0162 生産ジャベック見学

 俺たちは魔石の見学を終わると、次に生産ジャベックの見学をした。

俺はかつて見た事がある自動車工場のような物を想像していたが、少々違っていた。


生産区画に移動をすると、工場の中では30体ほどのジャベックが、椅子に座り、机に向かってセッセと術式書を作っていた。

その様子を見て俺は意表を突かれた。

これは何だか、学生が教室で試験を受けているみたいだ。

ああ、でも前世の学生時代に生徒が製図を書いていた時がこんな感じだったかな?

考えてみればジャベックの術式書を作るのって、設計図を書くのとプログラムを組むのを合わせたみたいな物だから、その製作風景がこんな光景になるのは当然か?

そういえば、俺が前世で仕事にしていたシステムエンジニアの仕事もこんな感じだ。

向かっているのが紙か映像画面かの違いだけで、やっている事は大差ない。

そう考えれば納得だ。


「なるほど、ジャベックが術式書を作っている訳ですね?」

「その通りです。

こことほぼ同じ工場がこの街全体で、6箇所ほどあって、それぞれそこでは10体から30体程度の魔法ジャベックがこのように日々ジャベックを作っています」

「6箇所ですか?」

「ええ、何か事故などが会った場合に、一箇所にまとめていた場合、全ての生産が止まってしまいますからね。

安全のために数箇所に分けている訳です」

「そうですね」


それ当然の処置だと俺も思った。

俺が感心してジャベックたちを見ていると、そのうちの一体が術式を書き終えた様子だ。


「ああ、ちょうどあそこで一体起動させるようですよ?」


ユーリウスさんの言う方向を俺が見ていると、そこでまさに一体のジャベックが完成された。

術書が光り、ジャベックが出現する。


「ああして完成したジャベックは数日間の査定を経て、実際に販売される訳です。

もちろん、全て基本に魔法協会の規定を組み込んでいます」

「すると、最終所有規定に魔法協会を?」

「その通りです。

もっともその一つ前がノーザンシティの運営委員会になっているので、実質はそこが最終所有者ですがね」

「なるほど」



ジャベックを作るに当たっては、その術書の中に「製作者」「所有者」「使役者」の3つが必ず必要になる。

これはジャベックに対する命令順位で、その順位は1位「製作者」、2位「所有者」、3位「使役者」の順となる。

この3つは大抵はジャベックを作った製作者が兼ねるのだが、そうでない場合もある。

例えば、作ったジャベックが最初から譲渡、貸出を目的としている場合などだ。

その場合は製作者、所有者、使役者が別々になる。

また、製作者が全員死亡してしまった場合、所有者が最優先命令者となる。

この場合に所有者設定がされていない場合、そのジャベックは所有者不在となり、その場で崩壊する。

そして製作者の他に、所有者は何段階かの優先順位が設定可能で、魔法協会の規定では、最終所有者は「魔法協会」と設定される。

これによって所有者不明を防ぎ、万一の場合の所有者争いを防ぐのだ。

魔法協会の正規の魔道士がジャベックを作成する場合、必ずこの事は必須で、これを怠った場合、最悪、魔道士称号を剥奪された上に、犯罪認定されてしまう場合もあるので、必ずこれは刻まれている。

これを守らないのは魔法協会に所属しない、はぐれ魔道士位だが、そもそもジャベックを作るのには魔法学士級の能力が必要なので、魔法学校を卒業せずにジャベックを作れる者などほとんどいない。

もっとも俺がその非常に珍しい例外な訳だ。


そして最初から製作者が自分でそのジャベック使用を前提としてない場合、つまり売り物や、貸し出し、共用前提の場合などは所有者を複数登録するのだ。

所有者が組織などになった場合は、使役者がその組織の人員である場合のみジャベックは命令に従い、通常同じ組織でもより上位の者に従うように設定されている。

そしてそこからさらに貸し出しをされる場合などは、さらに別個に使役者が設定されて、実際に働く事になる。

ここのジャベックは最終所有者を魔法協会にしてあるが、その一つ前の所有者設定をノーザンシティの運営委員会にしてあるらしい。

それならば、ここで生産されたジャベックが、万一購入した所有者や、その使役権限を持っている人間が立て続けに死亡した場合、最後にはここに戻ってくる訳だ。

そうすれば野良ジャベックなどにならず、所有者不在となっても、最終的にはこの町で働く事になるだろう。


「ここで作られているのはレベル50ほどの汎用ジャベックですので、1週間に1体位の割合で作られますが、レベルが高いジャベックだと、もっと時間がかかりますね」

「ゴーレム大会で売っていた物程度だと、どれ位かかりますか?」

「それほどの魔法ジャベックですと6ヶ月以上かかりますね。

もっとも実はあのジャベックを普通に販売するのは予約してある分だけで、その後は現在予約停止中で、その後で相当制限をかけて売る事になるのですが・・・」

「制限?」

「ええ、実は魔法協会とアースフィア広域総合組合から申し入れがきたのですよ。

あのジャベックの販売には制限をつけて欲しいとね」

「何故ですか?」


俺の質問にユーリウスさんが申し訳なさそうに答える。


「それはあまりにも性能が良すぎたからです」

「え?良すぎると何かいけないんですか?」

「ええ、あれほどの性能のジャベックを無制限に売ると、何か被害が出かねないと言われましてね。

言われてみれば、確かにあのジャベックならば、小さい村程度でしたら殲滅可能なほどの能力を持っていますからね。

心無い者に利用されたらとんでもない事になります。

事実、あの大会ではシノブさんも御存知のように、心無い者の騒ぎが起きました。

もしあのような人間が、あのジャベックを複数所有していたら、騒ぎは大きくなっていた事でしょう。

そこであのジャベックを購入可能な者は、正規の魔法学士か、組合員の一級以上の資格を持っている人間と制限をかける事になったのですよ」

「なるほど」


確かにあのジャベックはそれ位の制限をかけた方が良さそうだ。

あれほどの性能ならば、サーマル村程度だったら殲滅可能だろう。

うちのガルドやラピーダだって俺やエレノアが使っているから、そんな事態にはならないが、何もわかっていない人間が使ったら恐ろしい結果になるかも知れない。


「その件も含めて、今後は魔法ジャベックには色々と購入の制限が出来る事になりましてね。

例えばレベルは低くても魔道士級の魔法が使えるジャベックは正規の魔道士か、組合の四級以上の者、また攻撃魔法を使えるジャベックは、レベルに関わらず最低でも魔法士か、組合で5級以上に登録されている者しか購入が出来ない事になりそうです」

「なるほど、確かにその方が良さそうですね」

「ええ、近いうちにウチの組織と魔法協会、それに総合組合などの組織が話し合って購入規定を決める事になりそうです」


確かに攻撃魔法を使用可能なジャベックを、そこらへんの金持ちのバカボンなどに買われたらたまった物ではないかも知れない。

その点、魔法協会の魔法使いや、組合に登録されている者ならば、扱い方も承知しているだろうし、万一馬鹿な使い方をすれば、身分を剥奪されたり、何らかのペナルティを化せられるだろうから慎重にもなるだろう。

今までは魔法ジャベックなどはそうそう誰にでも購入可能な物ではなかったから大丈夫だったろう。

しかし、性能の良いジャベックが大量生産されると、そういった心配もしなければならないとなると、良い事づくめという訳でもなさそうだ。


俺たちがこんな風に工場を見学していると、反対側から別の人たちが歩いてきた。

40代ほどに見える気難しそうな男性と、俺と同じ年くらいの金髪の少年の二人組だ。

おや?あの金髪の少年には見覚えがあるぞ?

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