
「今日はどうしてここに?」
「ええ、私の友人の方々がここのジャベックを見学したいというので、お連れした訳です」
「それはそれは、まあ、ごゆっくりと」
「はい」
「ところでゴーレム大会の方はいかがでしたかな?」
「そうですね。
今回も中々盛況でしたよ」
「ほう・・」
ユーリウスさんとデニケンさんの二人が話しを交わしている間に突然俺のポケットからハムハムが飛び出した。
「あっ!」
俺が止める暇もなく、ハムハムは俺からシャルル少年に飛び移ると、走り回った。
「え?」
少年は驚いた様子だが、興味も持った様子だ。
ハムハムが自分の首の周りをグルグルと回ると、それを面白そうに眺める。
「あはは・・・これ、なんだい?」
しかし、次の瞬間、ハムハムはデニケンさんに飛び移った。
途端にユーリウスさんと話していたデニケンさんが叫ぶ。
「なんだ?これは?」
叫ぶデニケンさんに構わず、ハムハムはその体を駆け上る。
「あっ、止めろ!ハムハム」
俺が止めてもハムハムは言う事を聞かず、デニケンさんの体を駆け回る。
金髪の少年にしたのと同じように首の周囲をグルグルと回る。
「ええい!こやつめ!」
そう言うとデニケンさんはハムハムを捕まえ、思い切り地面に叩きつけると、そのまま思いっきり足で踏みつける。
「ウキュゥ~ッ!」
レベルがたったの5しかないハムハムは、その衝撃に堪えかねて、光り輝きながら四散する。
「ハムハム!」
俺は思わず叫ぶが、ハムハムは消滅してしまった!
突然のハムハムの消滅に俺は呆然とした。
せっかく俺が作った初めてのジャベックのハムハムが・・・!
いきなり、こんな最期を遂げるとは・・・
しかしその俺にデニケンさんが、怒って問い詰めてくる。
「なんだこれは?ジャベックだったのか?
一体どういうつもりだ!」
「え?」
たった今、可愛がっていたハムハムを失った俺には、一体何を言われているのかわからなかった。
「いきなりこのような訳のわからない物を私に付きまとわせ、一体どういうつもりだと言っているのだ!
私を攻撃して首でも掻くつもりだったのか?
事と次第によっては許さぬぞ!」
「え?そんな・・・」
呆然としている俺に詰め寄ってくるデニケンさんに対して、即座にラピーダとミルキィが俺の前に出て、迎撃体制をとる。
「何だ!貴様ら!
貴様らもこやつの手先か!」
今にも何かしそうなデニケンさんにユーリウスさんが声をかけて止める。
「まあ、待ってください!
デニケンさん!」
だが、デニケンさんは収まらない。
「しかしこやつの出した今のジャベックは私を攻撃したのですぞ!
まだ何を隠し持っているやも知れぬ!」
俺はデニケンさんの言葉に驚いたが、確かに言われてみればその通りだった。
俺は擬似愛玩生物のつもりで作ったが、それを感じない人間からしてみれば、単なる邪魔くさいだけの物だろう。
ましてやネズミの類が嫌いな人間はたくさんいる。
それが突然飛び掛ってくれば攻撃してきたと思われても仕方がないかも知れない。
そう考えた俺は、ようやく説明を始める。
「それは・・・単なるジャベックで、小動物のように人の命令を聞かずに自動的に動くように作ってあっただけで、他意はありませんでした」
その俺の説明にデニケンさんは憤慨して俺を罵る。
「命令を聞かず勝手に動くジャベックだと?
はっ!
何のためにそんな物を作ったのだ!
そんなジャベックが一体何の役に立つと言うのだ?
馬鹿馬鹿しい!」
「まあまあ、デニケンさん、こちらのシノブさんも悪意があってした訳ではありません。
今回の事は偶発的な事故と言う事で・・」
「ユーリウス殿がそうおっしゃるなら、この場は目をつぶりましょう。
しかし小僧?
次にこんな事をすれば承知しないぞ?」
「・・・はい、わかりました」
俺は悲しくて悔しくてたまらなかったが、ここは相手の言う事を聞くしかなかった。
確かにいきなり攻撃を仕掛けたと取られても仕方がない動きをハムハムはしたのだ。
そういう風に動くようにハムハムを作ったのは俺なのだ。
「ふん、全くよそから来た我が街の工場の見学者などにはロクな者がいないな!」
そう言ってデニケンさんは去っていった。
金髪の少年はその場でかがんで何かをしていた。
その少年にデニケンさんがいらいらとして声をかける。
「何をしている。シャルル!行くぞ!」
「はい」
シャルルと言われた少年は、ハムハムが四散した場所でかがんでいたが、デニケンさんに言われて慌てて立ち上がると、後を付いていった。
後には俺たちとユーリウスさんが残された。
ユーリウスさんが、申し訳なさそうに俺に謝る。
「シノブさん、申し訳ありませんでしたね。
私が彼を紹介したばかりに・・・」
「いえ、確かにハムハムがした行為は敵対行動で攻撃したと取られても仕方がありません。そのような動きで作成した私が浅はかでした」
「お詫びと言ってはなんですが、私が出来る事でしたら何でもしますので、言ってください」
「はい・・・ありがとうございます」
「御主人様・・・」
ミルキィも俺をどう慰めたら良いのかわからずに、言葉も無い。
「今日の所は見学はここまでにしておきますか?」
「ええ、そうします」
正直言って、俺も今の気分では見学を続ける気になれない。
ユーリウスさんの言葉に、俺は力なくうなずいて返事をした。
そのまま屋敷に帰った俺がションボリとしているとエレノアに尋ねられた。
「どうされましたか?御主人様?」
「それは・・・」
何と説明して良いか、俺は説明に困った。
そんな俺の代わりにミルキィが説明した。
「ハムハムが殺されてしまったのです」
「え?ハムハムが?」
ミルキィが話すと俺が間違いを訂正して話す。
「いや、違うんだ、エレノア。
そうじゃないんだ」
俺は工場であった事をエレノアに話した。
俺の説明にエレノアはうなずいた。
「なるほど、そういう事でしたか・・・
確かにそれは残念でしたね」
「うん、でも僕が悪かったのは確かだ」
そう、俺はその方が面白かろうと考えてランダムな動きや、わざわざ自分の命令に逆らうような動きをするように設計をしてしまった。
その結果がこの体たらくだ。
泣くにも泣けない。
そんな俺にエレノアがやさしく話しかける。
「御主人様、確かに辛かったのは分かりますが、これを機会にハムハム2号を作ってみてはいかがでしょう?」
「え?」
「こう言っては失礼ですが、ハムハムは元々、私の課題として、御主人様が試験的に作られた物です。
これを機会に、もっと性能の良いハムハム2号をおつくりになってはいかがでしょうか?」
「ハムハム2号・・・」
新しいハムハムを作る・・・
それは俺が考えてもみない事だった。
しかし言われてみれば、確かにハムハムは実験的に作った物なので、今の俺が本格的に作れば、もっと良い物が出来るだろう。
「ええ、より性能が良く、より人々に愛される物を」
そのエレノアの言葉に俺は元気付けられた。
「・・・そうか、僕・・・作ってみるよ!」
「はい、エレノアもお手伝いいたします」
「私も!」
エレノアとミルキィに元気付けられた俺はハムハム2号を作る気になってきた。
俺たちがそう話していると来客が訪れた。
ユーリウスさんが俺の部屋をノックする。
「シノブさん?御客様がお見えですよ」
え?客?
誰だろう?
この街にはユーリウスさん以外に知り合いと言える者はいない。
一体、誰が訪ねて来たのだろうか?
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