0148 ゴーレム大会

 エトワールさんから大会の誘いが来た。

いよいよ例のゴーレム大会とやらがはじまるらしい。

俺とエレノア、ミルキィ、ペロンは選手の仲間として招かれた。

どうやらシルビアさんと共に、応援団兼、ボクシングのセコンドのような立ち位置らしい。

俺たちは待ち合わせた場所から会場へと向かう。

しかし、エトワールさんは少々元気が無い。

というか、何か悩んでいる様子だ。


「あれ?何か元気ないですね?」

「うん、元気がないというか、微妙な所かしら?」

「微妙な所?」


俺の疑問にシルビアさんが答える。


「実はね、彼女の憧れているゴーレム使いがいて、その人が今回選手として出場するのよ」

「ああ、例の以前話していた人ですか?」

「そうなのよ」

「へえ?それで何で微妙なんです?」


俺の疑問にエトワールさんが、ここぞとばかりに興奮して答える。


「だって!あの人が出たら絶対に他の人が優勝なんて出来るわけ無いじゃない!

普段は解説か、審査員をしている人なんだよ?」

「そんなに凄い人なんですか?」

「そりゃもう、だって今までその人が選手で出た時は5部門同時優勝したり、10回連続で優勝したりとかして、もう伝説級の人なんだから!」

「そんな人が何で今回は選手として出てきたんです?」

「どうやら今回は大会150回記念の目玉として、色々と来場者の気を引くために出るみたい」

「なるほど」

「でもね、せっかくその人が出るなら優勝は無理でも、逆に何とか準優勝すれば、お近づきになれるかなあ、なんて思っているのよ」

「なるほど、それで微妙な気持ちという訳なんですね?」

「そうなのよ!」


ロナバールの中心近くには大きな競技場があって、そこを主会場として祭りが行われるらしい。

まだ始まってもいないというのに、競技場の中は参加者も見物客も興奮していて、物凄い熱気だ。


「凄いお祭りですね?」

「ええ、このゴーレム大会はロナバールでも一番大きな祭りで、2年に一度、8日間も行われるのよ」

「そんなに?」

「ええ、自由日の今日に始まって、今日は大会の説明と各部門の出場者の紹介、そして来週からは試合が始まって、次の自由日の午前には各部門の決勝戦が行われて、午後には表彰式があるの

でも選手は休みの日もタロスの最終調整とかがあるから、実際には8日間連続みたいなものね」

「じゃあ、休日も一日挟むんですね?凄い大会だ」


この国では普通休日はまず動く事はない。

それが遊びであってもだ。

それを挟んでみんなが参加するとなると、確かに凄いお祭りだ。


「ええ、ここはゴーレムが盛んな町だから、2年に一度のお祭りね。

ここよりゴーレムで有名な町としてはノーザンシティがあるけど、あそこは実利優先で、こういったお祭りはあまりしないみたいね」

「そうなんですか?」

「ええ、だから大会にはそのノーザンシティからの参加者もたくさん来るわ。

研究の成果をこの大会で示すって感じね」

「へえ」

「大会の部門は大きく2つに分けられていて、戦闘部門と芸術部門よ。

戦闘部門は団体戦、個体戦に分けられていて、その中でまたいくつかに分けられていて、それぞれで争うの」

「ずいぶん、細かく分けられているんですね」

「最初の頃はそうでもなかったらしいけど、色々とあって細かく分かれたみたい」

「ジャベックやアイザックの試合とかはないんですか?」

「アイザックはもちろんの事、ジャベックも作り手が少ないから、その二つの試合はないの。

それにタロスで強さや動きが分かれば、当然ジャベックでも、それと同じ事は可能だから、あまり意味はないのよ。

逆は無理があってもね。

この大会は御祭り要素が強いけど、本来の目的は、使役物体魔法の研究成果の発表と、実践の検証だから」

「なるほど」


確かにタロスで可能な事は、ジャベックやアイザックでも当然出来るが、逆にアイザックやジャベックでしか出来ない事をタロスでやってみろというのは無理な話だ。

そういう意味ではタロスで大会を開くというのは正しいだろう。


「ただ、大会には試合とは別に、ジャベックの展覧会が併設されていて、そこでは各職人が二年の間に開発した自慢の一品が並べられていて、最新のジャベックも見る事が出来るわよ」

「それは楽しみですね」


あのゴーレム街の様子からしても、各職人や商店が腕を競って持ってくるジャベックは中々面白そうだ。


「ええ、それを楽しみに来る来場者もいる位よ。

ホラ、例の美女ジャベックとかね?」


エトワールさんが、ニヤニヤと笑いながら俺たちに説明をする。

ここでシルビアさんの査察が入る。


「だから話をそっちに持っていくんじゃない!」


例によって、ドスッ!とエトワールさんの頭にチョップが入る。


「いった~い!いいじゃないのよぅ~」

「まあ、その件は置いておいて、私達も大会を楽しみましょう」

「はい」

「大会には試合と展覧会の他に実売区画もあって、そこも人気よ。

試合と違って、展覧区画と実売区画は大会中ずっとやっているから、そちらも盛況ね。

ゴーレム魔法の使い手たちが、自慢のジャベックやタロスを発表したり、各ゴーレム商店がやってきて、実演販売もするから面白いわよ」

「なるほど」


どうも話に聞くと、これはオリンピックと万博とコミケとワンフェスを混ぜたような大会のようだ。

あとは工専のロボコンかな?

確かにそれは楽しそうだ。


「その中で一番人気は何でしょうか?」

「そうね、それはやはり戦闘部門かしら?

それぞれの種別に分かれて、模擬戦闘が行われるから大人気ね」

「種別って、どれ位に分かれているんですか?」

「大きく分けて個別戦と集団戦ね。

 個別戦はレベルが30とレベル無差別の2つに分かれていて、それぞれの種別で、争われるの。

 もっとも無差別の方は通常タロス呪文のレベル限界値が100だから、出場タロスのほぼ全部がレベル100になるわね。

上級タロス呪文は許されていないから必然的にそうなるのよ。

だから勝負は作り手の熟練度と技術力によって決まるわね」

「なるほど」

「集団部門の方は旗取り戦と、殲滅戦に分かれるわ」

「旗取り戦と殲滅戦?」

「ええ、お互いに100体のタロスを出して、旗取り戦は相手の旗を取れば勝ちなの。

 殲滅戦は文字通り、相手を全て殲滅すれば勝ちよ」

「なるほど」


旗取り戦というのは、以前俺がグレイモンと戦った時のような物か?

そして殲滅戦というのはそのまま、相手を一体残らず殲滅する戦いという訳だ。


「そして、レベルは無制限で、それぞれが通常戦と異種戦があるので、全部で4種類の戦いがあるわ」

「その二つって、どう違うんですか?」

「通常戦は大きさ1メル以上2メル以下の人型のタロス100体で勝負をするの。

 通常の人間兵士を想定しての戦いね。

 異種戦は人型以外に獣型や鳥型など、どんな形のタロスでも許されるわ。

大きさも10セムメル以上、3メル以下なら自由よ」


1セムメルは確か1cmだったな?

10セムメルと言うのは10cmという事か。


「それは面白そうですね」


シルビアさんの説明を聞いて、俺もかなりゴーレム大会が楽しみになってきた。

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