0147 アーサー100番の扱い

 俺たちがそのまま立ち去ろうとすると、アーサー100番が俺たちの前に回り込んで土下座して来る。


「お願いだ!助けてくれ!」

「諦めて故郷へ帰れって言っただろ!」


俺がそう言っても、こいつはしつこく頼み込んでくる。


「頼む!

 いや、お願いします!

何でもしますから!」

「ん?今何でもするって言ったよね?」

「え?それは・・・」


アーサー100番は少々困ったという顔をするが、今更遅い!

言質は取った!

ちょっと面白くなってきた。

さて、どうしてくれようか?

・・・とは言う物の、俺には男の体を撫で回す趣味はない。


仕方がないので俺は考えた。

うん、少々面倒だが、ここは本当に助けて、こいつに恩でも売っておくとするか?

後で何かの役に立つかもしれない。

しかし、助けるとは言っても、どうすれば良いだろうか?

単に金を渡すだけでは意味がないし、俺たちの事を変に周囲に吹聴されても困る。

それにこいつ自身の身にならなければ意味がないだろう・・・

俺はしばし考えてからある事を思いついて、アーサー100番に言った。


「ちょっとお前は、ここで待っていろ!

 俺は調べてくる事があるから!

皆もここで待ってて。

僕はアレクシアさんと話してくるから、エレノアたちはこいつと話していて」

「承知いたしました」


俺は受付に行って、アレクシアさんに尋ねる。


「アレクシアさん、ちょっと面倒な事なんですが、聞きたい事があるんですけど?」

「はい、何でしょう?」

「ここからある程度離れていて、三級の航空魔法位で、半日程度で往復できる範囲内の支部で、他の支部から隔絶していて、十級でも安心して修行が出来る場所で、しかも盗賊があまり出ない場所にある支部ってありますか?」

「そうですね?少々お待ちください」


俺の面倒な質問に、アレクシアさんは受付にあった地図のような物を広げると、何やら考え始める。

やがてしばらくすると、地図の一箇所を指差して俺に説明をする。


「・・・ここですね。

ここから南西のジリオ島のグローザット支部が、それに該当すると思います。

但し、名の通り島ですが・・・」

「島ですか?ああ、その方が都合が良いです。

そこならば盗賊とかも出ないで、安心して修行できますか?」

「そうですね。

 ここは迷宮があるので、そこそこの修行は出来るのですが、かなり大陸から離れている島ですから、あまり人が行かないのです。

ですから盗賊もあまり実入りがないのでほとんどいないし、そもそも島民のほとんどが知り合いなので、盗賊行為などしたらすぐに誰かばれてしまうので、ほぼいないようです。

しかし比較的大きな島ですし、迷宮もあるので、小さいですが、うちの支部が存在します。

一応、魔法協会も支部か分所のどちらかがあったはずです」

「なるほど、ありがとうございます」


それはまさに俺が求めていた条件だ。

俺はアレクシアさんに礼を言って、みんなの所へ戻るとアーサーに言った。


「おい!お前、俺たちの仲間になりたいと言ったな?」

「はい、お願いします!

ホウジョウ様!」


おや?

こいつ、俺がちょっと離れている間に、妙に神妙になって、言葉遣いまで変わったな?

一体どうしたんだろう?

ふと、俺がエレノアやミルキィを見ると、二人とも無言でよしよしという感じでうなずいている。

どうやら俺がアレクシアさんと話している間に、二人が何かこいつに教育をしたようだ。

俺は納得して話を続けた。


「だが、はっきり言って、今お前を仲間にしてやる事は出来ん!

しかし、お前にその気があるなら助けてやらないでもない」

「はい、どうかお願いします!」

「じゃあ、決まりだ。

すぐに出かけるぞ」

「え?どこに」

「いいからついて来い!

他に荷物はあるか?」

「いえ、ないです」

「そうか、ではまず所属変更からだ」

「所属変更?」

「ああ、お前はここで登録したんだろう?」

「はい、そうですが・・・」

「その所属場所を変更する。

グローザット支部だ!」

「グローザット支部?」

「ああ、そうだ」


俺はアーサー100番を変更届け窓口へ連れて行くと、強引に所属変更をさせる。

ここは所属変更の手続きや、職種変更、特技の追加などをする場合に申告する窓口だ。

アースフィア広域総合組合の組合員が根拠地を変える時は所属変更をする。

そうしないと、義務ミッションなどの引継ぎが出来ないからだ。

だが、アーサー100番は、ほぼ一文無しのようなので、仕方がないので変更手数料は俺が支払う。

手続きをしながらもアーサー100番は俺に問いかける。


「しかし、そんな場所は聞いた事がありませんが?」

「やかましい!お前何でもするんだろ?」

「はい!わかりました!」


アーサー100番は俺に命令されて、少々不服そうだったが、エレノアの方をチラリと見ると、即座に返事をする。

どうやら俺がいない間にエレノアに相当脅さ・・いや、教育された様子だ。

やっぱりエレノア怖えぇ~・・・

キュ~ン、キュ~ン・・・

僕は奴隷のエレノア様に忠実な主人なので、どうか見捨てないでくださいね?

あれ?何か俺の文章おかしいぞ?

まあ、いいか?


やがて所属変更手続きが終わると、アーサー100番が俺に報告をする。


「手続きが終わりました!」

「そうか、では行くぞ!」

「私達はいかがいたしましょう?」


そのエレノアの質問に俺は少々考えて答える。


「そうだね・・・何かの時に僕の代わりに行ってもらうかもしれないから、一応今回は全員で行っておこう」

「かしこまりました」

「じゃあ、僕の限界速度で行くから、悪いけどエレノアはミルキィとこいつを運んであげて」

「かしこまりました」


俺の限界飛行速度は現在亜音速に近い。

エレノア、ガルド、ラピーダの三人は俺よりも早く超音速の航空魔法で飛べるが、ミルキィは俺よりは遅いし、アーサー100番はもちろん飛べない。


「じゃあ、行こう!」


俺の言葉と共に、自分の体がフワリと空に浮かび上がると、アーサー100番が驚く。


「うわっ!これは?」

「集団航空魔法だ。

これで一気にグローザット支部へ行くぞ!」

「ええっ?」


有無を言わさずにアーサー100番を連れて俺たちはグローザット支部へ向かう。

ジリオ島はさすがに遠く、距離が1000カルメル以上あったので、音速に近い俺たちでも1時間以上はかかった。

やがてジリオ島らしき物が見えてくる。

俺がエレノアに魔法念話で尋ねる。


《あれがジリオ島だね?》

《はい、そうだと思います》

《港がある一番大きな町がグローザットなはずだから、そこの組合支部に降りよう》

《かしこまりました》


速度を緩め、上空から組合らしき建物を探し、そこへ俺たちは着陸をする。

その建物には「アースフィア広域総合組合 グローザット支部」と書いてあるので間違いないようだ。

ようやく地表に降りて安心したアーサー100番が呆然として話す。


「ここは一体?」

「ここはジリオ島のグローザット支部だ。

近くに迷宮があって、ちゃんと修行も出来る。

アーサー100番、いや、もう面倒だからお前の名前は100番にするぞ!」

「え?そんな・・・!」


俺の命名に100番が情けない顔をするが、俺は強引に通す。


「やかましい!

お前、何でも言う事を聞くっていっただろ!

それにこれだけお前の世話をしてやっているんだ!

それ位我慢しろ!」

「は、はい」

「いいか?よく聞け!100番!

ここは盗賊も出ないし、初心者用の迷宮も近くにある。

お前のような初心者の修行には持って来いの場所なんだ。

だけど、大陸から離れているから、あまり迷宮探索者も来ないんだ」

「なるほど」

「だからここならお前でも十分やっていけるはずだ」

「しかし、義務ミッションの期限が・・・」

「それも分かっている!

まずは、ここの迷宮に行くぞ!

俺が少々お前に稽古をつけてやる!

ついて来い!」

「はい、よろしくお願いします」


俺たちは迷宮に入ると、100番を連れて容赦なく進んでいく。

ここの迷宮は地下10階まであるらしいが、とりあえずその5階まで突き進む事にした。

もちろんこんな迷宮は俺たちにとってはどうという事はないが、100番は恐れおののいたようだ。


「お、おい!ちょっと待ってくれ!

いや、待ってください!

こんな強い魔物がいる所は無理です!」

「大丈夫だ!

ちゃんと俺たちが守ってやる!

お前は戦わなくても良いから、この迷宮の雰囲気だけでも感じ取れ!

今後のために、何階でどういう魔物が出るか、よく覚えておけ!」

「は、はい」


こうして俺たちは迷宮の魔物を片っ端から倒して地下5階まで降りて、再び地上へと戻ってきた。

ちょうど地下5階のボス部屋にミノタウロスがいたので、それを倒して地上へ戻る。

ただ見ていただけとはいえ、さすがに100番はヘトヘトのようだ。

しかし迷宮から出てくると100番のレベルは20となっていた。

いくらロナバール周辺で戦ってもレベルが上がらなかった100番は、いきなりレベルが20になって驚いたようだ。


「これは・・・」

「どうだ?これで、お前も義務ミッションをこなせるだろう。

後はお前次第だ。

一応最後の確認をするぞ!」

「え?」


俺たちは100番を迷宮近くの森へ連れて行き、大サソリを探す。

大サソリが出てくると、100番に何回か戦わせる。

さすがにレベル20だけあって、大サソリは楽に倒せるようだ。

他の魔物も森の魔物程度なら何でも一撃で倒せるのを確認して俺は100番に話す。


「どうだ?これなら義務ミッションが2ヶ月分あっても残りの日数でこなせるだろう?」

「はい!ありがとうございます!」

「それとこれは俺からの餞別だ」


そう言って俺は普通の鋼の剣と、大銀貨5枚を100番に渡す。


「これは・・・」

「お前は鉄の剣しか持っていないんだろ?

迷宮の深い辺りに行くと、それじゃちょっと危ないだろうからな。

それと今お前は金無しみたいだが、大銀貨が5枚もあれば、当座は凌げるだろう?

だから義務ミッションに励め!」

「はい、ありがとうございます!」

「後はここでしばらくの間修行をしていろ!

まずは5階のミノタウロスを自力で倒せるようになる事だ。

そうすれば、まともな組合員になれるだろう」

「そうですね」

「たまに俺か、ここにいる俺の仲間がお前の様子を見に来るからな!

 もしこれからお前がまともに修行をして、中級者上位程度になれば、仲間にするかどうか考えてやる!

だが逆に俺たちの誰かが様子を見に来た時に、お前がこの支部にいなかったり、修行をサボっていたら、もう俺たちの仲間になる事は決してないと思え!」

「はい、わかりました」


そして俺は一応これまでの経緯があるので、100番に釘を刺す。


「いいか?

まじめに修行をしろ!

小賢しい事を考えるな!」

「はい、もちろんです」


そう言うと俺たちは100番をグローザットに置いてロナバールへと帰った。

家へ帰ったミルキィが心配そうに俺に尋ねる。


「あの人はちゃんと修行をするでしょうか?」

「それはわからないね。

だけど俺たちは出来る限りの事を、いやそれ以上の事をあいつにしてやったんだ。

後はあいつ次第だね」

「そうですね」

「ええ」


俺の言葉にエレノアとミルキィもうなずく。

こうして俺たちは突然知り合ったアーサー・フリード100番をジリオ島に置いてきたのだった。

今後まともに修行をして俺たちの仲間になるかどうかは100番次第だ。

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