0149 ゴーレム展覧会
ついにゴーレム大会が始まる。
開会式はロナバール魔法協会の副本部長の挨拶から始まり、大会の説明となった。
その後で来賓の言葉でロナバール総督閣下が祝辞を述べる。
総督閣下を初めて見るが、人の良さそうな老人に見える。
しかしこの時の俺は、まさか後日この老人と友人の関係に、それも親友と言って良い仲になるとは思ってもいなかった。
ただお偉いさんが何か話しているなーという認識だ。
それが終わると、いよいよ大会が始まる。
説明によると、今年は節目の大会とあって、大会参加者が多いそうなので、早速戦闘部門の予選が始まるそうだ。
戦闘部門は競技場でいくつかに分かれて、芸術部門は屋内の会場で分かれて、それぞれ予選が行われるようだ。
エトワールさんが説明をしてくれる。
「戦闘部門の一回戦は正直言って、大した戦いはないわ。
組み合わせはほとんどが前回の中位以上の参加者と初参加者の組み合わせだから大抵は一方的に終わるのよ。
問題は2回戦以降ね。
芸術部門の予選はまだだから、今日の所は戦闘部門をざっと流して見ながら、展覧部門の方を見ましょうか?」
「そうですね」
エトワールさんの意見で、俺たちはまず展覧部門を見る事になった。
競技場ではすでに戦いが始まっているようだ。
歩きながらざっと見ていると、確かに戦いは一方的なようだ。
どうかすると相手が何も出来ないで終わる事すらあるようだ。
「さっきも言ったように戦闘部門の一回戦は経験者と初心者の組み合わせだから大した戦いにはならないの。
ちなみに何でそうするかというと、初心者同士の組み合わせにすると、下手をすると、両方とも動かないで終わってしまう事もあるからなのよ」
エトワールさんの説明に俺も納得する。
確かに俺も最初の頃はタロスをまともに動かせなかった。
一番最初のタロスなど全く動かせずにゴブリンにやられてしまった。
あの程度のタロスで参加をしてしまったら、どうしようもないと思うが、どうもそういう参加者が多数いるようだ。
それでは確かに経験者と組み合わせるのも仕方がない。
屋内の展示場へ移動すると、そこは大きな展覧場になっていた。
ちょうど有明の国際展示場のようだ。
「まずは公共展覧区画よ」
「公共展覧区画?」
「ええ、ここは国や各都市や町が自分の国や町の紹介を兼ねてジャベックを展示したりするわ」
「場合によっては、宣伝のために国や街がかなり力を入れて参加するばあいもあるわ」
「それこそ、その国や街が丸ごとくるみたいな感じね」
「へえ、国や街ごと?凄いですね?」
俺は前世に有明展示場で行われる「世界旅博」を見に行った事がある。
世界中の各国が自分の地元を宣伝したり、その国の特産物や食べ物の宣伝をしたりして中々楽しかった記憶がある。
エジプトの場所には大きなスフィンクスが飾ってあったり、トルコの場所にはトロイの木馬が飾ってあったりした。
そんなような物だろうか?
順番に見て回ると、なるほど様々な国や都市がジャベックを展示している。
中には国や街が持てる力を全て発揮して、ジャベックや地元の紹介をしている。
やはり特産物や食べ物の宣伝もしているようだ。
もっとも国と言っても小さな国の場合は、アムダール帝国の大きな町よりも規模が小さい場合が多い。
ちょうどアフリカの小国が、東京よりもはるかに規模が小さいのと同様だ。
俺が感心して見て回っていると、ずいぶんと大きな展示区画がある。
どうやらここはかなり大きな町か国のようだ。
「おや、次の展示区画はずいぶん大きそうですね?」
「あら、珍しい、これはメディシナーの公式展示区画だわ」
「え?メディシナーの?」
俺は思わずエレノアやペロンと顔を見合わせた。
「ええ、医療都市で有名なのよ、シノブさん御存知?」
「はい、知ってます。
ついこの間エレノアと一緒に行きましたから。
ペロンとも、そこで出会ったんです」
「そうなんだ?」
もちろん、メディシナーならば知っているどころではない。
ついこの間までエレノアと共に、中心部分まで深く首を突っ込んできた場所だ。
「それにしてもメディシナーが、なんでゴーレム展示会に出ているんでしょう?」
俺が驚いていると、シルビアさんが説明表示板を読んで説明をする。
「これは最近、メディシナーで開発された治療用ジャベックの見本展示で、実物を何体か持ってきているそうよ。
実際に希望者には、そのジャベックで治療も行うみたい。
それとメディシナーの宣伝も兼ねているみたいね」
ははあ・・・なるほど、あのエレノアの指示で作った最新の治療ジャベックの宣伝に来た訳か?
シルビアさんの説明にエトワールさんが思い出したように話す。
「そういえば最近、あそこの最高評議長が久しぶりに変わったって話があったわよね?」
「ええ、私もメディシナー本部の子からそう聞いたわ」
「それできっと新しい最高評議長の宣伝にでも来たのではないかしら?」
「ええ?」
それを聞いて俺とエレノアは驚いて顔を見合わせた。
誰だ?そんな企画をしたのは?
驚いている俺たちに声をかけてくる人間がいる。
「おう、グリーンリーフ先生とシノブにペロンじゃないか!
必ず来ると思って待っていたぜ!」
驚いて俺がその方向を見ると、そこにはよく見知った顔が立っていた。
「レオン!?」
「おや?レオン、久しぶりですね、こんにちは」
「久しぶりですニャ」
そこにはレオンが得意げに立っていた。
横にはマーガレットさんとハインリヒもいる。
「お久しぶりです。エレノア様、シノブ様」
「御無沙汰をしております」
二人が俺たちに挨拶をする。
「ああ、こんにちは、マギー、ハインリヒ」
「二人とも、久しぶりですね」
レオンは身を屈めて、ペロンの両手を取って、嬉しそうに踊る。
「はっはー久しぶりだな?ペロン?
元気にしてたか?」
「はい、元気でしたニャ」
そういやレオンとペロンは会った期間は短かったけど、お互いにえらい意気投合していたな?
確か祝賀会でも結構話し込んでいたし・・・
二人とも会えて嬉しいみたいだ。
「あら?お知り合い?」
嬉しそうにペロンと躍るレオンを見て、シルビアさんが俺に尋ねる。
「ええ、まあ」
俺が曖昧に返事をすると、レオンが挨拶をする。
「ああ、これはどうも、シノブのお友達の方々ですか?」
「はい、そうです。シルビア・ノートンと申します」
「私はエトワール・メッソンよ」
「なるほど、そちらの方も?」
レオンがミルキィに尋ねると、ミルキィは慌てて首を横に振って答える。
「とんでもありません!
私はシノブ様の奴隷で、ミルキィと申します」
「なるほど、でもシノブの奴隷なら友人みたいな者でしょう?
初めまして!
私はレオンハルト・メディシナーと申しまして、シノブとペロンの友人で、エレノア・グリーンリーフ先生の弟子でもあります。
今回はここの代表も務めております。
こちらはマーガレット・パターソンと言って、私の首席秘書官、こちらはハインリヒ・ベルガーと言って、私の護衛です」
レオンの説明で両脇の二人が頭を下げる。
レオンは俺やペロンの友人の部分よりも、エレノアの弟子の部分の方に力を入れて説明する。
「まあ、そうなんですか?
でも、メディシナーさんとおっしゃると、ひょっとしてメディシナー一族御関係の方かしら?」
「ええ、一応、現当主を務めております」
そのレオンの説明を聞いて、エトワールさんが驚いて俺に聞く。
「え?現当主?
メディシナーの御当主って言ったら侯爵様じゃないの?
シノブさん、あなた、そのメディシナーの当主の方とお友達なの?」
「ええ、まあ」
俺がまたもや曖昧に答えると、レオンが俺の肩をバシバシと叩いて話してくる。
「おいおい、何がええ、まあだよ!
シノブ!俺たちはマブダチだろ!」
そう言うと、レオンは俺の肩に腕を回してくる。
まあ、そうなんだけどね。
だけど、こうして堂々とメディシナー当主としているレオンと話すのは、何か恥ずかしいなあ・・・
「マブダチ・・・そうなんですか?」
シルビアさんも驚いて尋ねる。
「はい、こいつとはエレノア先生の下で、一緒に魔法の修行をした仲なんですよ。
その時に意気投合したって訳でして」
「へえ~エレノアさんって、メディシナーの御当主様に教えるほどの人だったんだ?」
「恐縮です」
エレノアが恐縮していると、今度はレオンが俺の背中をバンバン!と叩いて説明する。
「おら!シノブ!
お前が絶対に来ると思って、お前の作ったジャベックも持ってきたんだぞ!」
「あ、本当だ」
レオンの指差す方向には確かに俺が作った治療用ジャベックとペロリンがいる。
さらにその向こうにはたくさんの人に囲まれている、見覚えのあるジャベックがいる。
「あれ、あっちにいるのはレオニーさん1号じゃないのか?」
俺が今勝手に名づけた名前に、レオンがうなずいて答える。
「ああ、さすがに本人は来れないからな。
せめて自分の代わりにアレを連れて行って欲しいと頼まれたので、あれも第三から借りてきたのさ。
オーベルにずいぶんと渋られたけどな」
「なるほど」
俺とレオンの会話にシルビアさんが不思議そうに尋ねる。
「え?本人が来られないって?」
シルビアさんの疑問にレオンが答える。
「ああ、私の姉はレオニー・メディシナーと言って、現在メディシナーで最高評議長をしているので、流石にメディシナーからはあまり出て来れないんですよ。
今回は本人も結構来たがっていたんですがね。
それで今回はせめて自分そっくりの治療用ジャベックを代わりに連れて行って欲しいと頼まれた訳で、持ってきたのがアレな訳です。
ちなみにそれはエレノア先生が作ったジャベックです」
そのレオンの説明に、またもやシルビアさんとエトワールさんが驚く。
「ええ?御姉様が最高評議長?」
「最近、メディシナーで何かあって最高評議長が変わったって聞いたけど、あなたの御姉様なのですか?」
「ええ、少々ゴタゴタがあって、曽祖父が最高評議長を辞めて、姉が就任したんです」
「そうだったんですか?」
「ええ、それでそう言った事も含めて、世間様にメディシナーの事を良く知ってもらおうと、今回は急遽この大会に参加を決めたのですよ。
何しろ、最高評議長が変わったのも、ほぼ百年ぶりですからね。
ちょうど良い機会です」
レオンの話を聞いて、ミルキィが驚く。
「百年ぶり?!」
「ええ、曽祖父は60代の頃に議長になって、今や160歳半ばですからね。
実際には100年以上です。
歴代の議長の中でも最高評議長在位期間は問答無用の一位です」
「そうなのですか?」
「もっとも姉はまだ20代ですから最高記録を更新するかも知れませんがね?
私は楽が出来て良いですが、はっはっは」
しかし楽をしたかったレオンハルトの思いもむなしく、この15年後には姉から強引に最高評議会議長を押し付けられるのだった。
「ああ、そういえば姉さんが、お前とエレノア先生やペロンにもよろしくって言っていたぞ?」
「うん、レオニーさんも元気?」
「ああ、めちゃくちゃ忙しいけどな」
「そうだろうなあ・・・」
何と言っても帝国有数の大都市の最高指導者なのだ。
しかも就任したてでする事は山のようにあるはずだ。
「あら、シノブさんたちは御姉様とも知り合いなの?」
シルビアさんの問いにレオンが答える。
「姉は私と一緒にエレノア先生に魔法を教わっていたので、シノブとも兄弟弟子です。
その時一緒にシノブも教わっていましたから」
「え?メディシナー現最高評議長もエレノアさんの弟子なの?」
「いや?現どころか、先代最高評議長の曽祖父もエレノア先生の弟子ですよ」
レオンの言葉にエトワールさんも言葉がない。
「え?先代まで?エレノアさんって一体・・・」
「あはは、その辺も含めてうちの区画を見ていただければわかりますよ。
まあ、シノブも見たような物ばかりかもしれないが、ゆっくり見ていってくれよな!」
「ああ、そうするよ」
「グリーンリーフ先生もどうぞ、特に年表の部分を!」
「年表を?わかりました、レオン」
「面白そうですニャ」
「おう、ペロン、お前もじっくりと見てってくれよ」
「わかりましたニャ」
俺たちはレオンに言われてメディシナーの展示物を見始めた。
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